【16】フルバレットブースト
「彌吼雷が現れたとあっては魔人恐るるに足りぬ! 心を惑わされし我が兵らよ、目を覚ますなら今の内じゃぞ!」
「ロココさま、わたくしの『御譜音』が寝屋にございます。それを手にすれば、わたくしも魔人の魔力を打ち祓うことができます!」
「うん、行きましょ。髻華羽さんの護衛はわたしに任せて、胤泥螺さんと霧冷陽さんは本堂敷地内の掌握を!」
「承知! 老霧冷陽、惑わされし杜乃榎兵には峰打ちを! 小鬼兵には鉄槌を!」
「おうよ! ハハハハ、胤泥螺とこの霧冷陽の手に掛かれば、不可能にあらずじゃ!」
「参る!」
胤泥螺と霧冷陽が動き出すと同時、蔦壁ロココと雨巫女髻華羽は本堂の中へと姿を消した。
「我が兵らよ、押し返すのじゃ! 魔人の意のままに、仲間を見殺しにしてはならぬぞ!」
「3人一組となれ! 髻華羽殿の加護力が発揮するまで、魔人に操られし兵を組み伏せるのだ!」
「おおおおおおおおっ!!!」
二人の猛将の声に、正気を保っている兵士たちの士気が、一気に上がった。
本堂の敷地内の小鬼兵たちは瞬く間に切り伏せられ、杜乃榎国兵が盛り返し始めたかに見えた。
その時!
「ヒューン」と花火が打ち上がるような音が響いたかと思うと、放物線を描いて火の玉が敷地内に飛び込んできた!
「うわっとおおお!!」
宙に浮かぶ凪早ハレヤをかすめて地面に落下すると、火の玉が弾けて杜乃榎兵たちに燃え移る!
「ぎゃあああああ」
「あついいい、あついいいい!!」
敷地内に悲鳴が木霊して、杜乃榎兵たちの足並みが乱れ始める。
そこへ正門から、雪崩を打って小鬼兵の集団が侵入してきた。
火傷を負った杜乃榎兵に、ハチェットを振るって無情に斬りつける!
「おのれ魔人軍め!!!」
「怯むな! 押し返すのじゃ!!」
そこへ再び、火の玉が飛び込んでくる。
「げげっ!!」
驚く凪早ハレヤの前で、火の玉が弾け飛び、小鬼兵もろとも火の海と化した!
「自分たちの兵まで巻き込んじゃうのかよ……!!」
心の底から沸き上がる怒りにも似た感情に、奥歯で歯ぎしりをする。凪早ハレヤはクッと正門の向こうを睨みつけると、平泳ぎで上昇しながら正門の外へと向かった。
正門はすでに焼け落ちている。櫓があったと思しき場所には、焼け焦げた木材が散らばっていた。さっきの火の玉で、魔人軍が強引に突破してきた跡だろう。
正門付近の竹林からは黒い煤けた煙が上がり、まだ炎が燻っている様子だ。
正門の向こうでは、小鬼兵の一団が構えていた。本堂内の小鬼兵よりも身体が一回り大きく、武装が厚い。正門から杜乃榎国兵が飛び出してこようものなら、即座に打ちのめしてやろうといった構えだ。
その後ろでは、黒いフード付きローブに身を包み、禍々しい木の杖を振るう呪術師のような格好をした3人が、一心不乱に呪文を唱えている。彼らの頭上には小さな黒い渦が渦巻いて、その前方には黒い穴が浮かんでいた。その穴から、小鬼兵たちが次々と現れてきていた。
5人一組で隊列を整えては、本堂の中へと突っ込んでいく。
「うっひゃ、正門前はガッチガチに固められてるじゃん。しかも、小鬼兵を次々に呼び出してるよ。あれじゃキリがないぞ」
「『黒套呪術師がいるのね……彼らを止める必要があるわ』」
さらに黒套呪術師の後ろには、神輿に乗った牛頭の巨漢の戦士と、太くてトゲトゲの付いた棍棒を携えた屈強そうな大鬼兵が身構えていた。
どうやらあれが本隊らしい。
ゴーグル上では皆、紫色のフィルタで薄く覆われている。
「牛頭にガチムチマッチョボディ〜。牛魔王かミノタウロスってとこか?」
「『牛頭妖鬼ね。悪魔術を使ってくることがあるから気をつけて!』」
見ると、神輿に乗った牛頭妖鬼の頭上には、黒套呪術師と同じように黒い渦が浮かんでいる。そして、どデカイ斧を頭上でグルングルンと振り回している。あれで一撃を加えられようものなら、切り裂かれるというより、殴り殺されるといったところだろう。
と、やにわにその大斧をブンとばかりに縦に振り下ろした。頭上の黒い渦が悲鳴のような声を上げると、ボンと音が弾けて、斧の先から火の玉が飛び出してくる!
「あいつのせいか!」
火の玉は本堂の敷地内に飛び込んで、ボフンと弾けて炎を撒き散らした。
凪早ハレヤが弓を構えようとした時、本堂の方からシャンシャンシャンシャンと小気味よい鈴の音が響いてきた。
同時に、ヘッドセットの向こうから雨巫女髻華羽の声がして、にわかに辺りが曇り始める。
「清廉恵雨の習わしに 清らかなりし言霊の
永久の御加護に揺れたもう 信徒の道筋 夕に立つ────
除! 厄! 清! 災! ────清霊祓魔の雨よ!」
詠唱の後、どれほどの間もなくシトシトと雨が落ちてきた。しかし普段感じるような冷たい雨ではない。どこか優しく、温かい。
本堂敷地内に広がる火の海を、徐々に鎮火させていく。
「髻華羽の魔法かな? さっすがだね〜」
「隊列組めー! 弓隊用意ー!!」
「侵入する敵は一人残らずすべて斬れ!」
本堂からは霧冷陽と胤泥螺の威勢のいい声が聞こえて来る。
「『凪早くん、本堂に防護シールドを展開するから、相手の本隊を全力で撃ち抜いて!』」
「ほいさ〜! っていつも全力だけど〜?」
「『ううん、もっとすごい技があるから。「雷エンチャ・フルバレットブースト」を使うの!』」
「んああ? 雷エンチャふるぶれぶえっとぶーぶす?」
「『雷エンチャ・フルバレットブースト。エンチャバレットの残弾を全部集めて叩きつける捨て身攻撃なの』」
「あはは、最後っ屁みたいなもんか。よぉーし、やってみる!」
凪早ハレヤは弓を構えると、牛頭妖鬼に照準を合わせて弦を引き絞った。
「『古風な純心乙女』の怒髪天! 剛射! アーンド、雷エンチャ・フルバレットブースト!!!」
ドヒュウンと周囲の空気が弾き飛ばされ、弓にメキメキメキと大きな電撃が纏わりつく。
凪早ハレヤの制服の裾がバタバタとたなびいて、髪の毛が風で総毛立つ。
「うっひょおおおおお、なんだこれ! すっげえええええ!」
強烈な力が光の矢に集まる感覚に、凪早ハレヤは心の底から震えた。ゴーグルに映る緑の照準マークが徐々にオレンジ色に染まっていく。
「『除! 厄! 清! 災! ────天水防壁!』」
ヘッドセットから聴こえる髻華羽の声、どうやら本堂に防護シールドが展開されたようだ。
照準マークがオレンジから赤へ移ろうとしたその時だった。
異変に気づいた黒套呪術師の一人が、凪早ハレヤを指さした。ギャアギャア喚く声に、牛頭妖鬼が凪早ハレヤを見上げる。
瞬間、腰を落として大斧をグルンと頭上で一振りした! 凪早ハレヤに投げつける気だ!
ブゥンと音を立てて、牛頭妖鬼の手から大斧が解き放たれる!
「遅かったね!! いっけえええええええええええええええ!!!」
三角マークが照準にピタリと合い、赤色に染まると同時、凪早ハレヤが矢を解き放つ!!
瞬間、放たれた大斧もろとも巻き込んで、大稲妻が轟いた!!
「ズドン!」と大稲妻が駆け抜けたすぐ後に、「ドゴオオオオンッ!」と地表に爆発音が上がり、土煙がきのこ状に巻き上がる!
爆風とともに、大蛇のように電撃が地を這い、正門付近の小鬼兵部隊にも襲いかかる!
悲鳴もなく、肌を焦がした小鬼兵たちがバタバタと倒れ込んだ。
大蛇の如き稲妻は、本堂を覆った透明な防護シールドを伝って天へと駆け上る。
周囲の竹林も熱風の煽りを受けてざわめきたち、そしてメラメラと音を立てて火の手が上がった。
「うはああああ、やべええええええええええええええええ!!!」
歓喜とも狂気ともつかない声をあげる凪早ハレヤ。その周囲で、レベルアップを示す花火が3度打ち上がる。左手の甲の数字は『25』から『28』に変わっていた。
「────さらなる雨を、鎮火の豪雨よ!」
シャンシャンと響く鈴の音とともに雨巫女髻華羽の声がしたかと思うと、しとしと雨が一気に大粒の雨へと変わった。「ザアアア」と激しく竹林を打ち、瞬く間に広がった火の手を遮っていった。
豪雨は魔にまみれた血を洗い流し、滝壺から下る渓流へと注ぎ込んでいく。
本堂では胤泥螺たちが、勝どきの声を上げていた────。
◆
雨に濡れる竹林の中、一つの黒い影が街道に姿を現した。
「……おのれ彌吼雷、面妖なるクソガキよ……。こうなれば天空城もいらぬわ! 今すぐにでも打ち壊してくれよう……。髻華羽殿、そなただけはいつか我が手に……」
憎々しげに呟いたあと、ニヤリと口角を上げてイヤらしげな笑みを浮かべると、身を屈めて走り去っていった。
ボクも「全弾ぶっこんでやんぜヒャッハー!」したいです。




