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ニチャニチャと食べ物を租借する音が室内に響く。
薄暗い部屋で二人の肥満児がコンビニ弁当を食べている。一人の肥満児は黒髪の気持ち悪いほどのロンゲ、もう一人の肥満児は金髪の脂ぎったロンゲ。
「なぁ、次はなんのクエスト受ける?」
黒髪の肥満児が弁当を租借するのをやめ金髪の肥満児に声をかける。それを受け、金髪の肥満児も弁当を租借するのをやめる。
「次は、『ウロボロス』でもやる?」
「ああ、いいな。でも俺『アポピス』か『イルルヤンカシュ』もいいと思うんだよなぁ」
「あれか。結構ハードだよね。確か98層と175層のボスだよね」
「けど、そろそろ飽きてきたよなCDO」
「うん、それはあるよね」
「次のゲーム行くか、そろそろ」
「うん、AGOやKBOとかやってみる?」
「そうだな、ん?」
二人で話をしていたとき黒髪の肥満児は久しく使っていないパソコンの画面に何かが映るのを見た。
それが気になり弟との会話を断ち切りパソコンの画面を見る。
「ッチ」
そして短くしたうちをすることになる。
「PCメールが届くとは思ってもいなかったな、タブレットかフルダイブしてるときのほうにはよく来るのにな」
この時代、フルダイブシステムが本格的に普及した世界でも、パソコンを使ったコミュニケーションは決して時代遅れのものではない。だが彼が舌打ちしたのには理由がある。彼はネットゲームは基本的にはフルダイブのものしか行わないためパソコンにそちらの用件が届くことは無い、そしてネットで知り合ったものとリアルで連絡を取るときはタブレットで連絡を取り合う。加えて広告メールその他もタブレットに連絡が来る。
それが意味することは一つ。彼のパソコンには東藤兄弟あてのメールまたはどちらかに対してからしか来ないのである。
「ええ、クラス担任の大岡かな、それとも翔華ねえさんかな」
「どうせ、姉さんだろ」
そういってめんどくさそうにメールを確認する。
「お?」
「どうしたの?」
「いや、これ見てみるか?」
【新着一件 ―――件名:レスタ、クロルド様へ】
「おお、これCDOからのメールだね」
黒髪の肥満児が手招きすると金髪の肥満児が近づいてきてパソコンを覗き込む。
「え? でもなんでパソコンにくるの?」
黒髪の彼もそれは気になっていたのでメールの中身を確認するためマウスを操作する。
【カオス・デウス・オンライン運営より】
【レスタ様、クロルド様、あなた方兄弟はこのたびカオス・デウス・オンライン特別サービスに当選されました】
簡潔にこう書かれた本文、その下にはURLともう一文が書かれていた。
【全てを捨てる覚悟があるのならこのゲームに挑戦してみてください】
その文字を見て黒髪の肥満児は決断する。
「やるか」
「うん、兄ちゃん」
金髪の肥満児もその文を兄と同じように受け取ったのかやる気だ。
マウスを操作してURLをクリックする。
そして彼らは、挑戦する。全て(ネット)を捨てる覚悟なら挑戦せよというゲームに。だがここで彼らは大きな勘違いを起こしている。なぜならこのメールの全てとはこれまで彼らが積み重ねてきた人生全てだからである。
もう全てが遅くクリックされたパソコンはなぜか淡く輝きだし、そしてこんな音声が響いた。
「二名様ごあんなーい」
その声はひどく可愛げがあるものであった。そして二人の意識は暗転する。
「ぅ…うん?」
黒髪の肥満児、修也は久しぶりの草木のにおいと土の感触を感じながら目を覚ます。
倒れている重たい体を起こす修也。
「っな!」
そして絶句することになる。
なぜなら彼が見た景色は見慣れた薄暗い部屋の中ではなく、どこか見慣れた気がする見慣れない森の中だからだ。
「ここはどこだ?」
そうつぶやくが誰も返すものはいない。………いや、一人だけいた。
「ぅん? ここどこ?」
金髪の肥満児、蓮が起き上がりあたりをきょろきょろと見回す。
「あれ、ここ『ヴリトラの大森林』?」
その言葉を聴いて修也は跳ね上がるように見上げるほどの高さの木々を見た。
「………マジかよ」
そしてじっくりと見てみてわかった、見上げるほど木、特徴的な紫色の空。ここは、CDO、第65層ボスヴリトラの出現するフィールド、『ヴリトラの大森林』だと。
はっとなって自分の体を見る、そこには運動不足により膨れ上がった呆れるほど脂肪のついた腕。
間違いなく現実の東藤修也の体だった。
「あれ、兄ちゃん?」
そういって眠たそうに目をこする蓮もちろんリアルでの容姿。
「まさか………」
そこで一つの考えにいたる修也。
「ここは、ゲームの中の世界なのか?」
修也は呆然とつぶやいた。