無題詩36
月は砂糖菓子のようにだだ甘く、
洒落た歌謡曲が流れてた。
歯車の川に身を任せ、
辿り着いた未来には、
嵐が丘かメガロポリス。
そこにあるのは夥しい量の漫画と恐怖症。
扇風機に羽根がまわってて、
原子爆弾に怯えている。
小説の類は消え失せて、
少女は踊る暗い腹の中踊る。
読書眼鏡を外したら、
揺れる焔がきらきらと、
星屑のように光ってて、
ヒステリーにも似た記憶が蘇る。
瞬間、炎は蒸発し、
真っ暗、真っ暗、真っ暗さ。
■■■天■■何も■■えない。
ポストモダンの暴風雨。
モノクロ映画の静けさや。
虚無へ捧げた供物から、
蛇や蛙が涌いてきて、
精液の香りは栗の花、
鼻を刺すような眩暈感。
脂肪のかたまり、未来のイブ、
人の気配はどこにもないのだ。
アンドロイドと機関銃。
あるのはそれだけ。ただそれぎりなのだ。
日常を生きる僕達は
――歌姫の歌う欠片となって、
冷めたホットミルクの膜の中。
僕は世界を切り裂くために、
ナイフを一切れ握りしめ、
企画倒れの遊園地、
観覧車の頂点へ、
倉皇と急いで駆け抜けた。
終末論的な哲学と、
命を賭けた雪が降る。
僕はナイフで喉笛を、
切り裂き、血が咲き、くずおれた。
動はみな死んで、
これでついに町も死ぬ。
灰汁で満たしたコップの中の、
汚れた物語はこれでおしまい。
奇麗な奇麗なおしまいさ。
最後にそのおしまいの内側で、
落ちたナイフの切っ先だけが、
月光を反射して輝いていた。