第21話:明日香の推理
翌日の昼休み。
明日香は、自分のデスクで書類を片付けながら考えていた。幸の本当の願いは、何なのかを。
とりあえず、指輪を探して欲しいっていうのは、口実だと思う。もちろん、幸菜の元から指輪を取り上げたいというのは、本当。多分、これは旦那さんの再婚問題が絡んでる。きっと、彼女は、新しい家庭にあの指輪は不必要だと判断したんだろう。
だったら、指輪を取り上げてくれって頼むのが本当だよね。
でも、そう願わなかった。その変わりに彼女がした事。
――――――誰かに指輪を探して行ってくれるようにお願いした。
その結果、私は幸菜と出会い交流を持った。
つまりこれが、意味することは、一つ。
「幸さんは、幸菜に会って欲しかった」
手帳を取り出した明日香は、自分の出した推論を書きとめる。
でも、私と幸菜が出会うことによって何が起きるのだろうか。だって、彼女が持っている指輪が例の指輪だとしたら、夜中に彼女の元に行って勝手に持ち出してこの仕事を終わりにすることだって出来てしまえるのに。
「…………夜中? 夜中!?」
突然、大声で叫んだ明日香を見て他の局員が、目を丸くする。そして、叫んだと同時に思い切り立ち上がりそのまま止まってしまったのを見て、ひそひそと会話を始める。
――――どうしたの? 彼女。
――――徹夜続きでどこかおかしくなったのか?
「突然、叫ぶな! ごめんなさい、何でもありませんから」
近くにいた三千代は、明日香を無理やり椅子に座らせると周りにいた他の人間に謝罪する。 三千代の登場に局員達は、愛想笑いし去って行った。
「何がおかしくなっただ。…………そもそも明日香、職場で急に叫び声を上げない!」
「だって、夜中に…………まずい、一刻も早く確かめないと」
「は? あんた、何を言ってるの?」
「ごめん、三千代。あたし、早退する」
「ちょっと!?」
明日香は、顔の前で手を合せ謝るとそのまま走り去って行った。その場に残された三千代は、途方にくれる。
「早退って! 午後の受付業務、どうするのよ!!」
ピンポンパンポン
三千代の悲鳴に被さる様に、無情にも昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。