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Memory World  作者: 彼方わた雨
第1章-出会い-
7/25

此処

 私はもう、考えたくない。




 ニコとの生活こだいぶなれてきた。私が壊してしまった薪置き場ももうすぐ元に戻りそうだとニコが話していた。それだけニコと一緒に過ごしていたのだと思う。

 最近はとても温かくて私はよく外へ出かけるようになって、少しはこの村のことも分かってきたような気がする。

 だから不思議に思うことも増えた。なぜかこの村にはニコしか住んでいない。私がくる前までは本当に1人だったみたい。本人には直接聞くことは出来ないけれど、そうだと思う。井戸も所々枯れていて、家はあっても廃れてとてもじゃないけど、住みたいとは思えないものばかり。

 家があって、井戸もあるのに住んでいた人々はどこにいるのだろうと最近考ている……。

 私は今日も森を歩いている。ニコには暗くなる前に帰るねと書き置きをして出てきた。実はあんまり知られたくないの

。私が出歩くって言うと絶対止めるんだもん。今日はニコもどこかへ出かけていないし、上手くいけばニコが帰ってくる前に家にいることも出来る。そうしたら何も言われなくて済む!

「この花すてき」

 気に入った花は1つだけ持って帰って、押し花にする。最近の私の楽しみでもある。花を見ているととても落ち着くし気分がいいんだ。

 今度はどんな花を見つけようかな……。赤いお花が良いな。でも、ニコはたんぽぽが好きって言ってたっけ。たんぽぽ見つけたいな。そして、ニコにプレゼントしたらきっと喜んでくれるかな。あのときあげたのは桜の花だったから、今度はピンク色以外がいいな。

 ニコはあれからしおりを使わずにとって置いている。使ってほしいって言ったんだけど、ニコはまだ使えないと言って使ってくれていない。しかも、机の奥にしまっていた。せっかくプレゼントしたのに……。

 この世界のことを少しずつ教えてくれたニコには本当に感謝している。花の名前だって、食べ物だって、何だって教えてくれた。いつも無表情だったけれど。だから、ニコのことこんなに……。

「……あー! 何考えてるの、私!?」

 顔が火照ってきた。もう、いつもこれだ。困る、とても困る!

 でも、この気持ちも消えちゃうのかな……。私たちはずっと奪う立場だったから分からなかった。こんな気持ちになるなんて。どうして、嬉しい、楽しいこんな気持ちをなくさなければいけないのだろう。ばば様はこの世界を保つために必要だと言っていたけれど、悲しみで人々が壊れてしまいそうで怖い。それまでして世界はいったいどうありたいのだろうか。

 それに、もし、私が記憶を奪う人だって分かったら、ニコやジュラは私のことをどう思うようになってしまうんだろう。きっと、嫌いになっちゃうのかな……。

 ダメダメ、こんな暗いこと。考えるのやめやめ。今はたんぽぽを見つけたいんだから。ニコを喜ばせてやるんですから!

「はー」

 でも、さすがに疲れてきた。ここらへんでひと休みしよう。ちょうど良い泉があるしここで休んでまた歩こう。

 私は座って持ってきたバスケットからサンドイッチを取り出してほおばった。食べ終えると温かな日差しと満腹感でまぶたが重く、うとうとしてきてしまった。


「ーーシャ、起きなって!」

 声に驚いて目を覚ますと、目の前にいたのはサラだった。

「……サラ? どうしてここにいるの?」

 サラはげんなりとしてため息をした。どうやら私は寝ぼけていると考えているみたい。確かに、よく状況がつかめないけど。

「迎えにきたに決まってるでしょ。心配したんだよ……」

 迎えにきた、ということは私は帰るのだろう。帰ることが出来る。

「……心配かけてごめん」

 サラは表情を柔らかくした。サラのいつもの顔だ。たった1ヶ月くらいだったけどなんだかとても懐かしい。

「さ、帰ろう?」

 私はサラの手をとり、立ち上がった。

 帰ることが出来る。これで、ニコともお別れになってしまう。そう考えるとなぜだか素直に喜べなくなってしまった。ニコに会いたい。お別れを言わなくてはいけない。

「サラ、お別れを言いに行きたいの。いいかな?」

「別にいいよ? でもねーー」

 柔らかかったサラの表情は急に変わっていった。


「どうせ無くなるんだよ?」


 サラは私に向かってはっきりとそう言った。

「で、でも! 私はーー」

「どうせ意味なんてないよ。ルーシャとのことぜーんぶ忘れちゃうの。この世界はね記憶がないといけないの。分かるでしょ?」

 サラは淡々としゃべっている。とてもいつものサラではない気がする。とても怖い。彼女の表情も、言っている真実も。

「……」

「なんで何もいえないの? 分からないの? どんな人とどんな時を過ごしてきたかは知らないよ。でもね、結局この世界ではそんなもの無くなるの。世界を保つために捧げるの。それだけでしかないんだよ?」

 サラが言っていることは真実だ。でも……。

「違う! そんなものなんて言わないで! この世界はおかしいよ。どうして、楽しい記憶は持ってちゃいけないの?」

 サラが私を異常だと言わんばかりの目で見ている。それは今までに見たことのない表情だった。こんなに冷たい表情を私に向けてきたことは無いのに。

「ばば様に言われたでしょ? 世界の支えなの。この世界で悠々と暮らしていけるんだったら記憶くらい差し出したって当然でしょ」

「でもーー」

「おかしいよ。ルーシャどうしたの?」

 私はおかしいのかもしれない、でも今はこの世界の方がおかしいと少しずつそう思えてきた。

「おかしいのはこの世界だよ」

「はあ……想いが強過ぎでしょ」

「……想いって、どういうこと?」

 サラは私から距離をとった。そして、私のことをしっかりと見つめた。目をそらしたいほどその目は怖かった。でも、そらすことは出来ない。まるで石になってしまったかのようだ。

「だから、嫌いになったのよ」



「っ!」

 気がつくと目の前にはサラはいないし、私はさっき立っていたはずなのに木にもたれかかって座った状態だった。

 あたりはすっかり暗くなっていてよく分からない。どうやら私は寝てしまったようだった。そのまま気がつかずに日が暮れていたみたい……。

「どうしよう……」

 ああ、最悪だ。夢もひどかったし、現実も良くはない。これからどうやって帰ろう。ニコも心配してはずだし、どうにかして帰らなきゃ。ここから帰りたい。

 頭の中ではサラの言葉が響いている。夢だから現実じゃないのに、いつまでも残るこの嫌な感じを早くどこかへやってしまいたい。

 いつか見た時と同じ夜空でも今は怖いとしか考えられなかった。


 



 

 今、とてもニコに会いたい。



珍しく2日連続更新です。

なんだか、雲行きが怪しい展開になってきました。

あと、ルーシャちゃんをいかに恋する乙女に書くか

が大変です。

これから話も盛り上がっていくはずです(恐らく)。


それでは次回もお会いできることを願っています。

 2014/4 秋桜(あきざくら) (くう)

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