【21】天空城の宿営地
「酸素マスクが必要なわけだ! しっかし楽しいいいいいいいいいいいいい!!」
ゴーグルと酸素マスクの下、終始、凪早ハレヤはニコニコ顔だった。少し身体を傾けただけで、風を切り裂きスイーッと斜めに流れていく。
その身体を風に叩きつけるようにグイッと持ち上げると、大きな円を描いて真横に旋回した。
「いやっっっほおおおおおうぅぅぅっ!!!! すっげええええええええ!!!」
今まで体験したどんなアトラクションよりも爽快だった。凪早ハレヤは派手な曲芸飛行を楽しみながら、ビュンビュンと雲を切り裂き飛んでいく。
徐々に高度を下げているはずだが、それ以上に推進力が凄かった。
「いったい、時速何キロ出てるんだあああ? まさに人間ミサイルだぜえええええええ!!」
「『ミサイルじゃダメだから……』」
ヘッドセットの向こうで、蔦壁ロココが呟く。
すでに視界の先には盆地が広がっている。その向こうから、盆地を囲う西側の山脈がグングンと近づきつつあった。
「うっひょおうっ! 見過しちゃったりしてないかな!?」
少し高度を下げようと、凪早ハレヤが身体を斜めに倒す。地表に向かって滑るように身体を走らせながら、辺りを見渡してみる。
「おおおおっ! 発見!!!」
右斜め前方、森の中に木々が引き倒されて土が剥き出しになった場所があった。そこに斜めに傾いて、突き刺さったような社が目に映る。
ミュリエルがバグ玉の情報探知をした時に見えた、あの天空の社だ。
その横には、白いテントが整然と並んでいるのが見て取れる。
よく見ると、周りの木々は葉を落とし、枯れ始めているようにも見受けられた。テントが立ち並ぶの周囲の土をジリジリと陽光が焦がし、陽炎が立っているようにも見えた。
「きっとアレだあああああああああ!!!」
「グイイイン」と身を捩りながら、そちらの方へと近づいていく。すると、その大きな社の周りで、「ボン、ボン」噴煙が上がった。
「敵襲ーーーーーーっ! 敵襲ーーーーーーっ! 攻撃を受けてるぞ!」
「『ホントに? 凪早くん、映像をお願い』」
「オッケイ! ────光に導かれし浮遊力 バグ玉制御!解除ォゥ!!」
瞬間、フワリとした浮遊力を感じるが、なかなか滑空速度が落ちる気配がない。むしろ、風の抵抗を受けて上昇し始めているようだった。
「上昇しちゃダメだ! これでどうだ!!!」
グイッと背筋を反らせて身を起こす。風の抵抗を全身に受けて上昇してしまうが、徐々に推進力が衰えていく。
「ぶひいいいいいいいいいおもすれええええええええええええええええ」
しばらくすると、抵抗がグッと弱まって、フワッと開放されるように動きが止まった。
「あはは、ちょっと泳いで降りて、っと」
呑気に呟きながら、凪早ハレヤは天空城に向かって泳ぎ始めた。
「『彌吼雷さま、天空城は……宿営地は無事でございますか?』」
ヘッドセットの向こうから小さく、雨巫女髻華羽の心配げな声が聞こえて来る。
「ちょっと待ってね〜……あ〜、囲まれてるわ」
ゆっくり泳ぎながら、腹部についた大きなポケットを開けて望遠鏡を取り出してみる。
「でっかいゾウみたいなのが、突進してる……んああ、でもなんか、半透明のバリアみたいなのが食い止めてんね」
「『天空城の防護シールドにございますね。紅梨沙理と真茱鈴、流那鈴がきっと制御を……』」
心なし、雨巫女髻華羽の声が安堵の色を帯びている。
「映像送るよ、蔦壁」
「『うん。いつでもいいよ』」
宙にフワフワ漂いながら、腹部のポケットからスマホを引っ張り出す。
「カメラに望遠鏡当てて〜……おお、ピントばっちりじゃ〜ん。見えてる、蔦壁?」
「『うん、大丈夫』」
「『おお、なんと便利な! 手に取るように分かりますな!』」
ヘッドセットの向こうから、霧冷陽が驚嘆する声が聞こえる。凪早ハレヤは、ゆっくりとスマホを動かして、魔人軍の配置などを映していく。
魔人軍は、天空城を横から取り囲むように、半円状に隊列を成していた。ほとんどは槍を携えた小鬼兵。それに加えて、大鬼兵と三眼の巨ゾウが前線に立ち並んでいた。
「『あれは三眼黒妖象ね……あんなものまで呼び出してるなんて……』」
「強敵なのかな?」
「『皮膚が厚く、体力があるから、普通の武器では倒せないわ』」
「なっるほどね~」
中央後方に、本隊らしき一団も見える。その左右、隊列の一番後ろには、投石機のようなものが10台ほど控えていた。
今は三眼黒妖象と大鬼兵が一斉に、防護シールドに向かって突進を繰り返している。大鬼兵はトゲトゲの棍棒や大斧を振るっているが、なんとか防護シールドは持ちこたえているようだった。
それに対し、杜乃榎軍は、防護シールド内で槍を構えて待ち構えている。一列10人ほどで縦長の隊列だ。数は200か300といったところだろう。防護シールドを破られれば、あっという間に魔人軍に雪崩れ込まれそうなほど、危うい状況に見えた。
その隊列の先頭に、男が一人、長銃のようなものを肩に担いで仁王立ちしている。
「あんなとこに一人で、すっげえ度胸だな。……しっかし暑っちい〜〜」
涼し気な風が吹いてくるのに、スマホを構える凪早ハレヤの額から汗が吹き出てくる。熱気は上からではなく、下から立ち上ってくるように感じられた。
「『今のところ、膠着してるみたい。魔人軍は総勢……1000ぐらいかな? 相手にするには多すぎると思う。魔人軍に気付かれないように、天空城へ入城できる?』」
「んああ、やってみるよ……あ」
頷く凪早ハレヤの目の前で、魔人軍の後方に控えていた大きな投石機が動き始めた。
「あっちゃあ〜、大丈夫かな」
見ている間に、投石機にいくつもの岩が設置されていく。そして、投石機から岩が放たれると、バラバラと撒き散らされた岩が炎を纏って天空城の防護シールドへと降り注いだ。
「……破られてる! 投石機の岩に!」
炎に包まれた岩のいくつかが、防護シールドを突き抜けて杜乃榎軍の左側の一団を打ち崩した。隊列は乱れ、周囲の兵たちに動揺が走るのが、凪早ハレヤの目にも明らかだった。
そして間髪を入れず、魔人軍は投石機に次の岩を設置し始めていた。
「また撃たれる!……見てらんないや。ちょっと一発かましてくる!」
「『無茶はしないで、凪早くん!』」
「今は無茶する時さ!!!」
凪早ハレヤは素早く弓を構えると、弦を引き絞った。
「バグ玉制御発動! 凪早ハレヤ、空爆行っきまぁぁぁぁぁぁす!!」
ビュンと風を切り裂いて、魔人軍の包囲網めがけて滑空し始める。
「レベルアップしたスキルをお見舞いするぜ! ────9way散弾!!」
横に構えて引き絞る弓の上に、9本の光の矢が現れる。電撃がビリビリと迸り、ゴーグルの照準が緑から赤に切り替わる。
「行っけええええ!!」
ヒュンとばかりに弦を解き放つと、「ズドーーーン」と9本の稲妻が空を切り裂いた!
突然の空爆に、魔人軍に動揺が走るのが見て取れた。最前線の三眼黒妖象たちがいななきをあげ、大鬼兵がうろたえている。後方の隊列では、手に槍を構えた小鬼兵たちが、慌てふためきながら天を見上げていた。
「ヒャッハアアアアアアアアアア! これが正義の鉄槌だああああああああああ!!」
バグ玉制御を再び解除して上昇する凪早ハレヤ。
「まだまだ行くぜええええええええ!!! バグ玉制御発動!!」
弓を横に構え、すぐに降下し始める。
9way散弾を魔人軍めがけて解き放つと、整然と並んだ魔人軍の隊列が散開し始めた。てんでに背後の森の中へ駆け込んでいく。
「イヤッほおォォォォォォい!!! まだまだ覚悟しろよ!!!!」
再び上昇すると、すぐさま空爆体勢に移る。見ると、隊列の乱れた魔人軍の真ん中に鎮座する本隊と思しき一団が、透明なシールドを展開させていた。
「防護シールドかな? やはりあれが本隊だな!!」
他よりも豪華な飾りのついた戦車に乗った赤髪の仮面男が、凪早ハレヤに構う様子もなく、真っ直ぐに天空城を見据えていた。紫色の忍者服のようなモノをまとい、真っ赤な長髪を風になびかせている。顔には、口元だけが開いた黒い仮面をつけている。
その周りには、『巫女の修験場』でも見かけた黒套呪術師たちが整然と立ち並んでいた。
ニヤリと笑うと、凪早ハレヤはその一団に狙いを定めた。
「余裕綽々のその一団! 渾身の剛射をお見舞いしてやるぜ!!!」
ギュンと真っ逆さまに落下体勢に入ると、グンと弓を引き絞った。
「────怒れよ『古風な純心乙女』! 剛射!」
ゴーグルに映る照準を定め、キリキリと弦を引いていく。照準の三角マークがピタリと止まり、剛射のMAXパワーが溜まると、発射の時を待ちきれない様子でバリバリと電撃が四方に走り始めた。
そして照準が緑から赤に変わる!
「フルパワーでぶっ飛ばす!!!! 行っけえええええええっ!!!」
ビュンとばかりに弦を解き放つと、動じる様子のない一団めがけて雷鳴が轟いた。
ドオオオオオオオオオン!!!
ものすごい爆音が上がり、周囲にいた小鬼兵たちが粉塵とともに弾け飛ぶ。
「命中うううううぅぅぅぅっ!!!! バグ玉制御解除!!!」
勝利の余韻に酔いしれながら、大空へ舞い上がろうとしたその時だった!!
「ズドン!」と音が響いてすぐ横を火の玉が駆け抜けた!
「うわっとっとおおおおおっ!!?」
驚いて身を翻した反動で、上昇体勢が大きく揺らいだ。
その脇を幾つもの火の玉がビュンビュンと飛んで行く。
「うええええええっ! 効いてないのか!?」
噴煙が晴れると、防護シールドの一団が姿を現した。火の玉を撃っているのはやはり、黒套呪術師たちだ。
それぞれの頭上には、小さな黒い渦が渦巻いているのが見て取れる。
強敵現る!




