計算狂独白 (けいさんきょうどくはく)
本編をご一読いただき、ありがとうございます。
こちらは、全てを失った「完璧な男」のその後を描いた短編エピソードです。
恋愛とは違う皆様が僕に求めている物を書いたものです。
計算し尽くしたはずの人生が、たった一つの「感情」というバグで崩壊する。
瑛太が最後に導き出した、残酷な演算結果をどうぞ見届けてやってください。
晩餐会から一ヶ月。
瑛太は、窓のない地下の資料室にいた。
魔導省のエリートコースからは外れ、
今では誰もやりたがらない古文書の整理が彼の仕事だ。
彼は、手元の魔導デバイスで「計算」を続けていた。
「……おかしい」
「なぜだ。どこで間違えた」
あの日。
瑞月に断罪されたあの瞬間。
瑛太の脳内では、即座に「リカバリーの確率」が計算されていた。
跪いて謝罪すれば、40%で軟化。
涙を流せば、60%で同情を引ける。
そう弾き出していた。
だが、現実は違った。
瑞月の瞳には、怒りすら残っていなかった。
そこにあったのは、ただの「無関心」。
瑛太は、その「無関心」という変数を計算に入れていなかった。
(あんなに単純な女だったはずだ)
(少し優しくすれば、顔を赤らめて喜んでいたはずなのに)
瑛太は、瑞月の好物だった菓子を買い、彼女の屋敷へ向かった。
門前で、彼は瑞月の新しい「隣人」を見てしまう。
かつて自分が「瑞月の嫌いなタイプ」だと分析していた、
無骨で、不器用で、計算高さとは無縁の騎士候補生。
彼と笑い合う瑞月の顔を。
その笑顔は、瑛太がログに記録した「好感度80%の笑顔」よりも、
ずっと不格好で、ずっと、輝いていた。
「……ッ、」
瑛太の心臓が、鋭い痛みを上げた。
魔導デバイスがエラー音を鳴らす。
『警告:対象の心拍数が異常上昇。原因不明のエラーです』
「黙れ……、原因なんてわかっている」
瑛太は、気づいてしまった。
自分が彼女を「管理」していたつもりで、
本当は、彼女という唯一無二の「光」に、
自分の方が依存していたのだということに。
彼女を「単純だ」と馬鹿にしていた自分が、
一番単純な、愚か者だった。
瑛太は、持ってきた菓子をゴミ箱に捨てた。
彼の誇る高度な演算能力は今、
残酷なほど正確な「未来」を弾き出している。
『予測:瑛太・グランウェルが瑞月の隣に戻れる確率――0.00%』
彼は、暗い資料室で一人、頭を抱えた。
この痛みは、どんな数式を使っても、
一生消すことができないのだ。
(完)
後日談までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
「0.00%」という数字。
理屈では分かっていても、心がそれを受け入れられない。
そんな瑛太の自業自得な苦しみが、瑞月の新しい一歩をより輝かせるものであれば幸いです。
もし「いいざまぁだった!」「瑞月、幸せになれ!」と思ってくださったら、
ぜひ【評価】や【感想】で応援をお願いします。
皆様の応援が、次の物語を紡ぐエネルギーになります。
raira




