第24話:怒り
駅前にたどり着いた明日香が見たのは、歩道橋の上で一人空を見上げる幸菜だった。その瞳は、どこかうつろで何を見ているのか分からない。その姿に、明日香はまずいと思った。
急いで階段を駆け上がり、幸菜の元へ向かう。でも、その目の前で彼女は、何を思ったか手すりに足をかけようとしていた。
「幸菜!!」
明日香は、たまらず大声で叫ぶ。すると、彼女はこちらに顔を向けると泣きそうな顔で笑った。
「何してんの? こんな時間に…………」
「何してんのは、こっちの台詞よ!!」
明日香は、怒っていた。もちろん、怒っている理由は、一つ。幸菜が、ここから飛び降りようとしていた事に対してだ。
パシン!!
明日香は、幸菜の元まで走りよるとその勢いのまま彼女の頬を引っ叩いた。そして、彼女の手首を掴むと少々乱暴に引っ張り、そのまま歩道橋を降りる。
その間、明日香は一言も幸菜に声をかけなかった。
しかし、明日香の厳しい顔つきと何より自分の手首を掴む強い力に、幸菜の瞳からは、涙が零れおちる。
何故だか分からないけれど、心底ホッとしている自分に気がついた。そして、何て馬鹿なことをしようとしていたのかと後悔の念が湧きたつのだった。
そんな幸菜の変化を明日香も敏感に感じ取っていた。どうやら、最悪な処まで彼女の心は堕ちていなかったらしいということも分かり一先ず安心する。
しかし、それは一瞬だけのことだとも分かっていた。この問題がきちんと片付かなければ、彼女は何度でも同じことを繰り返すだろう。
明日香は、小さく溜息を漏らす。
(やっと分かったよ。私にかせられた本当のお願いが…………)