【10】2つ目の相談ごと
「仕組みはともかく、要は、バグ玉のもたらす力が外に漏れてしまうことが問題ですのよ」
「今は駄々漏れ状態、ってこと?」
「そういうことになりますわね。ですから、その穴を塞いでしまえばいいのですわ」
「なぁるほどね〜」
3人は、先ほどとは別の部屋に来ていた。
そこは真ん中に丸テーブルが置かれ、壁際にはズラリと棚が並べられている。棚には怪しげな標本などが収められていた。
そしてテーブルの上には、ビーカーやフラスコ、試験管など、理科で使う実験道具が所狭しと置かれていた。
ミュリエルは、棚の引き出しから羊皮紙を一枚取り出すと、テーブルの上に無造作に広げた。そしてペンを取り、スラスラと慣れた手つきで紋様を描き始める。
「ロココちゃんは、バグ玉に取り憑かれた人を扱うのは初めてでいらっしゃいます?」
「うん。今まで取り逃したことなかったし、師匠もそんなことしなかったから」
「うふふ、優秀な異世界ウォーカーぶりですわね」
「今回はなんでそんなヘマしちゃったのかな〜?」
「ヘマとか言うんじゃありませんの! どう考えても、尻軽とう……イディオットフローティングオブジェクトのアナタのせいじゃありませんこと?」
見下すような目つきで凪早ハレヤを睨みつけながら、ミュリエルはペンをポンとペン立てに戻すと、サッとばかりに羊皮紙を広げてみせた。
「さあロココちゃん、これでオッケーですわ。せっかくですから、従者契約に追記する形式にしてみましたわ」
「ホント? やってみるね」
蔦壁ロココはミュリエルから羊皮紙を受け取ると、凪早ハレヤの胸辺りに差し出した。
「凪早くん、ちょっと持っててくれる?」
「ほいよ〜」
蔦壁ロココは羊皮紙を凪早ハレヤに手渡すと、錫杖をクルリと回して両手に構えた。そして従者契約の時と同じ詠唱を唱え始める。
「我、ロココ・ランカナル・アンドリアルモア・ウルベスムーンの名において
汝、凪早ハレヤに新たな理力を与えん!
────アディショナル・セイクリッドファンクション!」
「パリーン」と弾ける音がして、羊皮紙が白い光に包まれる。凪早ハレヤの身体に温かいポカポカした感覚が広がると、ストンと地に足が付いた。
「おおおおおおお! この感覚! 久々に味わう重力だ!!」
「凪早くん、そこのテーブルに触ってみて」
「んああ? なんで?」
「勝手に持ち上げたりしないか、念のため確認」
「おおお、そっか!」
促され、凪早ハレヤはポンとテーブルに手をついた。しばらくジッと待ってみるが、テーブルに何か起こる気配はない。
「どうやら、上手くいっているようですわね」
「だね! いやっほおぉぉぉぉぉぉぉぉぉい!!!!」
足腰を思いっきり踏ん張って、ガッツポーズしながら飛び上がる凪早ハレヤ。
しかし!
「おろろ!?」
軽くジャンプしたつもりが、高々と身体が舞い上がる! そのままゴツンと鈍い音を立てて、天井に頭を打ち付けた。
さらにビターンと石の床に降り立つ衝撃が、電撃のように足の先から腰あたりまで駆け抜ける。
「ぐっ! むむむむっ!……」
「だ、大丈夫、凪早くん?」
「くぅぅぅ、つつつ……。背が縮んじゃうかと思ったぜ……」
「プッ! クスクス……調子に乗るからですわ! いい気味ですこと……ふふふ」
ミュリエルは扇子で顔を半分覆い隠して笑いを堪える。背中にしがみついているクマのぬいぐるみも、どこか楽しげな目つきだ。
「こ、これって……バグ玉の力を、制御し切れて無くない?」
「ふふん、そうかもしれませんわね。ですが、身体が勝手に浮かなくなっただけでも、よろしいのではありませんこと?」
「まあ、そうだけどさ〜……おー、いててて」
腰を上げながら、酷い目に遭ったとばかりに頭や手足を振る。
「無重力の場所から、月面に降り立ったぐらいには効果があると思いますわよ。要は、慣れればいいのです、慣れればね」
「凪早くん、普通に生活できそう?」
恐る恐る、コツコツと石床を踏みしめてみたり、小さくピョンと飛んでみたりする。どうやらちょっとした力では問題なさそうだった。
「ふう〜、まあいいや! きっと大丈夫だよ! ありがとうミュリエル!」
いつもの調子を取り戻し、ビッと親指を立ててニッコリ微笑んだ。
ミュリエルは扇子で半分顔を隠したまま、さもつまらないといった様子でジト目になる。
「……アナタ、ノリが軽すぎやしませんこと? もう少しシリアスに悩んでもよろしくってよ?」
「あっははー、そういうガラじゃないんだよね」
「ふん、まあ、よろしいですわ。それより、制御解除と制御発動も可能なのですが、そのことは知っておかなくてよろしいのかしら?」
「おろろ、なにそれ? 意のままに宙に浮けちゃうってこと?」
「アナタが上手く使うなら、そういうことになるでしょうね」
「おおおお! いいね〜。是非とも教えてよ」
「ステータススクリーンを開いて、スキル画面をご覧なさいな」
早速、『25』の数字が浮かび上がっている左手の甲をタップして、ステータススクリーンを立ち上げる。
スクリーンをスライドしてスキル画面を表示すると、『バグ玉制御発動』『バグ玉制御解除』のスキルが追加されていた。
「おお〜! あるある!……弾丸みたいな表示が無いけど?」
「バレット制限はございませんわ。パッシヴ系スキルに近いスイッチング機能だけですから」
「へ〜、そうなんだ。ちょっと試しに……」
そう言うと、凪早ハレヤは透明スクリーンを閉じ、両腕を胸の辺りでクロスさせた。
「何人たりとも寄せ付けぬ 処女宮に集いし乙女の宝華よ!
我が手に 陽春の温もりが如き たわわなる実りをもたらさん!
────光に導かれし浮遊力! バグ玉制御!解除ォゥッ!!」
詠唱とともに右腕を突き上げる。凪早ハレヤの足元から白い光がキラキラと湧き上がり、凪早ハレヤの足がスウッと石床から浮き上がった。
「おお〜、キタキタあああああああああああ!」
「……なんですの、今の低能を絵に描いたような詠唱は……」
「気分気分〜。せっかくだから格好つけないとね〜」
満足気な表情で、凪早ハレヤが宙を泳ぎ回る。
「重力のある状態もいいけど、やっぱ空を飛べるっていいね〜」
「凪早くん、バグ玉制御発動のテストも」
「ほいよ〜」
動きを止めると、宙に浮かんだまま、先ほどと同じような詠唱とポージングをする凪早ハレヤ。
「────光に帰れ! バグ玉制御!発動ォゥッ!」
再び白い光が凪早ハレヤの周りでキラキラと立ち上ると、身体がストンと床に落ちた。
「いいね〜いいね〜。これはいいね〜」
「まあ、飛べない低能はただの豚ですものね。ですが、そのバグ玉がどれほどの力を持っているか定かでは無いのですから、派手な行動は慎んだ方がよろしくってよ? あたしのロココちゃんに迷惑を掛ける真似だけは、絶対におやめなさい」
「へいへーい」
「返事は一回でよろしいんですの!」
「(プイッ)」
二人のやりとりに、蔦壁ロココが可笑しそうに微笑んだ。
相談ごともあと1つ。
武器を選んだら、自動的に職業が決まるみたいですよ。




