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浮遊力に取り憑かれたら何かと捗った  作者: みきもり拾二
◆第二章 彌吼雷に、俺はなる!
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【15】本堂の戦い

「そろそろ大人しくしてもらいますよ、っと」


 凪早(なぎはや)ハレヤはすぐさま、胤泥螺(インディラ)に向けて弓を構えた。


「『古風な純心乙女』の思し召し! ────影縫い!」


 シュンと風切り音を上げて光の矢が胤泥螺(インディラ)めがけて放たれる。胤泥螺(インディラ)はまるで後ろに目が付いているかのように、小さな動きでスッとこれを交わしたに見えた。


 しかし!


「うぐっ……!!」


 矢が地面に突き刺さり、電撃が蛇のように地面を這いまわり、胤泥螺の足に絡みついた!

 身体が痺れたかのように、胤泥螺が硬直する。その手から刀がこぼれ落ち、グラヴィティストーンがその足をすくい上げるようにかすめた。


「ぐはっ!!」


 足を打たれて前のめりに倒れこむ胤泥螺。蔦壁(つたかべ)ロココの背後で、雨巫女(あめみこ)髻華羽(ウズハ)が小さく悲鳴を上げた。



炎天(えんてん)砂原(すなはら)に沸き立つ赤き陽炎(かげろう)


  蒼天()ゆるオアシスの水鏡(すいきょう) 緑に染むる南木の木陰


 そは御世(みよ)の狭間に現れし常火(とこひ)の 煌々たる御霊(みたま)なりけり────


 ────魔を祓う浄化の水よ! セイクリッド・バブル・トゥ・ピュアファイ!!」



 叫びながら蔦壁ロココが錫杖を突き上げる! すると胤泥螺の身体が、泡のようなものに包まれて宙に浮いた。

 胤泥螺が泡の中で、空気を求めてもがき苦しんでいる。しかしその目からは、徐々に紫の光が薄れていった。


 蔦壁ロココが錫杖をサッと横に薙ぐと、バシャリと音を立てて泡が弾ける。

 ドサリと地面に投げ出された胤泥螺に、すぐさま雨巫女(あめみこ)髻華羽(ウズハ)が駆け寄った。


「胤泥螺!」


 胤泥螺はゲボゲボと咳き込んで、水を吐き出した。雨巫女髻華羽に肩を支えられると、呻き声を上げながら顔をあげた。


「髻華羽殿……拙者は今、何を……?」

「良かった……」


 荒い息をつく胤泥螺の背中を、雨巫女髻華羽が寄り添うように抱きしめる。


「ひゅーひゅー、妬ける〜。ちぇ、いいな〜」


 上から明るく(はや)し立てる凪早ハレヤに、胤泥螺がハッとした表情になる。雨巫女髻華羽の手をそっと払うと、スッと姿勢を正した。

 そして蔦壁ロココに向かって、地面につかんばかりに頭をひれ伏す。


「雨巫女髻華羽殿の命に背き、(やいば)を向けたこと、深くお詫び申し上げる! この無礼はどのような報いをもってしても受ける所存……!」

「彌吼雷さま、ロココさま。胤泥螺は魔人の魔力に心を惑わされてしまっただけにございます。何卒、ご容赦を」


 胤泥螺に寄り添うように頭を下げる雨巫女髻華羽。凪早ハレヤは胸を張ると、明るく笑い飛ばした。


「あはは、良いってことさ! だって初対面だもん、こういうこともあるよ」

「しかし彌吼雷殿……!」


 神妙な面持ちで顔を上げた胤泥螺に、蔦壁ロココが腰を落として片膝をつく。


「悪魔……ここでは魔人と呼ばれている者のことはよく分かっています」

「俺たちはこの世界の悪を討ちに来た! 正義の味方さ!!!」


 未だに戸惑っている様子の胤泥螺が、凪早ハレヤと蔦壁ロココの顔を交互に見つめる。


「それと、今はこうしてる場合じゃ無いと思うの」


 耳を済ませれば、遠くから剣戟の音や怒声が聞き取れた。


「……そうでござった! 本堂が! 『巫女の修験場(しゅげんじょう)』本堂に魔人の軍が押し寄せております!」

「じゃあ、行きましょ。わたしたちの目的はひとつ、魔人を倒すことだから」

「胤泥螺、あなたはまだ必要とされております。どうか剣士としての務めを果たすことだけをお考えください」

「……承知!」


 胤泥螺が刀を取って勢いよく立ち上がる。

 凪早ハレヤは少し上昇して、竹林の上から山の裾の方を覗き見た。


「煙かな? 霧かな? やっぱり黒いのは煙かな〜?」

「それはきっと正門が燃えているに相違ござらん! 魔人軍が炎とともに押し入って参ったのだ!」

「ならば急ぎましょう、胤泥螺!」

「はっ!」


 軽く敬礼すると、胤泥螺はすぐさま駆け出した。


「凪早くん、わたしたちも向かいましょ」

「ほいさ〜」

「早々にこのような事態、申し訳ございません」


 雨巫女髻華羽の言葉に蔦壁ロココは首を横に振って、ニッコリ笑った。


「よくあることだから、気にしないで」



 ◆



 胤泥螺(インディラ)に続いて小道を行くと、本堂の裏門が見えてきた。

 そこは先ほどと同じような霧が立ち込めていた。霧の奥からはバチバチと炎が弾ける音と、燻すような臭いが漂ってくる。


 石造りの塀の奥、裏門からやや右手に木製の大きな造りの(やしろ)が立っている。これが本堂だろう。裏門は本堂の裏庭に続いている。

 宙に浮かぶ凪早ハレヤからは、裏庭から本堂左手、そして正面まで広く広がる庭が、霧の中でかすかに見えていた。


「これは、なんたること……!」


 裏門をくぐり抜け、裏庭に足を踏み入れた胤泥螺(インディラ)が立ち止まる。


 霧の中、同じ格好をした兵たちが互いに斬りつけ合っていた。黒地に青緑のラインが入った陣笠をかぶり、白の着流しと灰色の袴、脛から下に灰色の脚絆を着け、黒地に青緑の刺繍が入った胴鎧を付けている。

 その目に紫色の怪しげな光を帯び、憎しみに燃え盛っている者たちがいる。


「おのれ……魔人の魔力か!」


 歯ぎしりする胤泥螺(インディラ)に、小鬼兵(ゴブリン)たちが「ギャワギャワ」と喚き声を上げながら襲いかかってくる。


「でやっ! せやっ!」


 胤泥螺は苦もなく、小鬼兵(ゴブリン)たちを次々に切り伏せていく。その胤泥螺に向かって、今度は紫色の目をした兵士たちが襲いかかってきた。


「目を覚ませ! 杜乃榎(とのえ)の兵が同士討ちとはなんたることぞ!!」

「さっきの胤泥螺さんと同じじゃ〜ん」

「っ! 面目ござらん!」


 突きかかってくる兵士の槍を跳ね上げながら、胤泥螺が本堂横の庭深くに踏み入っていく。


「杜乃榎の兵よ! 正気ある者は胤泥螺の背に集え!」

「おおっ、胤泥螺(インディラ)! 雨巫女髻華羽(ウズハ)さまは!?」


 白いひげを蓄えた筋骨隆々とした体躯の男が大きな声を上げ、胤泥螺の背にピタリと背をつけた。両手用のハルバードを手にしている。

 頭はおでこから頂点にかけて禿げ上がり、横から後頭部に残った白髪を後ろでまとめている。深い皺の刻まれた目に、太くて白い眉が凛々しく引き締められていた。


(ろう)霧冷陽(ムサビ)、ご無事で何より! 髻華羽殿なら心配御無用、彌吼雷殿をお呼び出し成された!」

「なんと彌吼雷さまを!? まことか!?」

「ハァ〜イ! 俺がその彌吼雷ってヤツらしいよ〜」


 霧の上から、凪早ハレヤが手を振る。


「凪早くん、早くこの霧の元を断って!」

「ほいさ〜」


 親指をビッと立てると、凪早ハレヤはスッと弓を構えた。


「1、2、3、4っと。4つだな。目にも見よ〜、我が麗しの黒髪姫より与えられし、稲妻の威力を! ────狙い撃ち!」


 青い光が煌めいて、光の矢が現れる。引き絞る弓に電撃が駆け抜けた。


「ひゃっほおおおおおい!!」


 ズガァンと稲妻が轟いて、霧を吹き出していた岩が粉々に砕け散る。

 間髪を入れず、凪早ハレヤは矢を放っていく。


 小鬼兵(ゴブリン)が憎々しげな声を上げてハチェットを投げつけてくるが、凪早ハレヤは届かない位置まで上昇してこれを交わす。


「あっはは〜、最後のひとつ!! いっちょ派手にぶちかましますか! ────剛射!」


 狙いを定めてキリキリと弓を引き絞る。光の鏃の先で、光球が膨らみ始める。電撃が光球にまとわりつき、ビリビリと凶悪な音を立てた。


「弾き飛ばせ、『古風な純心乙女』!!」


 ビュンと弦を解き放つと、大砲のようなズドンという音が轟いて、周囲の小鬼兵(ゴブリン)共々、地面を弾き飛ばした。


「なんという力じゃ! まさしく、伝説の名に聞く彌吼雷よ!!!」


 霧冷陽(ムサビ)が豪快に笑い声をあげた。





このまま順調に収められますかね~?

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