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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

地球のどこかで起きたかもしれないSF(すこしふしぎな)×SS(ショートショート)集

亭主関白な生贄(いけにえ)

作者: 有馬 泉貴
掲載日:2026/03/12

地球のあるところに亭主関白(ていしゅかんぱく)な男がいた。


家では一切、家事や子育てをせず、妻に任せっきりにしていた。そして自分は威張(いば)りくさった顔をしてソファにふんぞり返り、妻を(あご)で使いながら(いえ)の人間が少しでも自分の意にそぐわない行動をすると怒鳴(どな)り散らすのが常だった。


男はそんな自分を正しいと信じていた。妻や子供はどうも感情的で思慮深(しりょぶか)さに欠ける。だから軽率な行動が多いのだ。だから自分が(しつけ)をしてやらなければならない。家人(かじん)が少しでも不出来ならば叱るのも一家の大黒柱(だいこくばしら)たる自分の役目だ。そう信じて疑わなかった。


そのため、男と家族の会話はいつも一方的な命令口調で()()わされていた。


妻が夕飯にから揚げを出せば、

「明日は飲み会があると言ったろう!なんで居酒屋でも食べれるものを出すんだ。今すぐ、作り直してこい!」

子どもがお絵描きをしていると、

「お前はテストでいい成績が取れていないのに、そんなことをする時間があるのか。今すぐ、勉強をしてこい!」

一人勝手(ひとりがって)に怒り出し、家族を辟易(へきえき)とさせた。


「なんで、こんな簡単なことも出来ないんだ」

自分が正しいと信じる男は家族の不出来さを(うれ)い、いつもこう(なげ)いていた。



ある惑星は、星全域が壊滅的(かいめつてき)飢餓(きが)に見舞われていた。

そこは地球よりも少し進んだ文明をもつ種族が住んでいたが、爆発的な人口増加に技術が追い付かなかったのだ。そこで惑星に住む種族は、なにか飢餓(きが)に対する新たな知見(ちけん)を得られるのではないかと期待し、彼らのなかでも特に優秀なものたちをいくつかの使節団(しせつだん)に分けて、宇宙のほうぼうへ送った。


散らばった使節団(しせつだん)は、故郷を救う手立(てだ)てをなんとか見つけようと、それぞれ宇宙の各地を必死に探した。


その使節団(しせつだん)のひとつが、地球で偶然男を見つけた。

宇宙船から覗いた望遠鏡には、家のなかで「俺が常に正しい」と言って妻や子供を(したが)え、自分の思い通りに動かす男の姿が映っていた。


「召使を従え、次々と命令を下している。しかも『自分は常に正しい』と言う。そんな全能(ぜんのう)の存在は、きっと神様に違いない」


さっそく、種族は宇宙船の中に男を招き入れた。ベッドで眠っていた男は、起きると突然見知らぬ宇宙船内におり、今まで見たこともない顔が長くシルバーの滑らかな体表(たいひょう)に覆われた謎の生物に囲まれている状況に驚いてパニックを起こした。

「神様、落ち着いてください。我々はあなたに危害(きがい)を加えるつもりはないんです」

「むしろ、お救いください!我々の星が前代未聞(ぜんだいみもん)飢餓(きが)に見舞われており、もう打つ手立(てだ)てが見つからなんです」

謎の生物たちは流暢(りゅうちょう)な日本語を話し、男の周りで植物のツルのような細長くひょろりとした手足を投げ出して体全体を地面につけ、平伏(へいふく)の姿勢を見せた。一生懸命に害意(がいい)はないことを男にアピールし、どれだけ自分たちの惑星が滅亡(めつぼう)の危機に(ひん)したあやうい状況なのかをこんこんと説明した。


そのうちに宇宙船は謎の生物たちの惑星に(もど)()き、宇宙船から無線で状況を聞いていた惑星の種族たちは歓喜(かんき)()いた。文明レベルの近い惑星を収めている神様ならば、この星も無事に救ってくださるだろうと大喜びだった。これでこの星も安泰だと、種族の(おさ)使節団(しせつだん)を誉めたたたえ、次々に豪華な食事や身の回りの世話係を用意して男を厚くもてなした。


男は困った。自分は神様でもないし、飢餓(きが)を救うほどの知識も経験もない。

「はやく家に帰してくれ」

「もちろん、お帰しします。ですが、その前に我らの星を救ってくだされ」

銀色の細長い種族たちは全身をくねくねとくねらせて喜びを表し、男を神様だと祭り上げて歓待(かんたい)した。


それから毎日、男は種族たちから次々と持ち込まれる問題に答える日々が続いた。

「作物が不作でして。どうしたら飢餓(きが)を解決できるでしょうか」

「近くの川が干上(ひあ)がってしまい、水路が枯れております。どうしたらいいですか?」

「子供のあいだで疫病(えきびょう)が流行っており、次々に倒れています。救う方法を教えてください」

男は分からないなりにも一生懸命に答えた。自分のもてる知識を総動員し、正しいと思った答えを彼らに与えていく。


最初は良い気分だった。その星の美女にあたる見目麗(みめうるわ)しい種族が常に男の(そば)(はべ)り、つつがなく身の回りの世話をやってくれる。しかも地球よりも文明が発展していることもあり、機械が男の嗜好(しこう)パターンを記憶し、男が要求するよりも前に男の要望をすべて完璧に応えたのだ。


また、この星では元より神様への信仰が篤く(あつく)、男は(いた)れり()くせりな待遇を受けた。地球では考えられないくらい、自分の思い通りに物事が進む完璧な生活に男は大満足していた。


しかし、だんだんと男の出した適当な答えでは問題に対処できないことが明るみになっていった。作物はますます採れなくなり、川は地面が見えるほど干上がり、子供たちは死んでいった。そんな状況に種族の間でもだんだんと男に対する不満が高まり、とうとう爆発した。

「おまえなんか神様じゃない!」

ついに怒った種族に男は柱にぐるぐる巻きに(くく)り付けられ、生きたまま次なる神様への生贄として川に投げ込まれてしまった。


その様子を他の惑星から戻ってきた別の宇宙船から連れ出された威張(いば)りくさった顔の男が震えながら見ていた。

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