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最強の暴君に転生したので全力で愛される王様を目指す!  作者: イヌイエン


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第7話 何も思い出せない

 意識が、少しずつ浮かび上がってくる。


「ん……」


 目を開けると、視界の先にリシアの顔が見えた。

 長いまつげが震え、涙の粒が光っている。


「へ、陛下っ!」


 リシアが声を上げる。

 どうやら、俺はソファに横たわっているらしい。

 後頭部に、柔らかな感触がある。

 おそらく、リシアに膝枕されている。


「よかった……!いきなり倒れてしまわれたので、びっくりしました……!」


 リシアの声は震えていた。

 安堵と心配が入り混じった、やさしい響きだった。


 天井を見上げたまま、俺はぼんやりと考える。

 正直、薄々勘付いていた。


 朝起きた時に見た、この部屋の光景。

 壮大な廊下に流れている澄んだ空気。

 朝に食べた豪華な朝食。俺は曖昧にではなく、しっかり"料理を美味しい"と感じていた。

 そして、目の前にいるリシア。

 膝枕を通して彼女の体温が俺に伝わってくる。

 これは、幻ではない。


 それに、姿形は全く違えど、これは間違いなく俺の体のようだ。

 これは、夢じゃないんだ。


 さっきの会議、あの処刑の話……全部が、現実としてくっきりと脳裏に残っている。

 これは、夢じゃない。現実なんだ。


「なんで……」

「え?」


 リシアが俺を覗き込む。

 美しい瞳が不安げに揺れていた。


 何でこんなことに?

 俺は、死んだのか?

 なぜ?

 何も思い出せない。


 これが、"異世界転生"ってやつか?

 本当にあんのかよ…….。

 でも、死んで赤ちゃんに生まれ変わる、とかじゃなくて、別の人間の身体に転生するって何なんだよ。

 それじゃ転生じゃなくて憑依じゃねーか。


 目の前のリシアが、不安そうな表情で俺を見ている。

 芸術作品のように整った顔立ちの女性。

 そんな人が、俺に膝枕して、俺のことを本気で心配してくれてる。

 信じられないような状況だ。

 以前の俺だったらありえない。


 でも、この世界では、俺は"ラハディエル"ってやつなんだ。

 だから彼女は俺に尽くしてくれる。


「リシア……」

「はい。何ですか、ラハディエル様」


 リシアは微笑みながら、俺を見る。


 彼女に本当のことを言っても、絶対に信じないだろう。

 自分の主が、いきなり「俺は本当はサラリーマンだったんだけど、目が覚めたらここにいたんだよ」なんて言い出したところで、頭の病気を疑われるのがオチだ。


 俺は考えた。

 元の世界にどうやったら戻れるのかは分からない。

 でも、とりあえず今できるのは"何とかこの世界で生きていく"ことだけだ。


 王様らしいムーブができるかは分からない。

 それに、どうやらラハディエルという男は相当傍若無人な暴君のようだったし。

 正直、俺には荷が重い。


 職場で自分のチームも持ったことない奴が、いきなり国を治めるなんて無理に決まってる。

 でも、今はとにかく自分に出来ることをやるしかない。

 俺の中で、何かが動いた気がした。


「俺は……どうやら記憶を失ってしまったみたいなんだ」

「え?……え、え!?記憶を……でございますか?」

「ああ。黙っていてすまない。でも……俺には何も思い出せないんだ。自分のことも、みんなのことも」


 リシアは、小さくうなだれた。


「そ、それで今朝から様子が違っていたのですね……!気づくことができず、大変申し訳ございませんでしたっ!」


 顔が近い。

 リシアの唇の形がはっきり見える。薄ピンクの、可愛らしい唇だった。

 香水ではない、花のような良い香りがかすかに漂った。

 それに……彼女の大きな胸が目の前に迫っている。

 俺は、朝見てしまった、この服の向こうにある彼女の豊かな乳房を想像しそうになった。


 俺は慌てて息を整える。


「いや、いいんだ。俺が記憶を失ったと知れたら、混乱を招くだろう。このことは誰にも言わないでくれ」

「はっ!承知いたしました!」


 リシアは、まっすぐ俺を見つめて頷いた。


 俺は上体を起こし、ソファにゆっくりと腰を下ろした。


「……何も、覚えていらっしゃらないのですか?」

「え?……あ、ああ」


 そう答えると、リシアは悲しそうに目を伏せた。


「このリシアのことも、ですか?」

「す、すまない!その、本当に何も覚えていないんだ」

「……あんなに"愛し合った"というのにですか?」

「は?あ、愛し合った!?」


 思わず声が裏返った。

 リシアは少し頬を赤らめ、俯いた。

 俺は思い出す。"朝の交わり"という言葉を。


 俺は混乱を隠すように咳払いをする。


 リシアは真っ直ぐ俺を見つめ、言った。


「……わかりました。私は、いかなる時も貴方様をお支えするのが使命です。失われた記憶を取り戻すため、全力を尽くします!」

「……ありがとう」


 その目はまっすぐで、どこか切なげだった。

 俺は、その視線に耐えきれず、わずかに目をそらした。

 彼女に嘘をつくのが後ろめたかった。


 リシアは姿勢を正し、静かに名乗った。


「改めまして……私は"リシア・ヴェルノート"と申します。貴方様……このアルディオンの建国者であり、偉大な王"ラハディエル・オルクロフト"様の侍女でございます。身の回りのお世話から、政務のお手伝いまで、あらゆる面で貴方様をお支えいたします」

「……俺が、建国者?」

「はい。戦乱の世を終わらせ、安定と平和をもたらした英雄でございます!」


 話が壮大すぎてあまりついていけないが、とにかく俺、ラハディエルはめちゃくちゃ強い男らしい。


 リシアは続けた。


「そして……この私をあの“暗闇”から救ってくださった、命の恩人です」


 彼女は胸の上に手を重ね、静かに目を閉じた。

 その様子を見つめながら、俺は思った。


 (……俺とリシアの間には、特別な"何か"があるんだな、多分)


 リシアはそれから、俺のために色々と教えてくれた。

 

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