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Memory World  作者: 彼方わた雨
第1章-出会い-
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花見

 まさか君が楽しそうに見えるなんてね。



 いつしか季節は春になっていた。暖かな日差しと周りの木々や鳥のさえずりで嫌でも気がついちゃう。

 あのお嬢さんが来てから早いもので1ヶ月が経とうとしていた。お嬢さん、ルーシャはすっかりニコに懐いているようで、しばらく見ないうちに馴染んでいる。ニコも別にそれを嫌だと思っていないようだ。全く、人のいないこの村で何年も過ごしてきたとは思えないな。人との関わりを求めていたのだろう、とボクは勝手に思ったりなんかしちゃって。こんなこと言ったら怒られちゃうかも。また、それも面白いんだけどね。ああ、別にボクが罵られたり、殴られたりが好きって訳じゃないよ? ボクは面白いことが好きなだけなんだよね。

 でも、ボクは分からないな。同じ名前の人っているのかどうか、ってことはさ。心に残ったこの名は君のことなのかそれとも別人か……。

「……ラ、ジュラってばっ!」

 いけない、考え事に集中しすぎてしまったようだ。

「ゴメンゴ☆今日もかわいいねぇ、ルーシャちんは」

 ボクがいつもみたくふざけたように言うとルーシャはムッとなってしまった。その表情はかわいいし、面白い。

「ジュラ、聞き飽きた。かわいいって言うのもう28回目だよ」

「えぇ~、飽きないで欲しいな。わざわざ数えたりなんかしてぇ。ホントは嬉しいんでしょ? あーっ、ニコに言ってもらいたいとか?」

 ボクが言うとルーシャは目を大きく広げている。目玉が落っこちそうだ。すると今度は急に顔を赤く染め出した。

「ジュ、ジュラなんて知らないっ」

 あー、完全にそっぽ向いてしまった。少しからかいすぎたであろうか。少し悪いことしちゃったな。

 まあでも、ボクが言ったことはホントなのかもしれない。このラブハンタージュラ様に分からぬことなど無いのだから。なんてね☆

 ルーシャはいつしかボクが来ると、「ニコがねニコがね……」としきりにニコの話をする。これはもう、誰がどう見たってニコのことが好きに決まってる。でなきゃニコのためにお花見兼お誕生日会なんて開こうと思うはずがない。

 ボクは相談されてこうやって話し合いをしてるのだが、ボクのせいで一時中断してしまった。

「あはは、ゴメンゴメンゴリラっ☆謝ったから早く話し合い進めよっ。ニコを喜ばせたいんでしょ?」

「……うん!」

 ルーシャの機嫌はすっかりなおったみたいだった。

 それから2人でニコの目を盗みつつ、お花見兼お誕生日会の計画を進めるのであった。


 春の日差しが暖かに照りつけている今日、いよいよ計画が実行される。

「外行こうね~、ニコ?」

 ボクが腕を引っ張りながら言うと明らかに眉間にしわを寄せて嫌そうにしている。

 ボクは桜の木の下までの案内役なのだ。この役をまっとうしないと計画が水の泡、ルーシャちゃんにも泣かれる、恨まれる、とボクにとってはいいことなしなんだ。それは実に困ることだ。

「ボクとお散歩、ね?」

「お前、いつもに増してうざいな」

「ヒドっ、泣いちゃう」

 ボクが泣くふりするとニコはさらに睨む。

 ボクの誘い方のどこがダメなんだっていうんだよ。

「それより、ルーシャはどうした、姿が見えないが」

 ニコは家の中をきょろきょろと見ている。いくら探しても家の中にはいない。当のルーシャちゃんは桜の木の下でスタンバっている。

 仕方ない。ニコを動かすには今はルーシャちゃんの力をかりるしかないみたい。

「それがね、ルーシャちゃんは今朝出て行って帰ってこないんだ……。それで、心当たりはあるんだけーー」

「行くぞ。案内しろ」

 顔は無表情だったが、相当心配しているようだった。まあ、とりあえず作戦は遂行できそうだ。

 しかし、本当にルーシャのことを気にしてると思う。まるでルーシャの兄のような……。

「まったく、ルーシャにはあれほど勝手に出歩くなって言ってあるはずなのに……」

「……やっぱり、父親かな」

「は?」

 ボクが笑顔で誤魔化すとニコはまたボクを睨んだ。そんなに睨んでたらいつしかその眉間に深く溝が刻み込まれるかもなーって思いつつ、あえて言わないことにする。ニコのしわを増やしたくないもの。

 とかいろいろ考えていると大きな桜の木が見えてきた。そろそろ約束の場所に来たみたいだ。

「ここだよ!」

「随分奥だな……」

 ニコが踏み出したとき、ニコを待っていたルーシャは思いっきり叫んだ。

「おめでとう! ニコ!」

 今、ニコはどんな顔をしているのだろう……。ボクはニコの前に出ていった。

「おめでとう、ニコ」

 きっと、無表情だと思った。

 おもいっきり笑ってやろうと思った。

 無表情なその顔を引っ張ってやろうと思った。

 そして、また殴られると思った。



「……ありがとう」



 笑顔なんていつぶりに見たのだろうか。きっと、ニコは気がついてないと思うなぁ。自分がどんな顔をしているのかなんて。

「ニコ、はい!」

 ルーシャがニコに手渡したのは押し花にしてきれいに加工したしおりだった。

 ニコは両手で大切そうに包んで眺めていた。嬉しそうにルーシャが笑っている。あーあ、かわいいくらい言えばいいのに。ニコってホントダメだなぁ。

「ケーキ! ケーキ食いたいなぁ~」

「ジュ、ジュラ! ダメ!」

「消えろ」

「ひどーい! ジュラぁ、悲しーーぐはっ」

 強制的に空を見るようになってしまい、仕方なく桜がまう景色を見てボクはなせだか笑いを堪えることができなかった。

「何笑ってるんだ? きもい」

 相変わらずニコの言葉は猛烈に深く突き刺さるが、それも今日は何ともいえない気がする。

 ニコをこんな風に変えたのはきっとルーシャの他誰もいない。ニコっていろんな意味でめんどくさいヤツだし。ボクを見習ってほしいなぁ。

「ジュラは放って置いて、ケーキ食べよう」

「賛成」

「賛成しない! ボク協力したじゃん! ね、ルーシャちゃん!?」

「ありがとう」

 といいながらなぜかケーキを切り分けるルーシャ。

 だんだんとニコに影響されてると思う。ボクのことこんな扱いして……。誰かボクに優しくしてほしいんだけど……。




 桜だけがボクを優しく見つめている気がした。



桜の開花が日本を北上しておりますが

この話でも満開です。

一気に仲良くなったあの2人と

置いてけぼりな1人。

誰かかまってくれるといいね……。


では次回でお会いできることを願っております。

2014/4 秋桜(あきざくら) (くう)

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