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Memory World  作者: 彼方わた雨
第3章-世界-
22/25

本当

 私たちのすべき事、忘れたの?




「あら、結局国王はご存命なのね。つまらない」

 いつの間にか現れて、そう言ったのは、サラだった。

 全ての記憶を思い出した時から、サラが怖い。

「……誰だ」

「ああ、あなたが、王子サマ?」

 私に向けていた目線を隣にいるニコへ向ける。その黒い瞳は、何の感情も表していなかった。それでも、奥に何か大きなものを抱えている気がする。

「初めまして、私はサラ。そこのルーシャと同じなの」

「……どういうことだ」

 ブラウンの髪の毛がふわっと揺れた。そして、微笑を浮かべていた。

「……さっきから、そんな顔をしているってことは、ぜーんぶ知ったんでしょ?」

 ニコへ向けていた視線をこちらに戻した。その視線を受けとめる事が出来なくて、ニコの後ろへ隠れた。その様子を見て、サラは薄く笑った。

()()()の事が怖いの?」

 そう言いながら一歩、また一歩とこちらに向かってくる。同じ12歳の姿をしているはずなのに、サラは大人びた雰囲気を漂わせている。

 彼女もまた、私のように死んでしまった人間なのだろう。あの世界にいたという事はそういう事なのだ。

「あんたはあの森で死ぬ運命だった。私が手を下さなくても死んでいたの。でも、死ぬのだったら友の手で死にたいでしょ?」

 ついに、近くまで来てニコと対峙している。その眼は吸い込まれそうなほど、深い闇だった。

 あの時も同じ眼をしていた。私を突き飛ばして、崖から私を見下ろしていたあの眼。

「……なーんて。腐れた王族と仲良くするなんて許せない。挙句、好きになるなんてね。だから、嫌いだったのよ」

「お前が、あの森で、ルーシャを――」

「心の奥底に記憶をしまい込んで……。面倒くさい事してくれるわね」

 気がつくと、サラがニコに向かって刃物を取り出し、向けていた。しかし、ニコも動じずに剣を取り出し、サラに向けている。ピリピリとした緊張感が充満している。


「取りなさいよ、そいつの記憶」


 その一言に全身が震えた。

 ニコの剣も一瞬動揺したように見えた。きっと、困惑している。

「そこにいるのは記憶の未回収者よ。本来持っていちゃいけない死者(ルーシャ)の記憶を今まで持っている。こんな事は前代未聞。だから、あの日の前に取りなさいよ」

「……いや。なぜ、どうして、記憶が必要なの? こんな事をして、残してきた人たちを苦しめるのは何で!?」

 サラは、呆れたような顔をしてため息を吐いた。

「あそこにいるのは何かしら未練を持つ者。でも、根本にあるのはこの世界に居たい、という気持ち。でもね、死者の魂を留めるには力が要るのよ。その力が、記憶よ」

私たち(死者)の勝手でこんな事になっているの? そんな事――」

「可笑しいって? そう、可笑しいでしょ。この世にいる時は記憶を奪わないで欲しいと思いながらも、自分のためならそうした事も出来るのよ」

「……そんな事信じられるか」

 ニコが剣を握る力を強めた。

「じゃあ、あなたには記憶が無くなることが説明できる? ルーシャや私が、死んだはずの人間がここにいることを説明できる?」

「……それは」

「まあ、実演もありね」

 サラは刃物を放り投げて、手をニコにかざした。その行動の意味を私は、知っている。あの日たくさん目にしたし、自分も同じことをしていた。

 世界のためと思っていた。それは、結局は自分のためでしかなかった。

「やめて!!」



 時間が飛んだようだった。目の前にいるニコは、もう、ニコじゃなかった。

「なんで子どもがここにいる。出ていけ、勝手に入って良い場所じゃない。衛兵に送らせるから、行け」

 ニコの背中が遠ざかって行ってしまった。

 私を見たその瞳には何の感情もなかった。私の事を大切だと言ってくれたニコがいない。

「さ、帰ろう? ルーシャ」

「どうして、こんな事、するの……」

「こうでもしないと、ルーシャはあの世界に居られなくなるわよ」

「私はこんな事望んでいない」

「あなたは例外的に記憶の大切な部分をニコと共有していたから、強制的にあの世界に居たわけだけど。それでも、あいつには会いたいでしょ」

「私は、残してきた人が苦しむ姿なんて見たくない」

 この世界に来ることを許されるのはいいことかもしれない。たとえ、1年に一度しか会えないとしても、顔を見る事が出来るだけ、触れる事が出来るだけ、幸せかもしれない。その代償がその人を苦しめることになったとしても。

 だけれど、それで本当にいいのだろうか。

 私たちが死んでしまったことはどうしようもない事で、本来ならばこんな事になってはいけないはずだ。私たちは自分の運命を受け入れなくてはいけない。

 そしてなにより、残してきた人の幸福を願うのが私たちのするべき事ではないのか。

「なに言ってるのよ」

「サラ、こんなのは誰も幸せじゃない」

「……だから、嫌いなのよ」


 キンッ


 金属と金属がぶつかる音がした。目の前で起きたことが信じられなくて目を見張る。サラも同じ顔をしているだろう。

「やめろよ」

 私の視界は背中によって遮られた。

「つくづく、面倒くさい事をしてくれるのね」






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