第29話:アドバイス
「難しいなぁ」
館にある自室のソファーに寝ころび、クッションを抱えた状態で明日香は、呟く。
幸菜と別れた後、明日香は役所には戻らずに館へと戻った。実は、午後の業務に戻るには十分な時刻だったのだが、とても仕事をする気分にはなれずにそのまま帰ってきてしまった。あとで三千代のお小言が待っているだろうが、仕方ない。
「人の気持ちを変えるように説得なんてしたことないや。どっちかというとされてたほうだし」
自分が生きてた頃は、いつも2人が側にいた。彼女達の言葉に反発したりしたけど、結局はその言葉にすがっている自分がいたのだ。
あの時、死を受け入れようとしていた自分を必死に励まし生きる事を選ばせようとしていた彼女達は、いったいどんな心境だったのだろう。今の自分のように悩んでいたのだろうか。
「何が難しいのだ?」
「え? 課長!?」
突然聞こえてきた上司の声に明日香は、ガバッと起き上がる。すると自分のすぐ近くに腕を組んで立っているカグヤがいた。
「課長! こんな処で一体何を? 仕事中ですよ」
「そういうお前もな。私は、会議の資料を取りに来ただけだ。それで、何が難しいんだ?」
「…………人の気持ちを変える事です」
自分より若い少女の姿をしているカグヤだが、実際の年齢はかなり上だ。というか、怖くて聞けない。つまり、人生経験は豊富なのでこの場合相談相手には丁度いい。
「あの娘の事か。やっと、彼女の願いに気がついたか」
「え? 知ってたんですか?」
「当然だろう。そもそも本当に願いが指輪なら、あの娘が寝ている間にでも取って来てくれと願うはずだ。探して欲しいなどという曖昧な願いをする訳ない」
「……………何で教えてくれなかったんですか」
「死者の願いを理解するというのは、我々には大切な能力だ。それを学ぶのが研修をするねらいでもある。で、あの娘の心を変えるにはどう言えばいいかと悩んでいると」
「そうです!!」
―――――――バシ!
「痛い。何するんですか!」
突然、カグヤから頭を叩かれた明日香は、悲鳴を上げる。そんな明日香を見てカグヤは、鼻で笑う。
「人の気持ちを変える言葉? 言葉だけで人の心が変わると思うのか? 大切なのは言葉と行動だ。言葉だけで心が相手に伝わると思うな。それにお前だって分かるはずだ。お前が小さい頃に生きる事を選んだのは何故だ? 友人の言葉か? 違うだろう、彼等が毎日、お前を見舞って励まし続けたからだ。言葉と行動の両方があったからこそ、お前の心は動いたんだ」
「言葉と行動」
「現に、あの娘の心はほんの少しだがプラスに動いた。それは、お前が彼女に会い、言葉を交わし続けたからだ。だから、最後まで彼女と向き合え!」
「……………はい」




