夢幻
私は、どうして──。
唐突に私は目が覚めた。そして、急に私の中に蘇ってきた、記憶。
どうして、こんなこと急に思い出したのだろうか。夢か幻か。だが、その記憶は今、鮮明に私の中にある。2年前私は死んでしまった。ニコを置いて逝ってしまった。しかし、そうなったはずなのに、私はなぜ、今もここにいるのか。
転生したわけではない。それは私が分かっている。ルーシャはルーシャのまま生きている。生きていたルーシャ、そして生きている私。年は違うし、まず、私は死んでいる。
いったいこれはどういうことなのだろうか。
私はとりあえず起き上がって足を見た。
ちゃんと足はあるから幽霊ではない。ちゃんと自分の意思で動くし、感覚もしっかりある。やっぱり私は生きているのだ。
そして、私は気がついた。まわりの様子がいつもと違うことを。
見慣れたニコのあの家ではない。ここは……。
『ルーシャ、我々と来なさい』
アルトの声が私の中で響く。
そうだ、王子に連れてこられたのだ。つまり、ここは城という事になる。ニコを苦しめていた、その場所に私は来てしまったのだ。
ニコもジュラも心配しているだろう。早くここを抜け出したい。ニコはここにはきっと来ることができない。ここに来てしまったら、最悪、ニコは……。
でも、どこかで迎えに来てほしいという気持ちがある。そして、この国を変えてくれるのではないかという期待も、なぜかニコといると生まれてくれるのだ。
ニコに言いたいことがたくさんある。あの時、もっと早く森から出ていれば、私がドジをしなければよかった。あのまま、ずっと一緒だったらよかった。
『俺にとってルーシャは大切な人だ』
ニコは今でも、私のことを……いや、この世界でそんなことはない。あの日を境に死んだ者の記憶は全てなくなってしまうのだから。ぼんやりとそんな人がいたような気がする、と思われる程度だ。でも、今頃になってなんでこんな記憶が蘇ったのだろう。
記憶が蘇ったことは謎だが、私が死んでいることには変わりはない。そして、私が12年間暮らしていたと思っていた場所はいったい何なのか。実際は2年しかそこにいた記憶はないが、あの世界はこの世のものではない気がする。
あの世界は死んだ者が行くところだとしたら。それならば、あそこにいる全員が死んでいることになる。そして、その者たちがこの世界で記憶を奪っていることになるのだ。
この世界で記憶を奪われた者が今度は記憶を奪う者になってしまう。
だとしたら、この仮定があっていたとしたら、人々は残してきた者たちに悲しみしか与えていない。自分の事を忘れさせ、さらには、自分の大切だった人間から幸せを奪ってしまっている。なぜこんなことを世界が望んでいるのだろう。
それとも、これは、人々の望みなのだろうか……。
私には分からない。世界が、人々の事が。
そのことも重要だと考えるが、今は何とかしてこの城から抜け出さなくてはいけない。そうしなければ、ニコが困る。
私はまず、窓の近くに行った。窓は難なく開いたが、そこから下を見るとかなりの高さがあった。しかも、下は芝生が生えているとはいえ、何も衝撃を受け止めてくれるものがない。窓からの脱出は断念する。
今度はドアだ。捕まっている人間がいるのに、この部屋のドアに鍵をかけないはずなどないのだが、万が一の可能性もあることを信じて扉を開けようとする。
しかし、案の定、開くことはなかった。
困ったものだ。出る事が出来そうな場所はどちらもダメだ。そして、もう一度考え直すためにベッドに戻る。なにげなく、ベッドの横にあるテーブルを見ると、そこには水が入ったガラス瓶とコップがおかれていた。
「……なるほど」
人質に死なれてしまっては意味がない。だから、必要最低限の食事、もしくはおなか一杯の食事がゆいされることが予想できる。だとしたら、その時を待つしかない。
それでも、一刻も早くここから出ていきたいのだが……。
こうなったら、手段なんか考えてはいられない。私は深呼吸してドアに近づき、懸命にドアをたたいた。
「ここはどこ! 教えて!」
私が起きたと分かれば、どうにかするはず。
そして、何分か経ったのち、ドアが開かれた。
「お目覚めになられたのですね、ルーシャ様。リュエル殿下の客人だと聞いております」
やってきたのは城のメイドと思わしき人間だった。リュエル殿下、私を連れ去った張本人か。客人としてこの部屋に閉じ込められていたのか。客人に対する対応ではないと思うのは私だけなのかな……。
彼は王子と言っていた。つまり、ニコの弟なんだ。今思えば雰囲気が少し似ていたような気がする。でも、リュエル王子はなにか違う感じがした。
「お食事をお持ちいたしました」
私が考えている間、丁寧にメイドはテーブルに食事を並べた。焼けた肉のいい香りと、香ばしいパンの香りがする。うっかりそのごちそうに負けそうになるが私は頭を振ってその考えを押しやった。
脱出、脱出するならば今! 私はメイドの脇をすり抜け、廊下に出た。メイドはハッとして、私を逃がすまいとするが、私の動きの方が早かった。
「お待ちください!!」
メイドの叫びを背に、廊下に出た私はとりあえず、下へ行けるように階段を探した。
「急に倒れて、急に起き上がったと思えば、またもや急に動き始めるし」
「黙って馬を走らせられないのか」
「はいはい」
全て思い出した俺は迷わず城へ向かった。俺はルーシャとの思い出を奪われたんじゃない。俺自身で隠したのだった。受け入れたくない、そんな辛いことならばなかったことにしてしまったのだ。
忘れたことで記憶は今まで奪われずにすんでいたようだが、ルーシャとの思い出をなかったことにしていた自分が腹立たしい。奪われてもよかった、それまで、ルーシャのことを思い続けていられた。ルーシャとの思い出は確かにあったと、思うことができていただろう。
そして、もう1人のルーシャ。なぜここにいるのか、ルーシャがあの時のルーシャという事は分かるが、実際にちゃんと聞きたい。死んだはずなのに12歳の姿になってこの世界に戻ってきたのか。本当にルーシャ本人なのか。それを聞かなければいけない。
――あと、もう少しであの場所に辿り着く。
俺は覚悟を決め、前を向いた。
―王都周辺
「――やっと、ここまで来たな」
普段コルダン村には開拓のため、人々の声、岩や石を砕く音などが聞こえているが、今は不気味なほど静かである。
それもそのはず、誰もいないのだから……。
無階級、そして、反現王政を訴えた者。革命の意志を携えた人間が多く集まるこの地でその者たちは動いていた。着々と準備を進め、来る日を待ちわびて。
「王都へ向かいましょう、桃嶋殿」
ちなみにタイトルは夢幻です。
だんだんとクライマックスに近づいております。
王都に役者が勢ぞろいですね。
もう少し続くと思いますのでどうか最後まで
よろしくお願いします。
では、次回お会いできることを願っております。
2014/9 秋桜 空




