第14話:心の傷
「そう言えば自己紹介してなかったわね。私は明日香。あなたは?」
「幸菜。今、中三。と言っても学校なんか行ってないけど」
学校に通っていない自分を卑下するかのような言葉を幸菜は吐く。
しかし、逆にその態度と幸菜の言葉の裏に隠された学校に行くことに対する憧れに明日香は気づく。
(多分、この子は、本来は学校が好きなんだ。ただ、何かきっかけがあって学校に行けなくなってしまったのかもしれない)
「幸菜は学校が嫌いなの?」
「…………嫌いじゃなかった」
「ふーん、私は大嫌いだったわよ」
明日香の言葉に幸菜は目を丸くして驚く。
ここまであっけらかんと学校は嫌いだったと言う人間に初めて会ったからだ。
「…………何で嫌いだったの? 別に言いたくないならいいけど…………」
ためらいがちに聞いてくる幸菜に明日香は、笑って話しだした。
「私、小さい頃体が弱くてね。入退院ばっかりしてたのよ。だから、学校に居場所がない気がしてた。病院にも院内学級があるから、体調の良い日はそこで勉強してた。でも、そこはあくまで仮の学校だから」
「友達は?」
「何人かいた。でも、退院すればお別れだし、退院出来ないままいなくなる子もいた。それが嫌で途中で行かなくなっちゃった。あっ、一応外にも友達はいたわよ」
「それからは行ってないの?」
「ううん、世話焼きの幼馴染達がいてね。私、ニ年の前半まではあんまり学校に通えなくて。でも、手術して学校に通えるくらいに良くなったら無理やり引っ張って行かれてね。中学からは私立だったから受験の心配はなかったし。まぁ、それなりに楽しめてた気はするけど、やっぱり体のせいで何でもみんなと同じってわけにはいかなくて。結局、幼馴染以外に気を許せる人は出来なかったかな。だから嫌いだった、表向きは私のことを心配しながらも裏では邪魔者扱いするクラスメイトや教師。だけど、一番嫌いだったのは、その状況を打破できない自分だったのかもね。今、思うと」
幸菜に話しながら、昔のことを思い出す。本当にあんまり良い思い出はない。
思春期真っただ中の少年少女達の集まる学校という空間。何気ない言葉や態度一つのせいで自分をとりまく環境ががらりと変わってしまう、ある意味閉鎖された世界。
明日香の場合は、体が弱く同じことが出来ないというだけで簡単にその世界から弾き飛ばされた。
きっと、あの二人がいなければ自分をとりまく総てを憎んでいたに違いない。
「さっき嫌いじゃないって言ったよね?」
「………ええ」
(いけない、いけない。私のことはどうでもいいのよ。幸菜の話を聞かなきゃ)
「嫌いじゃないけど、怖くはある」
「怖い?」
「うん。ある朝、いつも通りに教室に入って挨拶したらさ、クラス全員からしかとされた。昨日まで笑い合ってた友達が、あたしのことを無視した上にあたしを見て本当に嫌らしい笑顔で笑うんだ」
空を見上げながら唇を噛みしめる幸菜に、明日香はその小さな肩に手を回し抱きしめた。小さく震えるその肩を。




