第31話:小さな変化
まだ薄暗い早朝。夜が明けたばかりの時間帯のせいか、人の気配は、まだあまりない。
時折、新聞配達のバイクの音がするくらいで、とても静かである。そんな中、明日香はある家の前の道路に佇んでいた。
「家には、帰っているみたいね」
明日香は、少し仮眠を取った後、役所に行く前に幸菜の様子を確認しにきたのである。家の中から彼女の反応が感じ取れたので正直、とても安心した。
あの状態で別れたのだ、もしかしたら大変な事態になっていたかもしれないと思うと、今さらだがゾッとする。
実は、館で幸菜の本を開いて死の予兆が出ていないことを確認してきたのだが、それでも直接確認せずにはいられなかったのだ。
それでも、今の彼女の不安定さを表すかのように、ところどころ欠けている部分があるのでまだ安心は出来ない。
「あと数時間もすれば学校に行く時間だけど、行くつもりがあるのかな?」
この間の様子では、その可能性は低い気がする。まぁ、学校に行こうが行くまいが自分の仕事にはあまり関係はないけれど。
(別に更生させろとは、言われてないしね。ようは、生きる気力を取り戻させればいいんだから)
もう一度2階の窓辺を見上げた後、明日香は役所へと戻った。
「…………あー、わかんね」
「あぁ、これはね…………」
あの日から、幸菜は毎日学校へと通っている。さすがに教室に行く気力は、まだ湧かない。なので、こうして七海と一緒に保健室に入り浸っている。
あの人がいるので、正直ここも居やすい場所ではないけど教室よりはまし。ようは、話さなきゃいいんだから。
「2人とも解けた?」
「はい」
「………………」
あくまで無視を決め込む幸菜。そんな彼女の態度に七海は、あたふたと慌て始める。その様子に養護教諭である工藤は、微笑む。
「さぁ、2人とも。次は給食の時間よ。準備をしましょう」
「はい!」
ガタ。無言で幸菜は、立ち上がると保健室から出て行く。七海は、工藤に軽く頭を下げると彼女の後を追って行った。
「まぁ、学校に来てくれただけで大きな一歩よね」
自分と一度も話そうとしない幸菜の頑なな態度に、知らず知らずの内に溜息が出る。それでもここで引いてはいけないと彼女は思った。自分達はこれから家族になるのだから。