少女
私、ルーシャは今年で12歳になる。
12歳になると私たちは記憶をとりに行く。そして、世界に捧げるのだ。これはとても重要なことみたい。世界はそうやって保たれてきた。それは昔から変わっていないとばば様に聞いている。
ばば様は何でも知っているすごい人なの。この世で唯一の人だとみんな言っている。ばば様は優しいからみんなから好かれている。
そして今日、初めて私は世界のためにお仕事をするのだ。私もようやく子供扱いされなくなるはず。
私は時計台を目指して歩いている。夜中の12時に大きな時計台の広場に集合する。となりを歩く友達のサラの堅い表情はふわりとしたブラウンの髪に包まれている。
「ルーシャ、緊張するね」
彼女の黒い瞳はとても不安そうだ。
「緊張するけど、少し楽しみかな?」
私も実はものすごく緊張していた。けど、楽しみでもあるのは本当に本当のことだった。街からでることを許されるのは、記憶をとりに行く今日この日だけ。なぜだかは知らないけれど……。だから、とても楽しみなのだ。12年間待ち続けて、ようやく叶う夢の1つ。
「準備はいいか? 合図があったら目を閉じて5つ数えたら開けろ。決して途中で開けてはならないぞ」
私の心臓の鼓動が早くなる。ついに行くのだ。
そして、指揮する20代くらいの男の人が合図をおくる。それを見て私は目を閉じた。
(1、2、3……5)
目をあけるとそこには真っ白な地面と空には無数の星があった。暗いけどなぜだか不思議と怖くはない。しかし、とても寒く感じる。これが冬という季節なのか……。
「今日が初めての者は私についてくるように」
辺りをぐるっと見ていると急に腕を掴まれた。
「ルーシャっ、早く! おいて行かれるっ」
サラの方を見るとすでに何人かが移動を始めてしまっていた。このままでは迷子になってしまう。
私はもっともっとじっと見ておきたかったが、諦めてみんなの背中を追いかけていくことにした。
小さな男の子、女の子。若い人も年をとった人も。いろんな人の記憶をとっていった。人それぞれに楽しい記憶があっておもしろかった。でも、その人たちは今日でその記憶ともお別れである。大事な記憶がなくなってしまうというのは一体どんなものなんだろう。私には分からなかった。違う、知りたくもなかった。悲しみしか残らない、そんな事は嫌だ。目の前ですやすやと眠るこの小さな女の子は明日どんな風に目覚めるのだろうか。きっと、それは辛いだろう。でも……
「ルーシャどうしたの?」
気がつくとサラが私の顔をのぞき込んでいた。
「ごめん。何でもない」
「これは必要なことなの。世界が崩壊してしまわないように。こうしなければ、この人たちだって生きてはいけないんだよ。ね、ルーシャ?」
サラが言っていることは正しい。記憶を差し出さなければ、この世界が崩壊する。それだけはなんとしてでも阻止しなければいけない。私たちは重要な役目を負っているのだ。
私は女の子の額に手をそっと当てる。そして、目を閉じて彼女の記憶をたどっていった……。
私は知らないうちに泣いてしまっていたようだ。どうしても耐えられなかった。無理だった。サラは意外と平気な顔をしていた。心配されたが、私は力なく微笑むことしかできなかった。
「これから私たちは戻る。また来た時と同じように目を閉じて5つ数えろ」
たくさんの記憶。これでまたあの人たちは1年楽しい、嬉しい記憶を1から積み重ねていく。そして、また私たちが奪っていってしまうのだろう。
『この世界は、記憶によって成り立っている。記憶がなければこの世界は崩壊する。捧げよ、それは世界のため』
頭の中でばば様の言葉が響いている。そんなことは分かっている。その時はっきりと分かった。ばば様の深刻な顔を思い出す。でも、そう簡単に理解できることではなかったのだ。
「では、戻るぞ」
私はゆっくりと目を閉じる。
(1、2、……)
『ま……て、……ル……ルーシャ!!』
私を呼ぶ声?
気を抜いた次の瞬間、私の目はあの無数の星が散らばった夜空を見ていた。
ふわっと体が浮いている感覚に気がつく。
そして、私は体に大きな衝撃を感じたのだった。
その時、無数の星は見えなくなっていた。
ついに本編がスタートしました。
いかがだったでしょうか。と、言ってもまだ始まったばかりですね……。
この話を書いていると「本当に12歳か……?」と思ってしまう自分がいました。
でも、12歳です。12歳ということにしてください!
ルーシャちゃんはれっきとした12歳です。
ちなみにルーシャという名前の由来は勘です。
深い意味はないですが、ルっていう言葉を入れたかったからです。
私の名付けはそんな感じです。これからの登場人物もそうです。
サラも同様です。
そして、これから恋愛要素も入ってきます(多分)。
また次回でお会いできることを願っています。
2014/3 秋桜 空