第30話:きっかけとは?
課長からのアドバイスのおかげで心の中に生じていた迷いが少しだけ晴れた気がした。とにかく何度でもいいから幸菜にぶつからなければ。
そして、彼女の心が堕ちないように自分なりに頑張ろう。
「明日香ちゃん」
「きもっ!!」
「何がきもいだ!」
「だって、今の三千代を見たら誰だって思うから!!」
ふらふらとした足取り、項垂れているせいか髪が顔の表情を隠している。その髪の隙間から、上目づかいにこちらを睨む瞳。
「誰のせいだ!!」
そう叫ぶと三千代の瞳がカッと見開かれた。体全体から怒りのオーラが浮かびあがっている。
(やばい、絶対に殺される~)
「申し訳ありません。三千代様。どうか、お許しを」
即座に床に正座をして、三つ指をつき頭を下げる。すると、ゆっくりと三千代が近づいてきた。そして、笑った。
その笑顔に心底恐怖を覚える。まだ、怒鳴り散らされ叩かれた方が三千代らしくていい。無言で笑顔なんて、誰かを思い出させる。
「で、さぼったんだから何か収穫はあったんでしょうね? もちろん、あるわよねぇ」
「えっと、幸菜の自殺は防げたかな?」
「それだけ?」
「幸さんの本当のお願いが指輪ではなく、幸菜に会って欲しいんだということが分かりました。幸菜の心が堕ちないように、プラスの方向に持っていくことが私に課せられた願いであり、その為にも幸菜と正面からぶつかって行くべきだという助言を頂きましたので明日から頑張ります。もちろん、日中の業務が終了してからです!!」
三千代の圧力に負けないように一気にそこまで話終える。しかし、それに対する三千代の反応がなく明日香の緊張は、まだまだ続く。だらだと嫌な汗が背を伝う。
「…………二度目はないからね」
「はい」
「助言って誰から?」
「課長だけど」
「……………」
「な、何?」
再び沈黙してしまった三千代に明日香は、戸惑う。
(何か変な事を言ったかな)
「ふぅん、課長がね。まぁ、いいんじゃない。最後まで頑張れば?」
「うん、頑張ります」
「じゃあ、また明日」
「うん」
三千代は、すたすたと部屋を出て行ってしまった。部屋に残された明日香は、とりあえず三千代の怒りが収まったことに安堵する。
「問題は、明日からどうするか」
多分、今の幸菜は思いがけない事があって揺れている。その結果、心がマイナスの方向へ向かっているのだ。だから、何かきっかけを与えてあげることが出来れば、プラスに転じると思う。その為にも頑張ろう。




