第17話:複雑な心
「生きていく為に必要…………」
明日香の言葉に幸菜は、何か考え込んでいるようだ。その顔を横目で見ながら、明日香も考えた。これからの事を。
自分なりに幸菜が話やすいように、工夫したつもりだ。そもそも、自分だって大人なのかと問われれば否と言うしかない。
何故なら、自分の時は、止まっているのだ。
大人にもなれず、しかし完全には子供とは言えない。微妙な時間で。
「…………じゃあ、お父さんにも必要だったのかな、支えが」
ポツリと呟いた幸菜の顔は、何と言うか複雑という表現が一番合った顔をしている。
「うちのお父さん、再婚したいって言いだしたんだ。それも自分よかかなり年下。その上、できちゃった結婚って」
確かに幸菜の年代からすると自分の父親が若い女性と結婚すると言うだけでも受け入れられないものがあるだろう。その上、自分の妹か弟が出来るとなると尚更複雑だ。
「幸菜は、反対なの?」
「だって、相手が」
「知ってる人?」
「学校の保健の先生。新任で、きさくな人。地味な感じなんだけど、あったかい笑顔の人。あたしも好きだったけど…………、かなり複雑」
「あー、確かに。なまじ知ってる人だと尚更か」
学校の先生、それも保健の先生か。生徒達の相談役と言ってもいい人。自分の味方だった人が新しい母親になる。
自分がその状況だったら、受け入れられない気がする。でも…………。
「あたしの事をだしにして会ってたかと思うと、何か腹が立つって言うか……」
「…………でもね、幸菜…………」
その時だった。段々と公園に近づいてくる男女の声が響いて来たのは。
「……ゆ………きな」
その声が自分の名を呼んでいるのに気がついた幸菜は、慌てて立ち上がる。
「やばい。あたし、もう行くから。あたしの事、聞かれても言わないでね」
「分かった」
「指輪探すのまだ手伝うからさ。また、明日。会えるよね?」
「うん。ありがとう」
幸菜は、にこりと笑うとそのまま声とは反対の方向へと走り去って行った。
その後ろ姿を見送ったすぐ後に先ほど見た幸菜の父親と女性が現れる。
「幸菜!…………居ないか」
「駅の方に行ってみましょう。あそこなら今ぐらいの時間帯でも若い子達が集まっているから」
「ああ。でも、あとは私が探す。君はもう帰りなさい」
「いいえ、一緒に探します」
「でも、体が…………」
「大丈夫です! 行きましょう」
「ありがとう」
父親は、幸菜とよく似た笑みを浮かべお礼を言うと女性とそのまま去って行った。
その一連の会話を目の前で最後まで聞いていた明日香は、幸菜と同じようにその二人を見送ると溜息をつく。
「どうしたものか…………。とりあえず、報告しに帰るか」
明日香は、館への扉を開くと公園を後にした。