地球のどこかで起きたかもしれないSF(すこしふしぎな)×SS(ショートショート)集
亭主関白な生贄(いけにえ)
地球のあるところに亭主関白な男がいた。
家では一切、家事や子育てをせず、妻に任せっきりにしていた。そして自分は威張りくさった顔をしてソファにふんぞり返り、妻を顎で使いながら家の人間が少しでも自分の意にそぐわない行動をすると怒鳴り散らすのが常だった。
男はそんな自分を正しいと信じていた。妻や子供はどうも感情的で思慮深さに欠ける。だから軽率な行動が多いのだ。だから自分が躾をしてやらなければならない。家人が少しでも不出来ならば叱るのも一家の大黒柱たる自分の役目だ。そう信じて疑わなかった。
そのため、男と家族の会話はいつも一方的な命令口調で取り交わされていた。
妻が夕飯にから揚げを出せば、
「明日は飲み会があると言ったろう!なんで居酒屋でも食べれるものを出すんだ。今すぐ、作り直してこい!」
子どもがお絵描きをしていると、
「お前はテストでいい成績が取れていないのに、そんなことをする時間があるのか。今すぐ、勉強をしてこい!」
と一人勝手に怒り出し、家族を辟易とさせた。
「なんで、こんな簡単なことも出来ないんだ」
自分が正しいと信じる男は家族の不出来さを憂い、いつもこう嘆いていた。
ある惑星は、星全域が壊滅的な飢餓に見舞われていた。
そこは地球よりも少し進んだ文明をもつ種族が住んでいたが、爆発的な人口増加に技術が追い付かなかったのだ。そこで惑星に住む種族は、なにか飢餓に対する新たな知見を得られるのではないかと期待し、彼らのなかでも特に優秀なものたちをいくつかの使節団に分けて、宇宙のほうぼうへ送った。
散らばった使節団は、故郷を救う手立てをなんとか見つけようと、それぞれ宇宙の各地を必死に探した。
その使節団のひとつが、地球で偶然男を見つけた。
宇宙船から覗いた望遠鏡には、家のなかで「俺が常に正しい」と言って妻や子供を従え、自分の思い通りに動かす男の姿が映っていた。
「召使を従え、次々と命令を下している。しかも『自分は常に正しい』と言う。そんな全能の存在は、きっと神様に違いない」
さっそく、種族は宇宙船の中に男を招き入れた。ベッドで眠っていた男は、起きると突然見知らぬ宇宙船内におり、今まで見たこともない顔が長くシルバーの滑らかな体表に覆われた謎の生物に囲まれている状況に驚いてパニックを起こした。
「神様、落ち着いてください。我々はあなたに危害を加えるつもりはないんです」
「むしろ、お救いください!我々の星が前代未聞の飢餓に見舞われており、もう打つ手立てが見つからなんです」
謎の生物たちは流暢な日本語を話し、男の周りで植物のツルのような細長くひょろりとした手足を投げ出して体全体を地面につけ、平伏の姿勢を見せた。一生懸命に害意はないことを男にアピールし、どれだけ自分たちの惑星が滅亡の危機に瀕したあやうい状況なのかをこんこんと説明した。
そのうちに宇宙船は謎の生物たちの惑星に戻り着き、宇宙船から無線で状況を聞いていた惑星の種族たちは歓喜に沸いた。文明レベルの近い惑星を収めている神様ならば、この星も無事に救ってくださるだろうと大喜びだった。これでこの星も安泰だと、種族の長は使節団を誉めたたたえ、次々に豪華な食事や身の回りの世話係を用意して男を厚くもてなした。
男は困った。自分は神様でもないし、飢餓を救うほどの知識も経験もない。
「はやく家に帰してくれ」
「もちろん、お帰しします。ですが、その前に我らの星を救ってくだされ」
銀色の細長い種族たちは全身をくねくねとくねらせて喜びを表し、男を神様だと祭り上げて歓待した。
それから毎日、男は種族たちから次々と持ち込まれる問題に答える日々が続いた。
「作物が不作でして。どうしたら飢餓を解決できるでしょうか」
「近くの川が干上がってしまい、水路が枯れております。どうしたらいいですか?」
「子供のあいだで疫病が流行っており、次々に倒れています。救う方法を教えてください」
男は分からないなりにも一生懸命に答えた。自分のもてる知識を総動員し、正しいと思った答えを彼らに与えていく。
最初は良い気分だった。その星の美女にあたる見目麗しい種族が常に男の傍に侍り、つつがなく身の回りの世話をやってくれる。しかも地球よりも文明が発展していることもあり、機械が男の嗜好パターンを記憶し、男が要求するよりも前に男の要望をすべて完璧に応えたのだ。
また、この星では元より神様への信仰が篤く、男は至れり尽くせりな待遇を受けた。地球では考えられないくらい、自分の思い通りに物事が進む完璧な生活に男は大満足していた。
しかし、だんだんと男の出した適当な答えでは問題に対処できないことが明るみになっていった。作物はますます採れなくなり、川は地面が見えるほど干上がり、子供たちは死んでいった。そんな状況に種族の間でもだんだんと男に対する不満が高まり、とうとう爆発した。
「おまえなんか神様じゃない!」
ついに怒った種族に男は柱にぐるぐる巻きに括り付けられ、生きたまま次なる神様への生贄として川に投げ込まれてしまった。
その様子を他の惑星から戻ってきた別の宇宙船から連れ出された威張りくさった顔の男が震えながら見ていた。




