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Memory World  作者: 彼方わた雨
第1章-出会い-
10/25

兄弟

 お前のことなんて、大嫌いだよ。




 約2時間馬に乗って何とかノクタルン村に戻ってきた。

 しかし、俺の家の明りは点いておらず、真っ暗闇だった。この時間帯ルーシャがいないわけがない。だが、ルーシャがいるはずの家は真っ暗だ。

「ニコ」

 緊張した声でジュラが言った。あたりはしんと静まっている。確かにこの村には俺以外住んでいる住民はいないから、静かなのは当たり前なのだが、どこか不気味な静けさだった。

「分かっている」

 休まるはずの我が家についたが、緊張はほぐれていない。この異様な静けさに心が休まることはない。

 馬を家の隣の馬小屋につないで、窓から家の中を確認したが誰もいないようだ。念のためジュラがドアをそっと開ける。開けた瞬間さっと、家の中を照らす。

「誰も、いないな」

 そこにはいるはずの人間がいなかった。

 とりあえず、家の中に明かりを灯した。よく見るとテーブルに紙切れが1枚。ルーシャの字であった。そこには「暗くなる前に帰ります」と書いてあった。

 あたりは暗く、ルーシャも帰っている様子はない。

「何か、あったのか」

「もしかしたら、迷子になっちゃってるとかかなぁ?」

 だからあれほどふらふらするなと言っていたんだが……。

 だが、日が暮れてからだいぶ時間が経っている。いくらなんでも帰っていていい時間だ。こんな時間に帰っていないのは明らかにおかしい。迷子になったとしても暗くなる前であれば帰ってくることができると思う。ルーシャは幼いがしっかりしていると思う。

「ったく、なんな――」

「黙って」

 ジュラが鋭い視線をドアに向けている。その手にはいつの間にかナイフが握られていた。ジュラはさらにふっと灯したばかりの家の明りを消した。

 俺も静かに耳を澄ませていると、微かに馬の蹄の音がする。それも、1頭の馬ではない。2頭かそれ以上いるのは確かである。

 ここに来る人間はいないはずだ。だが、確実にこちらへ向かってくる。

 俺も腰にさしている剣を握っていつでも抜けるようにした。

 そして、馬の蹄の音から足音にかわった。人が来る。

 次の瞬間、ドアが開かれた。

 俺は剣を抜きドアを開けたであろう人物に標準を合わせた。

「歓迎してくれて嬉しいな」

 目の前には男が2人、俺とジュラに剣を向けている。そして、その奥にもう1人。そいつは、俺の方を見据えていた。暗いが、とても鋭い視線を感じる。

「明りを」

 奥にいたやつが言うとあたりがほんのり明るくなった。

「……お久しぶりですね、ニコ」

 そこにいたのは、現第2王子リュエル・ピアノリアだった。


 明るく灯された俺の家は、異様な空気が漂っていた。俺とジュラ、そして、第2王子と部下の兵士2人が対峙している。それぞれ、剣はおさめているが、いつでも斬りかかることができるようにはしているようだった。

「こんなところに第2王子様が何の御用でしょうか?」

 俺が少し皮肉気に言うと兵士たちが俺を睨みつける。一方、第2王子は微笑んでいる。気味の悪い微笑みだった。

「用は、ルーシャという少女は今、城で預かっている。迎えに行って欲しい」

 言い終わるとさらにニコッと笑いかけた。そして、1人の兵士がバスケットを俺の前に差し出した。反射的に受け取ってしまったそれは、ルーシャが最近出かけるときに持っていっていたバスケットだった。

「……っ」

「用はそれだけだ。では、邪魔した」

 そして、第2王子と兵士は俺の家を出ていこうとしていた。

「待てっ!!」

 慌ててしまいバスケットを床に落としてしまった。ドサッと鈍い音が響いた。

 俺の声に反応した第2王子は振り返って俺の方を見据えた。

「城に来ればいいだけのことだよ。……兄さん」

 俺と同じ髪色で、冷たいダークバイオレッドの瞳が俺を軽蔑するように見ていた。

 城に行くということがどれだけ俺にとって嫌なことであるかわかるはずだ。そして、俺はあそこにはもう戻りたくはない。

「あなたには無理か。何もかも捨て、こんなところに逃げてのうのうと暮らしているあなたには。……卑怯者が」

 リュエルはそう吐き捨て、暗闇へと消えていこうとした。リュエルは開かれたドアの前に立ち止まった。

「……ああ、そういえばジュラ、お兄さんは元気かな?」

 リュエルの言葉からは何も読み取ることはできないが、ジュラの表情が強張っているのがうかがえた。

「元気ですよ、リュエル様」

「そう、それは良かった。でも、おとなしくしていてくれると私はもっとありがたいのだけどね。」

 リュエルは最後にフフッと笑ってその場を立ち去った。

 俺はただ、こぶしを握りしめてその姿を見送ることしかできなかった。

「……くそっ」

 床に転がっているバスケットが目に入った。

 城には行きたくはないが、ルーシャが城にいるという事実は信じるほかないことだ。だから、城にはいかなければいけない。ルーシャをあそこに置いておくわけにはいかない。

 俺はリュエルを追うためにドアに手をかけようとした。

「行くつもりなの?」

 俺の手が止まった。いつもより低く、冷静なジュラの声が家の中に響く。

「よくものを考えてくださいよ。今城に行ったとしてもどうせ殺されて終わり。陛下は自分の政治に異を唱える者を許しはしませんよ。まして、ニコのように勉学、剣術においても秀でている王族なんて陛下にとって脅威でしかない。そんなこと知っているでしょう?」

 知っている。王の政治に異を唱え、民衆側につこうとしていた者がどうなったか。王の政治の問題点を教えてくれた、あの人がどうなってしまったかを、俺は知りたくなかったが、知ってしまった。この国で王に逆らえる者などいなかった。

「……だが、ルーシャを放っておくわけにはいか――」

「なんでそこまでするかな? 赤の他人じゃない。結局、ニコには関係のない人間だよ。そこまでする意味は何?」

 ジュラはあんなにルーシャと遊びたいだのかわいいだの言っていたはずなのに、冷たくただそう言った。ひどく無機質だった。

「……それは」

 言葉が続かなかった。ルーシャはあの日出会った赤の他人で、まだ1年でさえ一緒にいるわけでもないのに、どうして俺はここまであいつを助けなくてはいけないと思っているのだろうか。ルーシャは俺にとっていったいどういう存在なのだろうか……。


『私にとってニコは大切な人だよ。ニコは?』


『俺にとってルーシャは――』


「くっ」

 頭がガンガンする。俺は立っていられなくなり、床に手をついて何とか自分の体を支えた。今まで忘れていた、いや、自分から押し込めていた記憶が一気に蘇ってくる。

 俺が最近出会ったルーシャは前から知っているルーシャより少し幼いが、2人が同じ人物だということが今、分かった気がした。2人のルーシャは何もかもが似すぎている。

「ニコ!?」

 ジュラが慌てて俺に駆け寄った。

 記憶の波が押し寄せてきて、俺は意識を手放した。





 ああ、君は俺にとって大切な人だった。



約1ヶ月ぶりの更新となってしまいました…。

なかなか、書き上げるペースがあがらず

申し訳ないです。

しかし、お話の方は展開が早いです。

さて、リュエルさんいかがでしょうか?

果たして、ルーシャは……。


それでは

また次回お会いできることを願っております。

2014/6 秋桜(あきざくら) (くう)

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