王子
俺はもう、逃げない。
ドーン!!!!
大きな音がまた聞こえたが、それは玉座の方だった。
玉座には陛下がいる可能性が高い。俺は玉座へ走った。その後をすぐにルーシャとアステリが追いかけてくる。
玉座の扉が見え、俺は一気に押し開けた。
そこにいたのは陛下の首にナイフを押し当てているシンとその仲間であると思われる2人の男。そして、それに対峙しているジュラだった。
「ルーシャ、入り口でじっとしてろよ」
「うん」
扉の近くにルーシャを待たせた。何が起こるか分からないため、俺とは距離を置いた方がいい。
足元にはまだ煙が残っており、建物が焦げた匂いがしていて、むせそうだった。
「久しいな、シン」
「戻られているとは知りませんでしたよ、ニコ」
驚いているが、慌ててはいない様子でシンが言った。
戻られている。と言ったところを見ると、俺がこの城から出ていった事を知っているようだった。この事は口外していないはずだが。
「俺が城にいないなんてどこで知った」
「そんなこと分かりますよ。私はあなたの教育係だったのですから」
あの頃と変わらないような優しい口調で言っていたが、今はシンが少し、恐ろしい。
「あなたのお披露目は延期されている。それに第1王子の視察もない。そうなれば、あなたの事だ、このどうしようもない国王が耐えられなくなったのだとすぐ分かりました。そんな国を私はいつまでも放っては置けなくなったのです」
確かに、そうだ。この国は放って置いてはいけない。陛下に任せたままでは、きっともっとこの状況は悪化していくだろう。
しかし、シンがしていることは正しいとは思えない。革命を起こさなくてはいけないのは分かるが、多くの人を傷つけすぎている。痛みの上に成り立つものなど、いつか崩壊しかねない。
「シン、それは分かる。だが、本当に陛下を討つつもりか」
「そうしなければならない」
シンは迷いなくそう言い放った。
「やめろ、こんな事をしてただで済むと思うな」
「ただで済むとは思いません。俺はあなたがいなくなればそれでいい」
シンの纏う空気が冷やかになった。このままでは本当にいけない。
シンは陛下に手を下すであろう。それはいけない、シンに人を殺させてはいけない。
「兄さん、止めなよ。無理、してるんでしょ」
ジュラがそう言いながら一歩、シンに近づいた。
その時、シンが連れている2人が動いた。
金属と金属がぶつかる音が2回聞こえた。
「やっぱ、愛されてるねぇ。ボクって」
「1対2なんてどうかと思っただけよ」
アステリがいつの間にかジュラと2人で応戦していた。 なんだかんだ言いつつも、あの2人は幼馴染で、いいパートナーなのだ。もちろん、戦いの時限定ではあるが。
「もういい」
シンが手に力を込めた。陛下の首からつうっと赤いものが流れる。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいい!」
「やめろ! お前のために言う。やめろ!! 俺の教育係はそんな事しない。俺が慕っていたシンは人を殺したりしない。そいつが、どんな人間であろうと」
俺がそう叫ぶと、シンの手が止まった。これをチャンスとばかりに間合いを詰めて、ナイフを手から叩き落とす。
「くっ」
そして、陛下をシンから引き離す。陛下はよろよろと、俺の隣にへたり込んだ。
しかし、なおもナイフをとろうとするのでそれを思いっきり蹴り飛ばす。
だめだ、まだシンは諦めていない。どうしたらいい、どうしたら止められる――。
『逃げないで、ニコにはニコしか出来ない事がある』
俺にしか出来ない事。
俺には変える力がある。それだけのものを生まれながらに持っている。
「俺が、この国の王になる。そして、この国を変える」
そう言うと、玉座はあっという間に静かになった。
誰もが驚きの表情を隠せないでいる。
「私は、まだお前に王位を譲ら――」
「自分のお命が惜しくないのですか?」
「なっ」
「陛下、いや、父上。これ以上あなたに失望したくはありません。今ここで王位を私にお譲りください」
陛下はそのまま下を向いて黙ってしまった。
そして、俺はシンに向き直る。
「シン、俺はお前に教えてもらった事を無駄にしない。俺は逃げない。だから、退いてくれ」
シンは笑っていた。
「随分、大人になられましたね、ニコ殿下」
その表情を見て安心した。その顔は俺が知っているシンだった。
「国王、ニコ王子を新国王とする声明を直ちに発表してください。それが成った時、私たちは退きましょう。そののち、私たちの処分を決めてください」
「……」
陛下は黙っていたが、すぐさま国民へ向けて新国王誕生を告げた。
その言葉を聞き、クーデターを起こしていた者は武器を捨て、おとなしく投降した。
陛下は軽傷を負っていたため、その後寝室へと戻られた。その姿はなんだかとても小さく見えた。今度じっくり話し合うべきなのかもしれない。
「じゃあ、俺は兄さんを送ってく」
クーデター首謀者であるシンは処分待ちという事でいったん投獄しなければいけなかった。
「頼んだ」
「りょうかーい。殿下」
ジュラはヘラヘラと笑いながら玉座を出ていった。
「相変わらず、調子のいい奴だ」
「そうでしょうか」
アステリが意味深なことを言ったので何のことかと尋ねてみたが、笑って誤魔化されてしまった。ジュラに変わったことなどあっただろうか。
「ニコ、ニコならきっとちゃんと出来ると思うよ」
ルーシャは先ほどまで離れていたが、今は隣で微笑んでいる。
「ありがとう。お前のお蔭だ」
「どうしたしまして」
威張るように言ったルーシャがおかしかった。
きっと、ルーシャがいなければ、俺はこんな事言い出したりしなかっただろう。過去でも現在でもルーシャには頭が上がらない。
「さて、これから忙しくなるな」
「あら、結局国王はご存命なのね。つまらない」
姿を現したのはブラウンの髪に黒い瞳の少女だった。
何だか空気の方いらっしゃいますが
すいません、器用に喋らせられないだけです……。
では、次回お会いできることを願っております。
2014/9 秋桜 空




