【11】3つ目の相談ごと
「さて、3つ目の相談ごとですわね。防具は、あたしが程良い物を見繕って差し上げますわ。でも、武器はご自分で決めなさいな」
「ほえ〜い」
「この中にあるものでしたら、どれでもどうぞご自由に。ブラッディウルフの毛皮20枚でよろしくってよ」
「えええっ、無料じゃないの?」
「ツケにしておきますから感謝なさい」
「ちぇ〜〜、つれいないな〜」
「凪早くん、気に入ったものを選んでみて」
『武器を決めれば、転職する職業も自動的に決まる』ということで、3人はミュリエル秘蔵の武器庫へやってきた。
部屋には棚が整然と並べられ、様々な武器が立てかけられていた。壁や天井まで、至るところに武器が収められている。
「おおお、すごいな〜! 大剣、大斧、ハルバード! 長剣、弩弓、シャムシール!」
目をキラキラさせて武器庫を眺め回す凪早ハレヤだが、ふと、壁にかけられた短弓が目に止まった。
周囲の綺羅びやかな武器とは違って、なんということは無い、どこか古めかしさを感じる木製の短弓だ。その地味さ加減が、かえって目を惹いたのかもしれない。
凪早ハレヤは小さく横に首を振ると、壁際に立てかけてあった幅広の大剣に近寄った。
「男なら、やっぱり大剣だ! うっひょう! 見てよこの幅広のどデカイ刃!」
喜び勇んで手に取る凪早ハレヤだが、ドガン、と音を立てて床に落としてしまう。
「くっ、なんだこの重さ……っ!!!」
「非力ですこと。そのような大きなモノを扱うには貧弱すぎるんじゃありません?」
「む、むむむ……バグ玉制御解除!!!」
キランと白い光が煌めいて、フワリと凪早ハレヤの身体が浮き上がる。同時に、手にした大剣もゆっくりと持ち上がっていく。
「ふははははははっ! 我が浮遊力に死角なし!!!」
「ホホホ、低能の極みですこと。あちらのドアは試技室に通じておりますわ。どうぞ試し斬りをなさってみてはいかが?」
「おお、いいね〜! 行って来る!!」
ひょいと大剣を肩に担ぐと、凪早ハレヤはいそいそと戸口の方へと泳いでいく。
戸口をくぐった先の試技室には、試し斬り用の藁人形が6体、立ち並んでいた。
「へへっ! 俺のビッグメガブレードをお見舞いするぜ!」
肩に担いだ大剣を両手に構えると、斜め後ろに振りかぶる。
「といやああああああああああああああ!!!」
気合とは裏腹に、大剣はヘロヘロした軌道を描いて振り下ろされる。切っ先が藁人形をかすめると、凪早ハレヤの身体がグラリと揺れた。
「おっとっと」
ガチーンと音を立てて大剣が石床を打ち付ける。ビリビリとした振動が柄から腕へと駆け登り、凪早ハレヤは痛みに震えた。
「いでででで」
思わず大剣を離して両手を振る。
「だから言ったでしょう? 貧弱なアナタに、そのような大モノは似合いません、と」
戸口のところで、クマのぬいぐるみを抱きしめたミュリエルが勝ち誇ったように笑っている。
「くっそおおお! 一撃必殺のドデカイ武器は男のロマンだ! 夢だ希望だ憧れだ!!!」
大剣を拾い上げ、宙に構える凪早ハレヤ。
「見せてやる、俺の本気120%!!! 必殺! ハレヤコプター!!!」
叫びつつ、グルンと水平に大剣を薙ぐ。
「うおおおおおおおりゃあああああああああ!!!」
凪早ハレヤを軸に、大剣の回転速度が上がっていく!
しかし、ほどなくして、凪早ハレヤの怒声が悲鳴に変わった。
「ああぁぁぁぁ目があああああ目があああああああああああああああっっっ!!!!」
高速で回転しすぎて、完全に自制を失っているのだ。
「ハーッ、ハッホホホホホ! なんという喜劇でしょう!」
涙を浮かべて大笑いするミュリエルを尻目に、大剣が石壁をガキンと打ち、その反動で凪早ハレヤの身体を弾き飛ばした。
「ふごわぁッ!!!」
ビターンと天井に打ち付けられる。
「ひいいいっひいいいっ! ロココちゃん、あたし笑い死にしてしまいそうですわ!!」
「ミュリエルってば……」
蔦壁ロココの身体により掛かるようにして、ミュリエルが腹をよじって大爆笑する。きつく抱きしめられたクマのぬいぐるみも、どこか苦しげだ。
「凪早くん、大剣は肉弾特攻系のスキルが多いから、回避や防御が的確にできる人じゃないと危険だと思う」
「そ、そっかぁ……」
フラフラと宙を泳ぎつつ、凪早ハレヤが部屋を出て行く。そしてすぐに両手に剣を構えて戻って来た。
「今大流行の二刀流だよ二刀流! 素早い剣撃で相手を封殺!」
鼻をぷっくり膨らませて、得意気にフンと鳴らす。
そして藁人形の前まで来ると、ブンブンと振り回したり突いたりを始める。
「ていっていっ! てりゃあっ!」
しかし宙に漂っているせいか、身体が踏ん張りきれずに体勢を崩してしまい、思うように剣を振れない。
「タコ踊りですの?」
「うむむむむ!……バグ玉制御発動!!」
ストンと床に降り立つと、素早くポーズを決めて剣を構える。
「とりゃあ!」
ヘロヘロっ。
「すりゃああ!!」
ヘロヘロヘロっ。
大剣より随分軽いとはいえ、金属の塊を片手で振り回すその手はおぼつかない。凪早ハレヤの腕力には、少し重いようだった。
「おかしい……こんなはずでは……!!!」
大粒の汗を浮かべながら、そそくさと武器庫に消えていく凪早ハレヤ。
それからしばらく、様々な武器の試し斬りが続いた────。
しかし、どれもこれもしっくりこない。
────凪早ハレヤの体力だけが浪費される結果となった。
「はあっ、はあっ、はあっ!……」
「まーだ決まりませんの? あ、ロココちゃん、そちらのお砂糖をいただけます?」
「はい、どうぞ」
待ちくたびれたミュリエルと蔦壁ロココは、丸テーブルを持ち出してティータイムを楽しんでいた。ミュリエルの背中にしがみつくクマのぬいぐるみも、虚空を見つめて暇を持て余しているようだった。
「どうもね……イメージ、通りじゃ、なくてさ……」
「ホホホホ、やはりアナタはまず身体を鍛えることから必要なようですわね」
「ぐむむっ!……」
「凪早くん、はい、どうぞ」
蔦壁ロココが冷たい水の入ったコップを手渡す。
「サンキュー……(ゴキュゴキュ)……ううっ、ぷはぁっ! 生き返るぅ!!」
「近接武器は諦めた方がいいんじゃないかな?」
「そう? そうかなぁ……うーん……そういえばさ」
「なぁに?」
「従者には戦闘能力の補佐をしてくれる機能があるって言ってたけど、武器の扱いは関係ないのかな?」
「少しはあると思うよ。スキルも使えるし」
「だったら我慢して使うのもアリ? 今は上手く使えなくても、当面はスキル頼みで……」
「それはやめた方が良いと思う。スキルバレット数に限りがあるから、長時間の戦闘や大人数を相手にした時に危険。それに重い武器を振り回していると、スタミナも奪われやすいでしょ?」
「あ〜、言われてみると確かに……」
「短時間のうちに身体を鍛えるのは無理だから、やっぱり、今の段階で扱いやすい武器を選ぶべきだと思う」
「なぁるほどね〜」
凪早ハレヤは飲み終わったコップを蔦壁ロココに返すと、再び武器庫へと姿を消した。
宙を漂いながら試技室に戻って来た凪早ハレヤの手には、あの古びた木製の短弓が携えられていた。
「やっぱこれかな〜。実はね、武器庫に入ってきてすぐに、なんだか気になってたんだ」
言いつつ、ビヨンビヨンと弦を弾いてみせる。そして背中に背負った矢筒から矢を一本引き抜くと、サッとつがえて弓を引き絞った。
スパンと矢を放つと、反対の壁際の藁人形に、見事にブスリと矢が突き刺さった。
「あら、なかなかやるじゃありませんか」
凪早ハレヤはターゲットを変えながら、矢継ぎ早に数本の矢を放つ。それらはすべて、藁人形に命中した。
「すごいね」
「へへっ。ジイちゃんの家でさ、自作の竹弓でよく遊んでたんだ」
「そうなんだ」
「これでいっかな」
「うん、よく似合ってるよ」
「ホント? 我が麗しの黒髪姫がそう言うんだったら、これに決めちゃう」
凪早ハレヤはグッと弓を握り締めると、ニッコリ微笑んだ。
「じゃあ、早速、武器の登録をしましょ」
「武器の登録?」
「うん。装備画面に、『武器登録ボタン』があるの」
凪早ハレヤはステータススクリーンを起動すると、装備画面を表示する。そして『武器登録ボタン』をタップすると、凪早ハレヤの耳に『武器を登録します。使用する武器を両手に持って一回転させ、武器の名前を宣言してください』と音声が響いた。
「武器の名前を宣言しろ、って」
「うん。『弓』でいいと思うよ」
「あ〜、シンプルすぎるね」
凪早ハレヤはニヤッと笑うと、弓を両手に構えた。
「決めた! 今日からキミは、俺の武器だ!」
言い放ち、弓をクルリと一回転させる。そして天に向かって突き上げた。
「キミの名は『古風な純心乙女』! 我が栄光への第一歩を指し示す者なり!」
瞬間、勢いのあるファンファーレが鳴り響き、凪早ハレヤの背後でパンパンと小さな花火が打ち上がった。
ステータス画面には弓のようなマークの横に、しっかりと『古風な純心乙女』と記されていた。
「……変わった名前だね」
「いやあ、この弓にふさわしい名前だと思うよ!」
モンハンは大剣が大好きです(テヘッ




