異変
ほらね、やっぱり。
─王都セレナーデ
「この忙しいときになにほっつき歩いてたのよ」
ノクタルン村を出て、いろいろ見て回り、久々に戻ってきた時、この様にボクに厳しいお言葉が降りそそぐ。もう少し優しいとかわいいんだけれどな……。
「どっかの王子が逃げちゃったからだよー。ボクを責めな──」
「執事兼護衛がなに言ってんのよ!」
そして、華麗に蹴り飛ばされたボクはとても理不尽ではないだろうか……。アステリはボクを見下ろして、目の前に紙の束を落とした。
「いったー……で、ナニコレ?」
「目を通しておく資料。執務室にもいっぱいあるからね」
そして、美しくも恐ろしい笑みを浮かべた。
ニコと出て行ってからアステリにはだいぶ、いやかなり迷惑をかけてしまっているけど、ニコをあまり放っては置けない。兄さんから聞いてはいたけど、これはだいぶ厄介な王子様だよ。
頭を抑えながらふらふらする足取りで紙の束を持って執務室にむかった。いる間だけでもアステリを助けてあげないとね。
渡された資料に目を通しながら歩いていると、信じられない文章が見つかった。
──ノクタルン村にて第1王子らしき人物を発見。至急王に報告し、事を急ぐ。場合により、村への制裁を認めるものとする。
「……アステリ、ごめんね」
「……ジュラ?」
ボクはアステリが振り返らないうちにその場から立ち去った。
─ノクタルン村
「ニコ、この村から出て。一刻を争う」
部屋のドアが勢いよく開いたかと思うと真剣な表情のジュラが姿を現した。
ジュラはしばらくはノクタルン村に戻ってこないと行っていたが、とても焦っている様子から城で何かあったことは察した。
「……分かった」
そして、適当に荷物をまとめて部屋を出て行こうとした。部屋から出ると不安げな顔をしたルーシャが立っていた。
「しばらくこの村には来られない」
一瞬目を見開いて、黙ってしまったが、すぐに俺をまっすぐ見つめて笑った。
「いってらっしゃい」
「ここにいることがバレてる。ボクはあまり付いて行けないから、適当な潜伏場所見つけたら戻るね」
「……生誕祭は?」
「延長する形になる。ニコは20になる時に盛大に行われるみたいだ」
つまりは今すぐに連れ戻さなくても20歳までには必ず城に送り返されるわけだ。
ノクタルン村を出てだいぶ離れてきた。ジュラと並んで馬を走らせながらいい場所はないかとあたりを伺う。
そして、森の奥にあるボロボロの小屋に潜伏することに決めた。ジュラはよっぽどの事がない限り動かないようにと言った。
ジュラは辺りが明るくなった頃を見計らい馬を走らせ、王都へと戻っていった。
この時、俺はノクタルン村に残るべきだった。例え、あの苦しい城の中に戻ったとしても。
ジュラ言われてノクタルン村に戻ってきた。
だが、そこはもう、村じゃなかった。
人が1人もいない、荒れ果てた場所になっていた。ノクタルン村での楽しい記憶はすでに無かったが、その村の様子がひどく心に刺さった。
「……お帰り、ニコ」
声の方を見るとそこにはルーシャがいた。この少女は知っているが、どんな事がこの少女と俺との間にあったのかいまいち分からない。つまり──。
「……ただいま。……ルーシャ、何があったんだ?」
何となく理由は分かっていたが、聞きたかった。本当のことを。
ジュラも何も言わず、ルーシャの言葉に耳を傾けていた。
俺たちが村を出て数日後に城の者が来た。第1王子を差し出せと言われたが、ここにはいないと抵抗したらしい。俺が行った方向も頑なに教えなかった。しかし、それが仇となった。ノクタルン村全体が制裁の対象になった。井戸の水は枯れ、作物は原因不明の病気にかかった。動物も変死をとげ、人々は食べ物がなくなった。
ついに村を捨てなくてはいけなくなった。その頃城の者が来て言ったという「住めるよい村がある」と。
そして、村人たちはその場所に一斉に移住した。制裁を加えたのは城の者だが救ったのも城の者。
「……目的はニコへの脅しだね。ニコの居場所を奪うのも目的の1つなんだろうね」
悔しさと恐怖で固く目をつぶった。
「ニコ、村の皆は元気よ。大丈夫」
「……ごめん。いや、こんなんじゃ足りないな」
ルーシャが言ってくれたことは嬉しかった。でも、俺がそんなことを思っていいのか……。
「今はあの日が過ぎて間もないけど、楽しいことはいくらでも上書きできるし、私たちは負けない。だから──」
「悪い」
ルーシャの言葉が優しくて、裏がない事はわかる。だからこそ、辛いんだ。
俺は逃げるようにその場を離れた。
「ルーシャちゃんはどうしてここに?」
「2人に会いたかったの。私はニコと一緒にいたいの」
ジュラを真っ直ぐ見つめた。私の事を避けないでほしい。この村のことを思うのは仕方がない。けど、本当に思うならちゃんと向き合ってほしい。
「……ありがとうございます」
ジュラは珍しく頬をほんのり赤く染めて言った。
「あー、ところでさその頬の傷、どうしたの?」
私は左頬手を当てる。
『お前がニコ様と一緒にいたのは知っているぞ』
『ニコ様はどこだ』
『知らないわ!』
『あの方はこの国の王子だぞ』
『あの優秀な方こそ次期王に相応しく、王様の跡を継ぐ方だ。それを分かっているのか?』
──この人たちは、何も分かっていないのだわ。
『私はあなたたちとは違うっ!』
『小娘がっ!!』
あれからしばらく経つのになかなか切り傷は治らないわね。
「転んだのよ。私、案外ドジなの」
私はそれだけ言ってニコの跡を追いかけた。
もう少しだけ過去編が続きます。
最近は時間があるので時間を空けないで投稿していきたいと思います。
努力します。
では、また次回お会いできることを願っております。
2014/8 秋桜 空




