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 『ゲームの中に入る』と言う表現が使われるようになったのは今から十年ほど前のことだ。

 

 十年前の2080年ごろ、革新的な技術が全国、全世界でいっせいにサービスを始めた。

 そのサービスの名は『フルダイブシステム』、人間の脳に直接電子信号を送り脳が耳や目の変わりに情報を直接見聞きすることによって行われるものである。

 そして、そのサービスでもっとも脚光を浴びたのが『VRMMORPG』と呼ばれるネットゲームだ。

 『フルダイブシステム』によりあたかも自分がそのキャラクターになりきることができると言う革新的ネットゲーム。

 『VRMMORPG』がメジャーになってきたころから、『ゲームの中に入る』は日本国民、世界中の人間が自然と使う、または耳にする言葉となった。

 

 『VRMMORPG』、その中の一つにこんな名前のゲームがあった。

 

 『カオス・デウス・オンライン』、有名なわけでもなく無名なわけでもないそのゲームは別名をこんな呼び名で呼ばれている。『廃人達の坩堝ルツボ』と、このゲームはまるで現実のように感じるグラフィックとキャラクター設定の完成度の高さから当時は人気の高いゲームであった。あくまで当時はだが、だがしかし、ゲームの中盤(このゲームは階層ごとに出るボスモンスターを倒すことにより次の階層にたどり着くことができると言う内容になっている)、中ボスあたりでプレイヤー全員が躓くのだ。そしてその躓いたプレイヤーは口をそろえてこういう。

 

 「無理ゲー乙」

 

 なぜこんなことを言うのかと言うと、ゲーム中盤に出る中ボス『ヴリトラ』から異様にボスのレベルと強さがあがり誰もクリアすることができなかったのである。しかもこのゲーム一定以上の期間ボスモンスターを討伐していないとキャラクターデータが削除されると言うゲテモノなので続々とこのゲームをアンインストールするプレイヤーが続出したとか何とか、詳しいことは知らない。

 

 そして、そのゲームをプレイする、二人の男児がここに存在する。

 

 森の中、薄暗いその場所で剣戟が鳴り響いていた。二つの影が交錯し、何度も何度も甲高い音を響かせる。

 

 「兄ちゃん! そっち行った!」

 

 二つの影の一つ、燃えるような赤い髪を持った美少年が叫んだ。

 

 そして二つの影のもう一つ、艶やかな長い黒髪を乱雑に振り乱しながら目的の人物のところまで向かう、上半身が人、下半身が竜の姿をした怪物。


 「わかった!」

 

 二つの影の三十メートルほど後ろにいた、美しい金髪を持つ白いローブを着た男が返事を返す。

 半人半蛇の怪物が彼に恐ろしいほどのスピードで駆けるなか、彼は平然とした様子で杖を掲げた。

 彼と化け物の距離は後十メートルと迫ったところで彼は脳内ですばやくスキルを選択する。


 【氷獄召喚コキュートス 氷ノ女王の息吹】

 

 瞬間、彼の選択したスキルがゲームに正常に認識されるとともに化け物は凍りつく。

 

 「レスタ、いまだ!」

 

 化け物が凍りつくと同時に彼は弟に叫び声で合図する。

 

 「OK!」

 その合図を聞いて赤い髪を持つ美少年は駆け出す。

 

 【縮地】

 

 彼がスキルを発動すると一瞬で彼と化け物の距離が縮まる。

 

 【身体強化ブースト 三重トリプル

 

 彼を橙色のナニカが包み込む。

 

 【竜王ノ牙】

 

 彼の持っている大剣が淡く輝き、それを振り下ろす。

 ザン、空気を切り裂く音とともに振り下ろされた剣は氷ごと化け物を切り裂く。

 

 「兄ちゃんとどめ!」

 

 「おう!」

 

 彼は化け物からバックステップで距離をとる。

 

 それを確認した金髪の男はスキルを選択し、頭の中に暗記したそのスキルを発動させるための音声コマンドを口に出す。

 

 「大いなる神の怒り、混沌なる蛇王の笑い、混濁と殲滅の王、泥沼の勇者と張りぼての皇女に平安を与えろ! 怒り、笑い、嗤い、哂え! 狂気の一撃で邪王よ沈め」

 

 【粉砕黒神ジャガーノート 破邪ノ雷】

 

 スキル完成と共に化け物の上にできる魔法陣、直径三十メートルほどの魔法文字がビッシリ書かれた円が四重に折り重なっている。

 

 やがてそれは回転し、輝き、発動する。黒い魔方陣から放たれたのは圧倒的なエネルギーの塊。それは高速で打ち下ろされる黒く太いビーム。一瞬で化け物を飲み込む。


 ビームを打ち下ろされた後の地面はまったく影響はなく化け物の死体だけが残っていた。

 

 「ふぅ、『デルピュネー』討伐完了」

 

 金髪のローブ姿の男がつぶやく。

 

 「お疲れ兄ちゃん」

 

 そこに赤髪の男が走りよってくる。

 

 彼らは廃人の集まる『カオス・デウス・オンライン』、『CDO』の中でも名の知れたプレイヤー。

 赤髪の男はプレイヤー名、レスタ。CDO前衛の中でも最強クラスを誇る大剣使い。

 金髪の男はプレイヤー名、クロディオ。CDO後衛の魔法職でも最強と名高いウィザード。

 どちらも瞳の色は深い青色、吸い込まれるような輝きを放つ青色。また、イケメンプレイヤーとしても知られている、二人。(CDOはキャラの容姿はランダム設定)

 

 「そろそろインしてから28時間くらいだし一回飯食うか?」

 

 「わかった」

 

 二人で剥ぎ取り、アイテム分配、クエストクリアの報告を済ませた後、金髪の男が言った。

 

 「「ログアウト」」


 二人がほぼ同時にコマンドを入力する。

 

 視界がブラックアウトして、意識が途切れる。そして彼らが次に目を覚ましたのは薄暗く汚い不衛生な部屋。

 そこで起き上がり、頭につけたフルダイブするための機械を取る。そして現れたのは黒髪をキモイほどに伸ばした男。黒色の髪はとにかく伸び放題で顔は覆い隠されているし、背中まで黒髪は届いている。体型は典型的な肥満児。

 

 「おい、おきろ」

 

 「ちょっとまって兄ちゃん」

 

 そういっておきあがる人影が一つ。彼は起き上がると頭の機会をはずす、そして現れたのがこれまた兄と呼ぶ人物と同じ、肥満児。こちらは脂ぎった金髪を肩甲骨あたりまで伸ばし放題にしている男。

 

 これがイケメン重戦士、レスタとイケメン魔法使いクロディオのリアルでの姿である。

 

 兄―――リアル名、東藤とうどう 修也しゅうや。19歳、非モテ、童貞、肥満、ニート。

 弟―――リアル名、東藤とうどう れん。17歳、非モテ、コミュ障、引き篭り、肥満、童貞。


 彼ら、血の繋がっていない兄妹は自分の受け入れられないと言う無理ゲー、またの名を現実を逃避するため、すぐにご飯を食べネットにこもろうとするのであった。

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