第25話:ぶつかり合い
公園まで来ると隅にあるベンチに幸菜を座らせる。気まずいのか、幸菜は一度も目を合わせようとせず、項垂れていた。その姿を上から見下ろす明日香の顔には、先ほどまでの怒気はない。ただ、冷然とした態度で幸菜を見つめていた。
「べっ、別に本気で死のうなんて思ってなかったし」
沈黙の重さに耐えられず、幸菜はわざとおちゃらけた口調で話し出す。そんな彼女を見た明日香の表情はますます冷たさを増していく。そんな明日香に対してどうしたらいいのか分からない幸菜は、結局黙りこむ。
「じゃあ、何であんなことしてたわけ?」
「…………登ってみたくなっただけだよ」
「何で、登りたいの?」
「…………たっ、高いし。ほら、上からよく見たかったんだよ」
「そうね。高いし、さぞかしよく遠くが見えるでしょうね。それで、その後飛び降りて終りにするんだ」
「だっ、だから死のうなんて思ってなかったって言ってるだろ!」
むきになって言い返す幸菜に明日香は、自分の後ろに見えるだろうジャングルジムを指で指し示す。
「そんなに高い処が好きなら、あそこに登ってればいいでしょう」
「……………………」
「本当、あんたって馬鹿ね」
「は?」
いきなり、自分を馬鹿呼ばわりされたせいか幸菜は怒りだす。しかし、明日香は、そんな幸菜を蔑むかのように笑った。
「だって、馬鹿でしょう? いじめられたからってその決着を死っていう最も安易で最悪な形で終わらせようとするなんて」
「あんたに何が分かるのよ! 何も知らないくせに、勝手なこと言うなよ! 大勢の人間に無視されて、悪口言われて。それがどんなにつらいことかお前に分かるのかよ!!」
「分からないわね。あなたと私は別の人間だもの。例え、同じ経験をしたって感じること、思うことは違うもの。じゃあ、聞くけど、あなたは分かる? 毎日の死と隣り合わせで生き続けることの恐ろしさが?」
幸菜は、その言葉にハッとする。何故なら、以前明日香から入院していたことを聞いていたから。
自分が毎日いじめと戦っていたように、明日香は死と戦っていたのだ。どちらもつらい戦いだけど、少なくとも自分の場合は死ぬことはない。自ら命を絶たなければ。だけど、明日香は違ったのだ。自分の意思とは関係なしにその戦いに挑まなければいけなかった。
「ごっ、ごめん」
「…………頭を冷やしてよく考えなさい。そして、落ち着いて周りを見て。本当にあなたは、一人なのかどうか。本当に誰も手を差し伸べてくれないのか」
真剣な声音に幸菜は、反射的に頷く。それを見た明日香は、幸菜に背を向けるとそのまま公園を去って行った。
「…………どうすればいいのかな」