相愛
この世界は変わった。
「陛下、今日は視察のご予定は――」
「平気だ、視察できるくらいの時間はある。書類にも目を通し終えた」
「しかしっ」
「執務くらいなら私が代わる」
顔を出したのはリュエルだった。
「リュエルでん……いえ、リュエル様にそのような事は――」
「これでも、何年もどこかの馬鹿者に代わって王子をしていたの。それでも無理とおっしゃる?」
なんとも言い難いような顔をしていた貴族の者を見て、俺が話さなくてはいけなくなった。
「本当に悪かった。だから、別に第1王女のお前がそんな事しなくていい」
俺がそう言うとリュエルはため息を吐いた。
なんとか納得したようだ。
「まだ、王女だと言われると変な感じがする。別に悪くないけど……」
「そうか。……まあ、本当に今日やるべきことは終えた。少し出るくらい許せ」
そのまま、何か言いたげな貴族の者の前を通り過ぎていった。
執務室を抜けて、馬場へと向かう。いい加減外に出たい。それに今日くらいは城から出て行ってもかまわないだろう。
「陛下、1人じゃ危険ですよー?」
馬に乗ろうとした瞬間、嫌な奴が姿を現してニヤニヤと笑っている。
貴族の人間に見つかるのは、それはそれで面倒くさいのだが、もっと別の意味で面倒くさいやつに見つかってしまったものだ。
「なんで、お前ここにいるんだ。シンの観察役だろうが」
「まあまあ、その任も昨日で終わったんですよ? 今日からまた、本格的に側近に戻りますよ。こんなにうれしいことはないでしょう?」
こういうのは放って置いて行くのに限る。
そのまま馬を進めて、ジュラの横を通り過ぎる。
「あ、ちょっと! ひどいぞ!」
どうせ、すぐに追いかけてくるのだから、少しくらい1人の時間があってもいいだろう。
――あの日から、世界は変わった。
失われていたはずの記憶は全て持ち主に戻ってきた。また、記憶が新しく奪われることもなく、俺たちは暮らして行けるようになった。
俺が新国王になってから、この国も少しずつだが、良くなってきたと思う。俺はずいぶん城を空けてしまっていたためかなり無理をしたが、今では何とかやっていけている。
リュエルも俺のせいで父さんから第2王子というものを背負わされていたが、父さんが国王を退いてからそれもなくなり、王女として過ごしている。そのせいでだいぶリュエルには恨まれていたが、何とか和解できた。奇跡だ。
全てが、良い方向に進み始めた気がした。
でも、ルーシャは結局死んだ人間だったため、帰ってはこなかったが。
「速いってばー」
案の定すぐ後ろから声が聞こえた。
「うるさい」
「もうすぐ着いちゃうし、楽しめなかったじゃんか」
どうせ俺をからかって遊ぶつもりだったのだろう。だから嫌なんだ。
「お前も変われよ」
「まあまあ、変わる事が良いとは限らないでしょ」
「お前が変わる事は良い事だと思うけどな」
そして、馬をゆっくりと止めて、降りる。
ジュラも続くように馬を降りて、俺の後についてくる。
「あの日から今日でちょうど6年も経っているけど、毎年欠かさずここに来るよねー。ホントに好きだよね、ルーシャちゃんの事」
「だから、お前と来たくないんだよ」
「でも、実際1人で出かけるわけにはいかないでしょ。俺だってアステリに怒られるから仕方がなくついてきてるんだから」
「嘘つけ、楽しんでいるくせに」
ジュラの表情は楽しげで、とても仕方がなくついてきたという感じではない。ルーシャの事で俺をからかっていることが楽しくてついてきているのだろう。迷惑なやつだ。
歩いているとノクタルン村の奥の、あの家が見えてくる。毎年なんとなく来てしまう。自分でもなんだか女々しいとは思う。
「ささ、家でお茶でも飲みましょう」
「はいはい」
仕方がなく、家に向かっていると、俺の目に金色のものが映る。
金色の髪。金色の長い髪の少女が、家の近くの丘に立っていた。少女はこちらに気がついたのか振り返り、目が合う。風で揺れた金色の髪が眩しい。
「こんにちは、旅人さん?」
18歳の彼女がそこにいた。




