第28話:友達
「ママが必死に私の事を育ててくれてるのは分かってる。でも、みんながあんたの母親は、男にもお金にもだらしないって言う。ママが男の人と一緒にいるのは仕事だし、お金だってママのせいじゃない。借金を残していなくなったあいつのせいだもん。でも…………」
「でも?」
「一番嫌いなのは私自身。みんなに言い返すことも、心配するママにも本音を言えない自分なの」
「そっか。難しいね」
七海の話に幸菜は、そう言うことしか出来なかった。学校で見るこの子は、大人しくて真面目な部類に入る子だからあまり接点はない。だから、知らなかった。こんな悩みを持っていることも、いじめられていたことも。
きっと、あの時も怖かったんだろうな。昔の事を思い出したりして。
「まぁ、周りが何言ったか知らないけど、少なくともあたしはあんたのママを悪い人だとは思わないよ」
「え?」
「だってさ、テレビとかでは、あんたと同じような状況で本当に捨てられたりしている子もいるし。いじめられてても気づかないふりする親もいる。少なくともあんたのママは、あんたを大切に思ってる。その為に引っ越ししたりね」
「…………」
「だから周りの言う事を気にするなとは言えないけど、そういう風にちゃんと見てる人間がいるって事も分かってな。そしたら、少しは周りの見る目も違ってくるんじゃないかな? うまくは言えないんだけどさ」
「…………ありがとう」
「ううん、こっちこそ。ありがとう」
「?」
七海は、幸菜がお礼を言う理由が分からずに首を傾げる。すると、幸菜は照れ臭そうに笑った。
「あんたと話したおかげで自分の小ささがよく分かったよ。何てつまんない事しようとしたんだろうってね。あー、かっこわり。ただのファザコンの我がままじゃん」
「ううん。つまんない事じゃないよ。人の悩みはそれぞれだよ、きっと。どんな事で悩むか、傷つくかなんてそれこそ分からないよ」
「そっかな」
「そうだよ」
幸菜達は、顔を見合わせ笑いあう。
「あのさ、もし良ければ友達になってくんない?」
「こっちこそ!!」
「1人じゃなくて2人なら、何か変えていけるかもしれないと思うんだ。とりあえず、明日から一緒に学校行くか」
「うん。よろしくね、幸菜ちゃん」
「ちゃんは、止めろよ! 恥ずかしいだろ~」
この日、幸菜にとってかけがえのない友が出来た。それは、七海にとっても同じこと。2人の少女が向き合うことによって何かが変わり始めた。