衝突
いつの間にそんな偉くなったの?
目の前に見えるのは、あの懐かしい、そして忌々しい俺の生まれ育った場所。もう来ることはないと思っていた。それでも、ここに来なければルーシャを助けることはできない。
「こっちからなら行けるよ」
城には堂々入ることはできないため、俺はジュラに先行してもらい、人の目をかいくぐりながら進んでいった。ついに、城の中に入ろうとするところである。だが、足がすくんでしまう。身体がこの城に入ることを拒否してしまっている。
ここまでとは思わなかった。城に入ろうと思えばあっさり入ってしまうことができると考えていたが、甘かったようだ。そこまで、俺はこの城が、陛下が嫌いだったんだな。
「何してるの、ニコ」
「……分かっている」
だからと言って、ここにいるわけにはいかない。俺は何のためにここまで来た。全部思い出し、ルーシャに会って、聞きたいことがたくさんあるんだろう。なにより、ルーシャを助けたいんだろう。ルーシャに会いたいんだろうが。
俺は一歩踏み出す。
城は変わらず、まるで昨日までここに住んでいたかのような感じだった。それが何となく悔しく思ってしまう。やっぱり、生まれたこの城に何かしらの愛着はあるらしい。
あんなにも拒んでいたはずなのに笑えてくる。
「……城が騒がしい。もしかしたら、ルーシャちゃん先に動いているのかもね」
ジュラに言われて、俺も耳を澄ませ、城の気配を探る。すると確かに、人が走り回っている音が聞こえる。案外遠くはない。
ジュラを先行させ、さらに騒ぎのする方へ近づいていく。人々が慌ただしく動いているのがはっきりと分かるようになってきた。
話し声からリュエルの客人が逃げ出したと言っているのが分かった。リュエルが絡んでくるとなればルーシャの事で間違いないだろう。あいつが連れてきて閉じ込めていただろうからな。
さて、ルーシャはどこに逃げたのか。
俺たちは情報源である城の使いの者たちの話し声に聞き耳をたてながら、ルーシャを探す。動き回っていると思われるルーシャはなかなか発見することができない。
「いてっ」
と、急にジュラが立ち止まったため、俺は背中にぶつかった。
「急に止まるな」
「あー。見つかりました」
ジュラは自分が何を言っているのが分かっているのだろうか。見つかったという事は、城の者に気がつかれてしまったという事じゃないか。のんきに、見つけられたことを報告している場合ではない。
俺は振り返って、引き返そうとしたが、ジュラは全く動こうとしなかった。
「何を考えている、早く逃げるぞ」
「いやー、ここはご協力をお願いしましょう」
ジュラを睨んで抗議の意思を向ける。しかし、ジュラに視線で誘導され、ジュラの背後にいる人物と目が合ってしまった。
「ニ、ニコ様!?」
目の前にいたのは、目を見開いて思いっきり動揺しているアステリだった。
その姿は俺が逃げ出した4年前とそんなに変わりがなかったが、少し疲れているように見えた。さすがに、4年間ジュラもろくに城にいることはなかったため仕事は全てアステリがしてくれていたせいだろう。罪悪感が心の中に広がっていく。
「ちょっと、アステリ協力して。あと、静かにね?」
「そんな事、いったい4年間どこに……。心配しましたのに」
「すまなかった。だが、今は急ぐ。頼む」
その場に居続けると目立ってしまうため、目立たない陰の方に移動し、俺がここにいる経緯を話した。アステリは黙って聞いていた。それがありがたかった。
アステリはジュラとは違い、普段から真面目で、仕事も早い。責任感もあり、立派な人物である。
「分かりました。私もルーシャという少女を探します」
「……ありがとう」
そして、快く快諾してくれたのだった。
「ただ、条件をお一つ」
俺にまっすぐ向き直った。俺は視線を逸らすことを許されなかった。
「出ていかれた経緯を聞きに行きます」
俺は間抜けな顔をしていたかもしれない。
てっきり、早く帰ってこいと言われるかと思っていた。だが、彼女は城に帰ってこいとは言わなかった。まさか、自分から聞きに来てくれるとは……。
俺は笑いをこらえることができなかった。
「笑ってる場合じゃないでしょ~」
「……悪い。では、頼んだぞ」
そして、俺たちはまたバラバラになってルーシャを探した。
2人が去った後をアステリは見つめていた。
(……笑った)
アステリはその姿を見て安心したが、同時に少し寂しく思ってしまった。そんな事思っている場合ではないと頭を切り替え、少女を探した。
ほどなくして、アステリは逃げ惑う少女を発見した。
警戒されるのは当然の事なので、無理矢理にでも確保することを決めた。
「うわっ――」
少女を陰に引き込み、口を手で封じた。
「黙って、私はアステリ。ニコ様の側に仕えていた者よ」
少女はニコの名前を聞くと表情を緩ませたが、アステリを不審げに見ている。本当に信じてもよいのかと考えているようだった。
「ニコ様のところまで連れていく。フレメイル家の名に懸け、嘘はついてないと誓う」
そこまで言うと、少しは信用してくれたようで、少女はこくん、と頷いた。
アステリが向かったのは第1王子ニコ・ピアノリアの執務室だった。
近くにある椅子に座らせて、しばらく待っていると執務室の扉が開いた。
「ニコっ!!」
ルーシャは一直線にニコに飛びついて行った。それを見事に受け止め、大事そうに抱きしめるニコの顔がゆるんでいたのは気のせいではないだろう。
ボクが止めたのに何も効果がなかった。そればかりか、ボクの言葉でニコに火をつけてしまったらしい。ずっと閉じ込めていた、ルーシャの記憶。それが、蘇ったニコには大きな力となった。ルーシャとの楽しかった記憶があるからこそ、ここまで来ることができたのだろう。
ボクは何となく面倒くさいなんて思ってたけど、こういう展開は嫌いじゃないかな。
「私、思い出した。ニコ」
「やっぱり、ルーシャか」
死んだはずなのに、ここに少し幼くなったルーシャがいる。ニコの言っていたことは本当だった。
ルーシャという人物は過去に存在していた。それは俺も分かる。ルーシャの名を聞いたとき、引っかかった。だが、同一人物だとは思わなかった。だって、フツー分かんないでしょ。
まあ、じっくりそこら辺の話を聞きたいところ、だ・け・ど――。
「感動のほーよー中悪いんだけど、ここに長居するわけにはいけないんだよね」
少し顔が赤くなったが、ニコはゆっくりルーシャを離して手を取った。
「ここから、出るぞ」
ニコが言い、ボクも頷いて執務室のドアに手をかけた。
今まで、ずっと黙って空気を読んでいてくれたアステリに一言告げる。
「アステリ、悪いね。また後で必ず来るから」
「嘘だったら、切り刻む。……ニコ様を頼んだわ」
急にしおらしくなったので変だなと思ってクスッと笑う。すると、思いっきり睨まれた。アステリは本当に怖い。ニコと同じかそれ以上だ。
「頼りにしてる」
「わ、分かりました」
まっすぐ目を見て言ってきたので少々動揺してしまった。ポーカーフェイスがお得意のボクが大失態だ。
「いつものおちゃらけ口調はどこ行った」
「はいはい、今行きますよ。ニコの事頼まれちゃったしね☆」
「じゃあ、さっさと――」
ドーン!!!!
行こうとしたその時、城中に鳴り響く大きな音が聞こえた。まるで、何かが爆発したような大きな音。
嫌な予感がして、ボクは窓に駆け寄る。そこから外を見れば、黒煙が黙々と正門のあたりに立ち込めている。そして、金属と金属が打ち合う音、うめき声、叫び声も聞こえてくる。
いつの間にか隣にアステリがいて、深刻な顔をしている。
「クーデター、ね」
アステリは予想していたようにこの騒動の目的をはっきりさせた。
「コルダン村の人々が動いたのね。来ると思っていたけれど、今日だとは思わなかった」
黒煙の中から何人かが現れた。先頭を歩く人間をボクは見たことがある。
『……ああ、そういえばジュラ、お兄さんは元気かな?』
姿は久しぶりに見たが、ずいぶんと元気そうだ。
「ニコ、悪いんだけど、ルーシャちゃん連れて早く行って」
ニコは驚いた表情をしていた。
そりゃそうだよね、今まで一緒にここから出る気満々だった奴が何言ってんだって話だよね。
「ボク、用事を思い出しちゃったんだ」
ジュラは普段は真面目ではありませんが
ここぞという時にしっかりしているので、
一応ちゃんとしています。
では、次回お会いできることを願っております。
2014/9 秋桜 空




