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浮遊力に取り憑かれたら何かと捗った  作者: みきもり拾二
◆第二章 彌吼雷に、俺はなる!
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【20】彌吼雷の翼


「うっへえ、なんだこれ〜?」


 バグ玉制御を発動し地表に降り立った凪早(なぎはや)ハレヤが、『彌吼雷(ミクライ)の翼』を纏ってクルリと回ってみせた。

 まるでムササビのように、手足に掛けて皮膜が付いており、背中には飛行機の翼のようなものが取り付けてある。スカイダイビングの一種で使用されるスカイスーツのような装備だ。

 しかし動力の類はひとつも付いていない。

 おまけに密封性が高いせいか、蒸し暑い。すでに凪早ハレヤの背中や首筋には、ジワッと汗が噴き出してきていた。


「似合ってるよ」


 苦笑交じりに蔦壁(つたかべ)ロココが笑う。


 それは『巫女の修験場』に保管されていた『彌吼雷の秘蔵品』のひとつだ。ここまで霧冷陽(ムサビ)が担いで運んできていたあの漆塗りの木箱の中身である。

 蔦壁ロココは昨晩、凪早ハレヤが寝むりこけている間に読んだ書物でこのことを知ったという。


 他には『彌吼雷の遠眼鏡』『彌吼雷の酸素マスク』も一緒に収められていたそうだが、『彌吼雷の剣』と『彌吼雷の鉾』が無くなっているという話だ。


「お腹のポケットに『アマノフナイト』と呼ばれる霊鉱石を入れて浮遊した、って記述があったの」

「へえ〜、そうなんだ。しっかし、これでホントに速く飛べるのかな?? エンジンもプロペラも付いてないけど?」

「凪早くんの浮遊力で上空高くまで上がって、バグ玉制御を発動すれば、そこから滑空できると思うの」

「あああ、そっかそっか〜! 止まるときはバグ玉制御解除すれば止まるかな?」

「たぶん、そうだと思う」

「うっひゃああ、楽しそう! 早速行ってくる!!!」

「待って、焦らないの」


 今すぐにも飛び出しそうだった凪早ハレヤを、蔦壁ロココが引き止める。


「凪早くんにお願いしたいことは2つ。よく聞いてね」

「ああああ! 確かに、何すれば良いか分かってなかった!!」

「でしょ。まず1つ目にやってもらいたいことは、『宿営地周辺に魔人の軍がいるかどうか』の偵察。いた場合は、望遠鏡とスマホで、現地の映像を送ってほしいの」


 言いつつ、蔦壁ロココが『彌吼雷の望遠鏡』を手渡した。


「わたしたちの連絡専用SNSアプリなら、カメラからの映像をそのまま送れるから。必要なデータはこちらでスクリーンショット撮るから、凪早くんは映像だけ送ってくれれればいいの」

「おおお、なっるほどね〜。蔦壁は賢いな!」

「それと、2つ目にやってもらいたいことは『天空城への入城』」

「おおおおっ、了解! 彌吼雷、我が城に帰還せり、ってね!!!」

髻華羽(ウズハ)さん、天空城の責任者は、紅梨沙理(グリサリ)さんて人でいいの?」

「……そうでございますね。紅梨沙理(グリサリ)か、午羅雲(ゴラクモ)のどちらかで大丈夫でございます」

「紅梨沙理さんか、午羅雲さんね?」

「はい」

「じゃあ凪早くん、天空城に入ったら、紅梨沙理さんか午羅雲さんを探して。ヘッドセットで、髻華羽さんと話をしてもらえば話も早いと思うから」

「そうだね! 了解!」

「もし可能なら────そのまま、天空城を浮上させちゃいましょ」


 蔦壁ロココの言葉に、胤泥螺(インディラ)霧冷陽(ムサビ)が「おお」と感嘆の声をあげた。


「天空城さえ復活せしめれば、魔人の脅威を大いに削ぐことができましょう」

「事、急を要するとなれば、これしか方法が無いと思うの」

「いや、仰るとおりじゃ! ワシは従者殿の案に丸乗りしますぞ!」

「拙者も異議はござらん。彌吼雷殿であれば、仮に魔人軍が包囲していたとて、宿営地の防備もお任せできる」

「いやっは〜〜、俺ってすっごい信用されてる?」

「どうかお願い致します、彌吼雷さま」


 雨巫女髻華羽が胸のあたりでそっと手を組んで、潤んだ瞳で凪早ハレヤを見つめる。

 その視線に、奮い立たずにはいられない。


「オッケイ、任せといてよ!! この彌吼雷こと凪早ハレヤ、今こそ一世一代大勝負の時!!!」


 グッと拳を握って見せる凪早ハレヤに、雨巫女髻華羽たちが力強く頷いた。


「わたしたちは、強行軍という程でもなく前進しましょ。事と次第によっては速度を上げないといけないかもだけど、スマホからの現地映像があれば、兵の人たちも理解しやすいと思うし」

「あい分かった! 兵たちの指揮は任せられよ」

「いざとなればこの胤泥螺、単騎でも乗り込みましょうぞ」


 二人の言葉に、蔦壁ロココが頷く。


「じゃあ凪早くん、お願いね。あ、酸素マスクもちゃんと付けてね」

「了解!! ワクワクしちゃうね!!!」


 凪早ハレヤは腰についているファスナー付きの大きなポケットにスマホと望遠鏡を押し込むと、手早く酸素マスクを取り付けた。


「あ〜、あ〜。蔦壁、ちゃんとヘッドセットから声聴こえてる?」

「うん、モゴモゴしてるけど大丈夫」

「よっし! じゃあ早速行ってくる!!」

「待って待って、あとひとつだけ」

「えええっ、なにさ〜?」


 今にも飛び出して行きそうな凪早ハレヤを、再び蔦壁ロココが呼び止めた。


「もしかしたら戦闘になるかもしれないでしょ?」


 そう言って錫杖をクルリと回して両手に構えた。


「おおお、そっか! たしかに!」


 蔦壁ロココはクスリと笑うと、詠唱を始めた。



「暗雲満ちる月 欲念漂う凍夜(とうや)水面(みなも)


  暗鬱(あんうつ)なる濁流に浮かぶ 非業(ひごう)闇火(やみひ)よ────


 すべての(ことわり)を嘲笑い 凶暴にして粗暴なる力を示せ!


 ────エンチャント・アタックパワー!


 ────エンチャント・サンダー!」



 凪早ハレヤの足元から光が溢れる。


「よっし! 今度こそ行ってくる!!!」


 親指をビッと立て、満面の笑みを浮かべる。そして、胸の前で腕をクロスさせた。



「何人たりとも寄せ付けぬ 処女宮に集いし乙女の宝華よ!


  我が手に 陽春の温もりが如き たわわなる実りをもたらさん!


 ────光に導かれし浮遊力 バグ玉制御!解除ォォォゥ!!」



 凪早ハレヤの周囲でフヒュウと光が舞い上がり、フワリとその足が地表から離れる。


「アァァァァンド!!! 急・上・昇!!!」


 凪早ハレヤの心の奥底で、何かがギュルルと渦巻いて、ブルンと身体が震えた。


「ヒャッハーーーーー!! 行くぜえええええええええええええええ!!!」


 絶叫とともに、「ビュン!」と風を切り裂いて、急上昇し始めた。

 まるでロケットの打ち上げだ。『彌吼雷の翼』のおかげか、身体のバランスが安定して真っ直ぐに上空へと飛んで行く。


 凪早ハレヤの身体はグングンと加速して、一気に雲の上まで突き抜けた。


「────光に帰れ! バグ玉制御!発動ォゥッ!」


 凪早ハレヤが叫ぶと、すぐに上昇速度が落ちていく。


「うっひょお! 旋回!」


 クルリと身体をくねらせ斜めに身体を倒すと、滑るように円を描いて旋回し始めた。


「ええっとぉ、山を背にして海に向かうんだっけ?」


 大きく旋回しながら、自分の向かっている方向を確かめる。ちょうど、降りてきた山々が連なるのを、進行方向に見ている。その峰の向こうは、東に緑深い平原が、南は砂地の覗く荒原が広がっていた。

 そして南に広がる山脈が、北西へと連なっていくのが見て取れた。


「よっし! こっちだあああああああああああ!!!」


 向かう先を見定めると、身体を真っ直ぐにして滑空を始める。一瞬にして雲が後ろへと駆け抜けて、「ゴオオオオオオ」と風を切り裂いた。


「ヒャッホオオオオオウゥゥゥ!!! 行っけええええええええええ!!!」


 歓喜の声を上げて凪早ハレヤの身体が宙を滑っていく。



「────どうやら、ちゃんと正しい方向に向かって飛んでいったみたい」


 上空高く、点になった凪早ハレヤが円を描いた後に滑空していく姿に、下から眺めていた蔦壁ロココがホッと一息ついた。


「なんという力じゃろうな! あれこそ彌吼雷よ」

「まさしく、我らが希望の光」


 同じく、地表から見上げていた霧冷陽と胤泥螺も、感嘆の声を漏らした。


「彌吼雷さまに、天のご加護を」


 二人の横で、雨巫女髻華羽がそっと目を閉じて祈るように呟く。


「行きましょう、わたしたちも」


 蔦壁ロココの言葉に、雨巫女髻華羽と胤泥螺と霧冷陽が頷いて、兵たちの方へと踵を返した。






ヒャッハー!すね。

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