大切
ここに来て良かったけど、良くなかった。
あれから俺はこの村に残ることにした。俺の居場所はもう、ここ以外に見つけることができない。いや、俺がここにいたいと願っているんだ。もう、居場所を失いたくない。
俺は村のはずれにある小屋に住むことにした。長年使われていない家だったため掃除に、修理に大変だったが、ジュラと、そして、ルーシャが手伝ってくれた。
村のはずれという事で村と同じ被害にはあっていなかった。やっと住めるようになった次は作物を育てるために畑を耕した。牛も豚も飼うことにした。
1から自分の手でしていくことが新鮮で、そして、喜びだった。
「ニコ、また明るくなったね」
「え」
作業の途中そんなことを言われた。俺は複雑な気持ちになり、返答に困っていると、ルーシャは何事もなかったかのようにまた作業に戻ってしまった。
だけど、もし明るくなっていたとしたら、それはルーシャがしてくれたことだ。それ以外には考えられなかった。
「ねぇ、ルーシャ。毎日どこへ行っているの?」
今日もニコのところへ出かけようと家を出たとき、親友のサラが前に立ちふさがった。彼女の表情から感情がいまいち読み取れないほどサラは無表情だった。それが、怖かった。
「ノクタルン村」
「まさか、あんた、本当に第1王子のこと匿っているの!?」
サラは急に声を荒げてしまった。確かに、第1王子をノクタルン村で匿ってしまったからこんな状況に陥っていると思うが、他の村人はニコを恨んでなどいなかった。むしろ、ニコを心配する人の方が多かったくらいだ。
「あのクズの息子よ! 私の両親を殺した、クズの中のクズの息子よ!? そんな奴を庇って何になるっていうの!」
「サラ、落ち着いて。この国の王は、ニコの父親は確かに酷いよ。でも、だからって、ニコも一緒にするの?」
「落ち着くのはあなたの方! よく考えてもみなさいよ。あの王の息子よ。表面はよくても裏であなたを嘲笑っているかもしれない!」
サラは変わったと思った。昔は、サラの両親が生きていたころはこんな感情を荒げたりしなかった。サラの両親が亡くなったのは、この国の厳しい税制に耐えられなかったから。簡単に言えば、王のせいになる。それから、サラは……。
「サラ、私はちゃんと知ってから善悪を見極める。だから、行くね?」
私の中でとっくにニコの見極めなど終わっている。それでも、サラにそのままいう事は出来なかった。
「……ルーシャ」
私はサラを置いて、今日もニコのもとへ向かった。
「……あーあ。残念」
「……やはり、あの小娘か」
「小娘という居場所、ですか」
「居場所など、城にしかあるまい」
今日はいろいろと作業がはかどった。作物もそろそろ収穫を迎えようとしているし、別に育てているものに異常はなかった。
「毎日悪いな」
「別にいいよ」
さわやかな風が吹いて、彼女の金色の長い髪の毛がきらきら光りながらたなびく。その姿に思わず見とれてしまうほどだ。彼女に会ったのは1年前だが、この年頃の1年は実際の時間よりも重いものだ。16歳の彼女は美しく成長している。
「ニコ。私にとってニコは大切な人だよ。ニコは?」
振り返りながらそう言って見つめてきた、彼女のエメラルドグリーンの瞳に吸い込まれそうだった。
俺を支えてくれたのは、彼女。
俺に救いの手を差し伸べたのも、彼女。
俺をニコとして見てくれているのも、彼女。
ここに一緒にいてくれるのも、彼女。
嬉しい感情を与えてくれたのも、彼女。
「俺にとってルーシャは大切な人だ」
ああ、言葉にしてはっきり分かる。目の前で笑う彼女が愛おしい。どうしても手放したくはない。彼女の隣も俺の居場所なんだ。
俺は彼女に手を伸ばす。ちゃんと、ふれることができた。
「……ありがとう、ルーシャ」
涙がにじんだ。でも、泣いている姿なんてさらしたくなくて、俺はルーシャを強く抱きしめた。彼女はその間何も言わなかった。けれど、その沈黙は心地よいものだった。
17歳の俺は、初めて大切なものを見つけた。
今回は少し短めですが、区切りがよいので。
ニコ、本当に良かったですね。
では、また次回お会いできることを願っております。
2014/9 秋桜 空




