傷痕
自分が一番同士の王様と女王様のそれぞれの相手である友人と妹の裏切りに、二人は?
誤字直しました。
目の前には、へにゃりというような顔をして騒ぐ妹がいる。
「どうして、どうしてお姉ちゃん!修二さんのどこが気に入らないの?こんなにいっぱいお姉ちゃんの事を大事にしてくれる人なんていないよ!」
「なんで?なんでよぉ!」
そう言って涙を流す妹に、同じように「何で」と言う、私にすれば元婚約者の男、蓮見修二。
妹は声高に騒ぎ、私立高校の教員をしている修二は何故だという顔をしている。
まあ私からの別れるメールは今朝仕事に行く前にしたんだけど、それほど騒ぐ必要はないんじゃないかと他人事のように冷蔵庫からビールを取り出し思う。
私がほとんど答える暇もなく、妹はひくひく泣き出すわ、それを母親がなだめながら妹と同じように私に言う。
「あんたもちゃんと落ち着けば馬鹿な事を言ってるってわかるわ。修二さん、ごめんなさいねえ。この子ったらこの通り気が強くて」
そんな事を言いながら、何とかなかったことにしようとする。
おいおい、それこそ違うよ、もう決めた事だし、それも決めたのはもう三日も前だし。
ただ面倒でメールをしたのが今朝だっただけだ。
私は帰ってからまだ一言もろくにしゃべらないうちに、家で待ち構えていた妹の美代子と母親にあれよあれよという間にリビングに拉致られて今に至る。
「まあまあちょっと落ちついてよ」
私がビールを飲みながら皆に取り出した飲み物を飲むよう促す。
「お姉ちゃん!」
それに美代子が切れてまた騒ぐ。
ああ、うるさいってーの。
こちとらこれでも売れっ子のモデルをしてるんだ。
だからこのビールだってカロリーゼロのしかもノンアルコール。
それを何とかおいしいおいしいと思い込んで、冷たさこそ正義!って感じでいるのに、それを邪魔すんじゃねーよ。
どうやら私の心の声がダダ漏れだったらしく母親はため息をつき妹の美代子は、
「お姉ちゃんのバカぁ~!」と言ってまた泣き出した。
修二が私のそばに寄ってこようとするので、
「寄るな!きもい!」と言ってやった。
本当に鳥肌が立っていた。
修二とは私達姉妹が通った小・中・高とある私立の学園で知り合った。
学園経営者の一族ではあるが、それを誇示する事もなく、表だってひどく目立つわけではないが常に側近の位置できっちりと生徒会組織を陰で支えていた、そういう生徒だった。
そうして同じ学年にいた私といえば反対に目立つ側に常にいた。
私は自分の派手な外見をきっちりと知っていたし、めんどくさがりな性格が変な所に作用して、クラスを学年を学校をしきる事に当たり前に従事していた。
同じように超派手な同級生と小・中・高と会長、副会長をずっとしていた。
そこで同じように書記や補佐をし続けていたのが修二で、高校2年の時、思いもよらぬ修二らしい告白に、この男はどう私を楽しませてくれるのだろうと好奇心から交際を承諾した。
当時はこのカップルに皆驚き、失礼な事に私を見ると気心の知れた連中は「お手柔らかにして」とか「大事にしてやれよ」とか言いたい放題言われた。
「そりゃあ普通男に言うもんじゃないの」
私がそういうと、皆笑いながら、「だからお前に言ってんだ」と笑われたもんだった。
高校卒業と同時にスカウトされ、そのままモデル業界に入り、たまたま売れてこうして23の今までやってきた。
修二とは、まあ修二が我慢強いおかげで、そろそろ結婚というまでつきあいが順調に続いていた。
そんな中で私が今朝お別れメールをしたもんだから、家族に受けがいい修二もこうして我が家にいたわけなんだろう。
私が「きもいからさわんな」と言って、本気で嫌がっているのを知った修二はその手を、顔をこわばらせて私を見た。
え?だってマジ勘弁、絶対ムリ!
妹の美代子がそれにまた大げさに騒ぎ出す。
妹の美代子はぽぉっとしてるし、すぐ傷つくし、泣き虫で、そしてバカだけどそこがまたかわいい。
うん、かわいい。
この妹がひたすら思い焦がれついに彼女の地位を射止めた相手が、何を隠そう私の小・中・高との腐れ縁の例の超ド派手の相手、必ずトップに君臨するのが当たり前だと思っている斎宮寺蓮だ。
斎宮寺は中学の時からそのド派手な容姿と親のセレブさも相まって何かと話題の中心な奴で、私も派手で負けん気が強いのを自覚しているものだから、初めは性別さえ違ったけれど全てにおいて自他ともにライバル視されていた。
ん、私も頑張ったよ。
奴の容姿はそんじょそこらのものじゃなく、さすがの私も負けを認めたけど、乙女の思いは岩をも動かすの一念で、髪の手入れにはじまって肌はもとより姿勢にいたるまで、中1にして女を磨くのに努力しはじめた。
勉強も運動も、余裕を周囲には見せて死ぬほど必死に頑張った。
常に常に人の視線から見た自分を思い浮かべ、どんな時も気を抜かず、何でってくらい頑張って「どうよ!」と笑える自分を作っていった。
そんな私と斎宮寺が中3に上がった時変化がおきた。
まあお互い取り巻きをはべらして対抗していたんだけど、夏休み明けに登校してきた斎宮寺は、覇気もなく一回り小さく感じられた。
一人でいる事が多く取り巻きでさえ近寄れなくなっていた。
まだつきあう前の、みんなのお父さんって呼ばれていた修二でさえも遠ざけていた。
私が思ったのは「よっしゃあ!」だった。
何があったのか思春期とかいうちゃんちゃらおかしい罠のループにはまったんなら、そのままはまって、どうせなら深く深く落ちて2度と出てくんな!って思ったよ。
私はすんごい唇をかみしめながら家柄も普通、裕福さ何それ?で血のにじむ努力でここにいる。
元々持ってて、それでもって何かで悩み自分を甘やかし落ちるなら一生そのままでいてください、本当にそう思った。
年齢なんて関係ない、私は一度土俵にあがったからにはその覚悟を持っていたい。
私がルンルン気分でその日生徒会室に入ると、そこに斎宮寺がいた。
「あら負け犬、出口ならあちらよ」
私がそう言うと斎宮寺はその暗くすさんだ目で私をにらみつけた。
「何も知らないくせに馬鹿にするな!」
そう歯ぎしりする斎宮寺に私は目も向けず、生徒会引き継ぎの書類の続きを始めた。
どのくらいそうやっていたのか、気がつくとまだ斎宮寺がうつむいてそこにいた。
なぜその時声をかけたのかわからない。
きっとやつとタメをはるために、いや、その上をいくために頑張っていた生徒会活動ももう終わりで、ちょっと機嫌がよかったからだろう。
いつもはお互いほとんど相手が目に入ってませんて態度でいるんだけど、取り巻きもお互いいないちょうどその時だから言ったんだと思う。
「私は誰よりもえばってやるわ。それだけの仕事をこなしているし、その努力もしてる。あんたがリタイアするのは私にとって喜ばしい事だけど、ちょっとくらいはあんたの実力も認めてるの、私には全然及ばないけどね」
「何があったか知らないけど、今のあんたはブサイクだわ。プライドのないあんたはね、今、とてもみっともないわ。自分をつぶすんなら中途半端はやめてね。綺麗に私の目の前から消えてちょうだい。めざわりだもの。戦いがいがないったらないわ。ねえ、呼吸方法を忘れたならウィキ先生に教われば?物事はとてもシンプルなはずだから」
そう言って鼻で笑ってやった。
それから高校に進級する頃には、わずかなあいだに奴はそれまで以上にパワーアップして帰ってきて、当然ながら奴が高1にして会長に当選、勿論この私も副になった。
何でうちの学校は男子生徒が生徒会長と決まってるのかしら、むかつく。
後で知った事だけど、斎宮寺の父親の愛人騒動が発覚して母親が重度のうつになり、両親のゴタゴタに純粋坊ちゃん仕様の奴がまいっていたらしい。
高校時代もそんな感じで取り巻きを従えお互い派手に過ごしていた。
まさか2つ下の妹がその斎宮寺と大学で知り合いつきあうようになるとは、この私も思っていなかった。
まあ、でも私は斎宮寺が派手な噂とは違い、少なくとも一人の女とつきあってる時は他の女と遊んだりはしないというのを知っているので、妹が嬉しそうに報告するのに反対はしなかった。
ただ斎宮寺も跡取りとして学生時代ほど時間を妹にさけられないのは私にも理解できた。
だてにモデルとして仕事はしていない。
仕事の厳しさ、ましてや斎宮寺はいずれトップに立たねばならない、その厳しさを少しはわかるつもりだ。
だから妹が私に不安げに相談するたび、「だからバカだというんだ。あいつは大丈夫、お前を思ってる」と私は言い続けていた。
だって奴が妹を思わなくなれば、きっぱり言うはずだから。
そのくらい私にもわかる、そういう男だ。
やがて妹は相談相手に、優しい修二を選んだ。
姉の私が相手にもしてくれないと、まして斎宮寺にはあきれられるのが怖いから言えないと。
そんな中、先月仕事先に斎宮寺がわざわざきた。
高校卒業以来に会った。
一度大学の時に電話で妹の事を話しはしたが会うのは何年ぶりだろう。
仕立ての良いスーツをきていかにもな斎宮寺にその場にいた女たちは目の色を変えた。
相変わらずフェロモンだけは凄い男だ。
それに自信と風格も身に着けている斎宮寺に私のライバル心が久しぶりに燃え上がった。
私も負けじと飛び切りの笑顔、巷でいわれる「魔性の笑顔」とやらを大サービスしてやり、そのまま食事に出かけた、奴のおごりで。
その日からもう1か月以上がたつ。
私は悲しそうになく妹と、私に手を伸ばしたまま固まる修二に、ビールを飲む手を止めて言った。
「あんたはさっきから何で泣くのさ?意味不明なんだけど」
「大体私は妹と同じ男はごめんだわ。妹を抱いてる手で触られるなんてマジ勘弁」
私がそう言うと母も妹も修二もぽかんとした。
「知らないと思った?3か月半前の私カムバックだわ」
「まさか私を抱いたその前に妹を抱いてるなんて知らないもんさ~、超いやなんだけど、記憶力いいのも何だわね~」
「ち、ちがうの!お姉ちゃん、違うの」
「ち、違うんだ」
二人同時に私に言い訳をはじめる。
「何がちがうの?あんたは修二が私の男だと知って抱かれ、修二は私の妹だって知って抱いた」
それも何回も。
本当に斎宮寺から知らされ、連れていかれた先で一緒に二人がホテルに入るのを見た時は、お互い目を見合わせドンマイだったよ。
私はあまりの事にそのまま乗り込もうとしたんだけど、斎宮寺の「美しくない」の言葉に唇をかみしめ、二人でその場を後にした。
半年以上前にどうやらあの二人はそうなったらしい。
斎宮寺の金に飽かせた詳しい報告書を見せられながら、二人お互いを「何で他に目がいかないように溺れさせなかったんだ」と言って罵り合い、つかみあった。
うん、すんごい二人とも酔っぱらってヤケ酒したからもあるけど、お互い顔だけは避けてた。
そこが笑っちゃうよね。
うちの妹はバカだバカだと思ってたけど本当にバカだった。
斎宮寺、あの斎宮寺がこれだけ長く続いているのはあんただけなのに。
修二もそう、確かに妹の美代子は頼りなさそうに見えるけどもう立派に成人した大人だ。
悩みを相談されるのはいい、だけど慰めるのは修二ではなく彼氏の斎宮寺の役目だ。
何が違うんだか、本当にわかんない。
「違うの、お姉ちゃん、修二さんは慰めてくれただけ。お姉ちゃんを愛してるの。本当よ」
「私が死んじゃいたいくらい苦しかったから、そばにいてくれたの、私達に恋愛感情はないの、本当に」
そんな事私は知らない、私は私とつきあってる時はそんなの許せないし、この私をそこまでの女としたのは万死に値する。
私のその言葉に修二は、
「ごめん、美代子ちゃんが泣いてると周子が泣いてるようで、それにそばにいないとだめだと思ったんだ」
「本当にごめん、そのお互い酔ったその1回だけなんだ、後はただずっと傍にいただけで何もない。本当だ。」
「彼女も斎宮寺に思い切りぶつかって寂しいって言うと決めたんだ。お願いだ、もう一度チャンスをくれ!お願いだ、愛してる、愛してるんだ、愛してる!」
そう必死に叫ぶ修二に私はやめてよね、と答えた。
それにかぶせて男の声がした。
「やめてくれよ、人の恋路を邪魔するのは」
いつのまにかしゃあしゃあと我が家に入ってきた男の声がする。
それに妹の美代子が涙を流しながら、入ってきた男斎宮寺に駆け寄り抱きつこうとする。
それに斎宮寺は、しがみつこうとするその手を強く振り払った。
何が起きたか茫然とする妹に斎宮寺は冷たく言った。
「触らないでくれないかな?汚れるから」
そのあまりにも冷えた態度に妹は修二との事が知られているとわかると、体を震わせてすがりつくように泣きながら、
「ち、ちがうの、私さみしかったの。なかなか会えないし、会社でも外でもお姉ちゃんみたいな綺麗な女の人にたくさん囲まれているのが不安で、怖くて」
そのほかにもくどくど言う妹。
修二がそれにかぶせて辛そうに、斎宮寺に言った。
「ごめん、何でこんな事になったんだろ。本当にただ周子の妹だからほうっておけなかっただけなんだ。本当に・・・」
と泣き言を言う。
え?何この二人、私は斎宮寺と目を見かわした。
私は泣き続ける妹にいった。
「美代子、あんたほんとバカ。この私がずっと斎宮寺とコンビを組んでたのよ。他の取り巻きの子達も覚えてる?まして小さな頃から綺麗な女なんか周りにゴロゴロしてる男よ」
「その男があんたとつきあうと聞いて、電話口で私に何て言ったと思う?あんたに癒される、大事にするってこの私に電話口とはいえ頭を下げたのよ。死んでも私には頭を下げないこの男がよ」
「あんた何をみてたの?こいつだけ見てればわかることでしょ。言いたかないしほめたくもないけど」
その言葉に妹の美代子は
「ごめんなさい、ごめんなさい」と斎宮寺に謝り続ける。
斎宮寺がもういい、と答えると二人とも顔をあげた。
笑顔の斎宮寺に二人は期待に満ちた顔をする。
妹は「私もう不安になったりしない、だから」と斎宮寺を見つめて言った。
それに斎宮寺が再びもういい、と答え、母に向かい頭を下げる。
「娘さんと結婚させていただきます」と。
それにワアワア泣く妹。
修二も私に期待に満ちた顔を向け
「もう一度はじめからチャンスをくれないか、もう2度と裏切ったりしないと誓う、本当だ」
そう苦しそうに私に懇願する。
そうして私の手をとろうとする修二の伸ばす腕をひっぱたいてやろうとしたら、私の代わりに斎宮寺がその長い足で修二を強く蹴とばした。
「私の妻になる女に気安く手をふれないでほしいな」と。
転がったままこちらを驚愕の目で見る修二。
何が起きてるかわからない妹と母。
斎宮寺はゆっくり私を抱き寄せると、私の髪に手先に口づけの雨を降らす。
「結局今回の事は私と周子が結ばれるための運命の布石だったという事です。長い長い遠回りでしたけど、ね。」
そう言葉にする斎宮寺は本気でそう思ってる。
いわゆる自分たちは最初から書物でいえば主人公、こうなる運命だったのだと。
いや、それ絶対違うと思うよ、斎宮寺、本当に違うよ。
妹たちじゃないけど、声を大きくして違うと言わせてもらおう!
優しく儚い守るべき女だと思った私の妹のしたたかな弱さに斎宮寺は普通の女の恐ろしさに気がつき、お互いグダをまき罵りあった翌朝、目が覚めてすぐ斎宮寺は思ったらしい。
そういえばあの頃人が家族も全て信じられないあの時も、凛と自分を叱った女がいた。
ずっと自分の対をはった女だった。
全てを一つ一つ思い浮かべている内に、これほど自分のそばにいて自分の生きる支えになった存在はいなかったと思い知ったと言う。
何補正?がおきた?
そう思うやいなや、お互い罵り合いバトルしヤケ酒を飲んでぶっ倒れ眠る私を叩きおこし、愛の告白とやらを酒で頭の回ってない私に強烈にしくさり、なおかつそのままなしくずしにおいしく食べられた。
いや、あんなの前夜からのぐちゃぐちゃの一環のせいだと私は忘れる事にしたんだけど、斎宮寺は違ったらしい。
私のスケジュールを把握し仕事帰りには待ち伏せをされ、あんたこんな事できんなら、何で妹の時にしなかったんだと、あきれはてて問えば、自分でも恋愛にのめりこむタイプでは一生ないと思ってたと嬉しそうに破顔する。
猛獣のくせに属性ワンコって何すか?
そんなこんなで腐れ縁の哀しさ、私の弱点を知り尽くしている男に私はとうとうギブアップ。
それにあの日のせいでお腹に子供ができた。
さすがにこの確信犯ぶりにきっちり右ストレートをお見舞いしてやったが。
そうして今日この日を迎えた。
まさか修二が来てるとは思わなかったが。
斎宮寺との結婚式は超派手婚になるだろう。
茫然とする二人には悪いがにっこりとほほ笑んで斎宮寺にわざともたれかかり、そのまま家を出た。
仕事もじき休養に入る。
今日から一緒に住むために斎宮寺が挨拶にきたはずなんだが、いらぬおまけが待っていた。
まあ母親がいるからあの二人は大丈夫だろう。
私がそう考えていると神宮寺が車のシートから身を乗り出して私を抱きしめ文句を言いだした。
運転手さんの手前、恥ずかしいからやめれ!
そう思うけど、斎宮寺がグジグジ文句を言ってくる。
「自分以外を考えるなんてダメだ」と本気で言ってる。
どうするよ、これ。
とんだヤンデレになりそうな気配。
子供なんて早く産んで仕事に急いで復帰して逃げるしかないな、そんな私の心を読んだかのように斎宮寺が黒く笑って言う。
「大事に大切に、ええ、私以外には風にもあてないで愛し尽くさせて下さいね」と。