第19話:密談・1
「何かおかしい」
一人で本の整理をしながら、三千代は呟いた。
何がおかしいのか、それはもちろん明日香の件だ。指輪を探す、ただそれだけの事。新人の明日香でも簡単に出来るだろうと思っていた、しかし。
毎日、隣で報告書を書いている姿とその内容を盗みて尚更おかしいと思うのだ。ただの落し物探しがいつの間にか違う問題にすり替わっている気がする。
「あたしも手伝うべきかな。さすがに新人のあの子だけじゃ無理」
「それは駄目よ」
「うわっ!」
突然、至近距離で聞こえた声に驚いた三千代は、その場に尻もちをついてしまう。痛みに堪えながら、顔を上げると目の前に円が立っていた。
「驚かさないで下さいよ」
「あら、声をかけたのに気がつかなかったのはあなたよ?」
円は苦笑しつつ、手を差し伸べると三千代を引っ張り起す。
「ありがとうございます。……何で駄目なんですか?」
「まぁ、これには色々とあるのよ。色々とね」
困った様に笑う円に納得出来ない三千代は、詰め寄る。
「ちゃんと説明して下さい。じゃなきゃ、納得出来ません」
「どうしましょうか……。まぁ、あなたに話すなとは言われてないからいいかしらね」
円に促され、部屋の中央に設けられた作業スペースへと二人は向かった。そして、各々席に着くとおもむろに円は話しだす。
「まず、今回の件にはそれぞれの課の課長達の思惑があるのよ」
「課長達のですか?」
「そう。実を言うと本来、明日香が配属されるのはうちの課じゃなかったのよ」
「え!?」
「私達、管理局の人員補充はめったに行われないもの。それにね、基本的にそれぞれ課の人数は決まっているよ。例えば、うちの課の定員は課長を含めて三人。つまり、私達の誰かが契約を終えない限り他の人員が回されることはないの」
「なら、明日香は本来ならどこに回されるはずだったんですか?」
三千代は、恐る恐る尋ねる。
「あなたの考えている通りよ」
「…………一課ですか?」
その答えに黙って円は黙って頷いた。
一課―――――それは、霊の末梢業務を行う者達の集まり。霊殺しの異名を持つ課だった。