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Memory World  作者: 彼方わた雨
第3章-世界-
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革命

 この国は変わらなければいけない。




 ジュラは颯爽と窓の外へ飛び降りた。

 止める暇がなかった。何より、ジュラの顔が何かを決心したかのようだったから止めてはいけないと思ってしまった。ジュラがあんな顔をするなど、いったいこのクーデターで何が起こっている。

「近年の要注意人物、そしてクーデターの首謀者と思われる人物……桃嶋・シン」

 俺の問いに答えるかのようにアステリが呟いた。

「シン、だって?」

 俺はその名に聞き覚えがあった。かつて、俺の教育係を担当していた者だ。俺のことをきちんと見てくれる人間で、そして、母上以外に初めて心を許せると思えた人物。

 しかし、反王政的思想を持っていた、さらに、次期国王にその思想を吹き込んだとして開拓地送りになった人物。

 だが、姓が桃嶋とは聞いていなかった。いや、知らなかった。

「シンは桃嶋の人間か?」

「ご存じなかったのですか。シン殿は桃嶋家の長男で一族から上級貴族階級を剥奪した男です」

「じゃあ――」

 桃嶋、そして、覚悟を決めたジュラのあの顔。


「ジュラのお兄さんですよ」


 あいつは止めるつもりなのだ。兄を。

 確かに、反王政的な、国民に耳を傾けた思想は持っていたが、シンがここまでの事をするとは思わなかった。というよりは、ここまでの事をして欲しくはなかった。

 あの優しく、人の本質を見定める事が出来るような温厚な人間がここまでしなければいけない国になってしまっているのか、堕ちてしまっているのか……。陛下はいったい何を見ていたというのだ。国王として、そして、国民の一人として。

「騒動に乗じて逃げるなら、今です。私が城を出るまでの逃走経路を確保します」

 一刻の猶予もないと言う様にアステリは一息で言った。執務室の外からも人々がクーデターを止めようと廊下を走り回っているのが分かる。

 そう、逃げるなら今しかない。こんな騒動の中、俺を発見したところで追いつくのは無理な話だ。しかも、城の外に出てしまえばクーデターをそのままに俺を追うことも出来ないだろう。

「……また、逃げるの?」

 今まで黙っていたルーシャが低い声で俺に言った。別に俺を見つめて言ったのではなかったが、あからさまに俺に向けられた言葉だと思った。


 ドーン!!!


 またしても爆発音が響き渡る。

 その時、ゆっくりとルーシャは俺と視線を合わせた。

「逃げないで、ニコにはニコしか出来ない事がある」

 俺にしか、出来ないこと。

「ジュラのお兄さんは国王を討とうとしてる。兄弟でさえも容赦ないかもしれない。そんな事、ニコだって分かるよね。それを、知っていながら、知らないふりをして逃げるの?」

 シンには人を、殺してほしくはない。戦いも起こしてほしくはない。あの時のシンを俺は慕っていた。ジュラと対峙するようなことがあったら、最悪の事態も起こるかもしれない。俺は聞いたときそう思っていた。


「誰かじゃない。変わるなら今だよ」


 俺はこの国が変わって欲しいと思っていた。

 誰かが変えてくれるのを願っていた。

 陛下に意志に反する人が多くいるのを知っている。

 俺も陛下のやり方はおかしいと思っていた。

 だから、誰か俺じゃないやつが国を変えてくれると思っていた。


 まず、変わらなきゃいけないのは俺だった。


「アステリ、俺はここに残る」

 アステリは驚いたようだったが、すぐに嬉しそうに顔をほころばせた。

「行きましょう」

 鳴り響く爆発の音が怖いわけじゃない。でも、それよりも怖いことがある。大切な人が良くない方へと変わってしまう事、見て見ぬふりをして後悔してしまう事だ。

「ルーシャ、お前は――」

「私も行くから」

「おい、こればっかりは聞けないぞ」

「行く。私だって逃げない」

 ルーシャのエメラルドグリーン色の瞳は絶対に意志を変えないと、そう言っていた。こうなってしまえば梃子でも動かないだろう。

「分かった。……傍を離れるなよ。守れなくなる」

 そして、俺たち3人は執務室を出て黒煙が充満した場所へと急いでいった。



―玉座

 辺りが騒然とする中、玉座には国王、国王の腰巾着、シン、シンの連れ2人、ボクの合計6人が対峙していた。一応俺は国王側に付いているが別に国王のためではない。

「はっでにやってくれるよねー。兄さんは派手好きじゃなかったけどな?」

 久しぶりに見た兄さんは少し、痩せていた。しかし、その瞳は爛々と輝いており、不気味に思えるくらいだった。昔からこんなんじゃなかったのにな。

 腐った王に腐った制度、そして、国民までも腐らせていく。とんだ迷惑だよ。

「ジュラ、こうでもしなければ俺たちはこの国を始めさせられない、分かるだろう」

「だからって、多くのけが人、最悪死者も出していいワケ?」

 シンの表情が少し揺らいだが、またすぐに元に戻ってしまった。

 確かに、変わらなきゃいけないよ。そのために、国王をどうにかしなきゃいけないことも知っていたし。それでも、これではシンは反逆者だし、これで革命が成ったとしても人を傷つけたことに変わりはなくなってしまう。

「こんな事をして、お前は犯罪者だ。そんなお前が国を仕切ろうなどふざけている」

 いやいや、そっくりそのまま国王(あなた)にお返ししますよ。金にしか目に入らないような人間が国を仕切ってるなんて、この国は可哀想です。

 それに、あなたが喋ると火に油を注ぐだけになっちゃうから、ホントに黙っていて欲しい。これ以上クーデターを起こした奴らを逆なでしないでくれ。

「あんたさえいなければ俺だってこんなふざけたことしませんよ」

 そう言ってシンは視線を下に落とした。

 なんでだ。ふと俺はシンの連れが何かを投げつけようとしていることに気がついた。

「――くっそ!」

 今まで、死者は出ていないと聞く。ここに来てあからさまな殺意を出してきた。やはり殺すのは国王唯一人という事だ。だが、こっちだって身内を殺人者になんてすることは出来ないんだって。

 俺は国王をグッと引っ張って投げつけて来たものから国王を離す。

 それが床につくと、熱風が襲ってきた。


ドーン!!!!


 腰巾着は吹き飛ばされてしまったようでぐったりとしていた。側によってよく見ると、脈もあったし、外傷もない。気絶しているだけだった。

 国王はどこ行ったかな、と黒煙が退くのを待ちつつ、辺りをぐるっと見た。国王を見つけたは見つけた。

 爆弾から国王を離したのはボクのファインプレーだと思っていたけど、離す方向を間違ってしまったようだった。

「ひぃぃぃいいいっ!」

「……ボクってば、ドジっ子」

 シンに捕まり、首にナイフを押し付けられている国王をボクは見つけてしまった。

 が、玉座の扉がその時、開かれた。






「……ボクってば、愛されてる」







ニコは着々と大人になっていますね。


では、次回お会いできることを願っております。

2014/9 秋桜(あきざくら) (くう)

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