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浮遊力に取り憑かれたら何かと捗った  作者: みきもり拾二
◆第二章 彌吼雷に、俺はなる!
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【19】宿営地からの使者

胤泥螺(インディラ)さま、霧冷陽(ムサビ)さま!」


 皆が炎天下に汗を拭う中、突然、隊列の前の方から兵士の大声が聞こえてきた。


「どうした? 何用じゃ?」

「て、天空城宿営地より使者が参りましてございます! ですが、息も絶え絶えに!」

「なんと!?」


 胤泥螺と霧冷陽がすぐさま行軍の先頭へと駆けて行く。


凪早(なぎはや)くん、わたしたちも様子を見に行きましょう」

「ほいよ〜」

「わたくしも参ります」


 雨巫女髻華羽(ウズハ)蔦壁(つたかべ)ロココは、近くにいた兵士に馬の手綱を任せると、すぐに馬から飛び降りた。


 凪早ハレヤは一足先に、スイーッと宙を泳いでいく。


 隊列の先まで来ると、一人の兵士が地面に横たわっていた。その横で胤泥螺と霧冷陽が跪き、兵士の胸に手を添えている。周囲を取り囲んだ兵士たちは、皆うなだれていた。

 凪早ハレヤが宙から覗き込むと、横たえられた兵士はすでに息絶えた様子だった。


「いかがですか、胤泥螺、霧冷陽」


 慌ただしく、雨巫女髻華羽が駆けつける。胤泥螺と霧冷陽が同時に振り返るが、ゆっくりと頭を横に振った。

 二人はそっと立ち上がると、雨巫女髻華羽にその場を譲る。雨巫女髻華羽は沈痛な面持ちで兵士の横に跪くと、腰から神楽鈴『御譜音(ミフネ)』を抜いた。


 目を閉じ、神楽鈴をシャンシャンと小さく振りながら、哀悼の言葉を紡ぎだす。


「────清らかなりし聖なる泉に湧く水に、あまたの峠を越ゆる力を

 汝、天空に赴きし時は、雨粒となって大地の乾き、心の闇を潤さん────」


 周囲では誰もが皆、(こうべ)を垂れ、拳を胸に当てていた。凪早ハレヤと蔦壁ロココもそれに習って、そっと胸に手を当てる。


 やがて、ポツリ、とどこからか雫が落ちて、横たわる兵士の胸を濡らす。その雫はジワリと広がって、やがて兵士の全身を覆っていった。


 しばらくの沈黙の後、ゆっくりと雨巫女髻華羽が腰を上げる。


「この者も連れて行きますか?」

「いえ、ここに埋葬して行くほうがよいでしょう」

「ならば埋葬を始めてくださりませ」


 霧冷陽が顎をクイッと動かすと、兵士たちは押し黙ったまま、使者の遺体に手をかけた。



 ◆



「これを携えてきたそうじゃ」


 霧冷陽(ムサビ)が土埃まみれの書状を、雨巫女髻華羽(ウズハ)に差し出した。


「文字からすると、紅梨沙理(グリサリ)からでございますね」

「そのようじゃ」


 雨巫女髻華羽はそっと受け取ると、丁重に書状を広げた。



「『緊急にて、使いを出す次第にございます。

  一月ほど前より、激しい炎天のため、天空城宿営地にて渇水が発生しております。

  加えて、皇都からの兵糧輸送が途絶え、厳しい状況となりつつあります。

  また、宿営地周辺にて怪しい人影の報告もございます。

  おそらく、魔人の手の者が迫っているのでしょう。

  つきましては、修験場の水・兵糧・兵を宿営地に回して頂きたく。

  事、急也と思う次第にございます。   紅梨沙理』」



 手紙の内容に、一瞬、その場がしんと静まり返る。


「……すでに、魔人の軍が宿営地まで迫っておるか」

「宿営地の兵の逃げ場を失くし、水や兵糧が枯れるのを待っているのでござろう」


 胤泥螺(インディラ)の言葉に、雨巫女髻華羽が真っ青になる。


「あそこには、巫女見習いの真茱鈴(マジュリン)流那鈴(ルナリン)もおります。なんとしても助けねば」

「少なくとも一月前には囲まれておらなんだわけじゃ。案ずるな雨巫女よ。整備隊の午羅雲(ゴラクモ)もおる。宿営地の防衛がすぐに崩壊することなどなかろうて」

「しかし我らとて、兵糧は足りておらぬ。水は髻華羽殿のお力でなんとかなるであろうが」

「ふむ。宿営地に向かわば、状況も好転しようと思うたがのお……」

「みんな、なんでそんなに神妙な顔つきになってんの?」


 宙からの呑気な問いかけに、手紙を見つめていた三人が一斉に顔を上げた。


「この手紙は、事態が急に瀕する前にと、紅梨沙理がよこしたものじゃ。じゃがしかし、使者は明らかに何者かによって傷を受けておる」

「魔人現るところ、厄災あり────。局所的な『炎天』『濃霧』はその(たぐい)と言い伝えられております。紅梨沙理、真茱鈴、流那鈴の精霊力を持ってしても、その炎天の前に渇水を止めることが出来ぬということでございますれば……」

「魔人の軍……いいえ、最悪の場合は魔人そのものがすぐ近くに迫っている、というわけね」

「さようにございます」

「すでに宿営地は壊滅状態にあるやもしれぬ」

「これ、胤泥螺」


 叱責する霧冷陽を、胤泥螺がキッとばかりに睨み上げる。


「最悪の事態は常に想定すべきでござろう?」

「ふん、手の打ちようのない事を考える必要もなかろうて。頭を使うべきは……」

「決して無駄ではござらん! 大惨事を目にしても動じぬ……」

「おやめくださりませ」


 雨巫女髻華羽の制止に、二人が押し黙る。重苦しい雰囲気が、一同を包み込んだ。


「そいつらをぶっ飛ばすしか無いね! 行こうぜ、俺たちの未来を切り拓きに!」


 沈痛な空気を引き裂いて、凪早ハレヤがビッと親指を立ててニコッと笑った。


彌吼雷(ミクライ)さま……そう、彌吼雷(ミクライ)さまならば、天空城を浮上させ、魔人の軍を薙ぎ払えましょう!」

「へ? 何の話?」

「ふむ……『その者、彌吼雷。すべての物を浮遊させる力を持つ者なりけり』じゃったかの?」

「『彌吼雷入城せしめば、蒼天の雷鎚(いかづち)これに付き従わん』……かようにも言い伝えられてござる」

「天空城には『彌吼雷の間』と呼ばれる一室があるのでございます。そこに入りますれば、きっと何かが起こりましょう」


 凪早ハレヤを見つめる三人の眼差しが、まるで救世主を見るかのようにキラキラと輝いていた。


「そっかぁ、俺の城ってわけね! じゃあ決まり! さっさと行こうぜ!」

「待って」


 困ったような顔をしながら、蔦壁ロココが押し止める。


「髻華羽さん、胤泥螺さん、霧冷陽さん。ひとまず、ここで休憩にしましょう。兵士さんたちもこの強い陽射しで疲れてるみたいだし。それから、わたしたちはちょっと、作戦会議を」


 蔦壁ロココの言葉に、三人は黙って頷いた。



 ◆



「どんなに強行軍でも山を下るに半日、宿営地までの平地を半日じゃ。まあ、丸1日はかかろうて」


 地図を広げて、霧冷陽(ムサビ)が現在位置と天空城墜落地点を指し示す。


 杜乃榎(とのえ)国は四方を山に囲まれた盆地にある。『巫女の修験場』は南東の山際、『天空城の宿営地』は南西の森の中にあった。

 皇都(おうと)は中央やや北側の、久地(くち)湖と呼ばれる大きな湖のそばにある。


「じゃあ、使者の人が出たのは2日前ぐらいになるの?」

「うーむ、どうじゃろう。馬を飛ばせば半日と少しで来れるはずじゃが……問題は、どこで魔人の手の者に襲われたか、じゃろうな」

紅梨沙理(グリサリ)さんが手紙を書いた時には、まだ包囲されてないはずだから……もし、攻撃を受けているとしても、長くて丸1日ほどでしょうね」

「うむ、妥当じゃろう」

「持ちこたえられていると思う?」

「天空城には防護シールドもございます。『魔術による水の確保』『天空城の防護シールド展開』のために、紅梨沙理に巫女見習いの真茱鈴(マジュリン)流那鈴(ルナリン)の三人がついておりますゆえ」

「その防護シールドが持っていれば、大丈夫ってことね?」

「はい」

「しかし、兵糧が足りておらぬでは……」

「そうね。持ち堪えられる期間も短くなると思う」

「強行軍にて1日かかるを半日にするしかなかろうて。兵を失うが辛いはもちろんのこと、今、天空城を失わば、魔人に対抗する術すら失われるのじゃからな」


 再び、雨巫女髻華羽(ウズハ)胤泥螺(インディラ)霧冷陽(ムサビ)の三人が、沈痛な面持ちになる。


「大丈夫、凪早(なぎはや)くんならきっと、1刻もかからず辿り着けるから」


 蔦壁(つたかべ)ロココの言葉に、三人が顔を上げる。呑気に宙を漂っていた凪早ハレヤも、びっくりして飛び上がった。


「ほえっ!? 俺、そんなに速く泳げないけど?」

「大丈夫。ね、霧冷陽さん」

「……おお! そうであった!」


 蔦壁ロココの意図をようやく理解したように、霧冷陽がポンと手を打つ。


「『彌吼雷の翼』じゃな? 一日で千里を飛ぶという」





急転直下で一気に天空城墜落現場までGO!っすね。

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