第10話:現世へ
明日香は蔵書室へと戻り、幸の家族構成を確認する。
そこに記されていた名前は、木崎 幸菜。年齢は15歳と書かれていた。
「彼女は亡くなった直後に彼女の守護についていた」
守護霊制度――人間多かれ少なかれ死んだ時に現世への未練が残る。多くは現世に残してきた大切な人間。その未練を断ち切らせる為にこの制度がある。その年数は霊によって様々。守護の終わりは、たいていその誰かが自分を失った傷を癒すことが出来た時。それを判断するのは亡くなった当人である。
今回の幸の場合は自分の娘が立派に成長したと彼女自身が判断したから。
それなのに何故今さら指輪を気にするのかそれが問題だ。
可能性としては、その指輪が娘にとってよくないと感じたからなのかもしれない。
「彼女が守護を下りた直後に何かが起きた。その何かを正すために自分の元に指輪を戻す必要が生じたとしたら?」
だとすると指輪の現在の所有者は娘の幸菜である可能性が大だ。
「でも、指輪の一つや二つで何か問題が起こるものなの?」
明日香は首を傾げて考えてみるが、答えはでそうにない。
(まぁ、人の心は簡単には想像できないか。そもそも育った環境の差があるし)
とにかく現世で幸菜の状況を詳しく調査しよう。
そうして自分の目で確認すれば自然と答えは出るだろうから。
明日香は、そう決めると蔵書室をあとにし、現世への門をくぐった。