第2話 なんで裸なんだよ
意識が浮上する。
頭の奥がぼんやりしている。けれど、不思議と気分は悪くない。
あれだけ酒を飲んだのに、よく眠れた気がする。
頬にやわらかな光を感じた。
太陽の光だ。
……おかしいな。昨日見た天気予報じゃ、今日は雨だったはずだ。
まぶたの裏で考える。多分、予報が外れたんだろう。
少しして、ゆっくりと目を開けた。
そこには、見知らぬ天井があった。
俺の部屋の、あの無機質な天井じゃない。
真っ白な布がゆるく垂れ下がっていて、まるでホテルのスイートルームの天蓋みたいに見える。
「……は?」
声が勝手に漏れた。
高級ホテル?
昨日飲み会の後、ホテルに行って……そんなわけない。昨日は確かに自分の家に帰った、はず。
駅前のコンビニに寄って、それから……。
思考が、そこから先に進まない。
俺は体を起こした。
ベッドは馬鹿みたいに大きい。これが、キングサイズってやつか。
白いシーツが光を反射して、少し眩しい。
俺は部屋を見渡す。
西洋風の調度品。金の縁取りの鏡、めちゃくちゃ重そうなカーテン。
壁にはでかい肖像画が飾られている。どこかの国の貴族みたいな格好をした男が、威厳のある顔でこちらを見ている。
どこだ、ここ?
冗談抜きで、こんな部屋に泊まった記憶はない。
ああ、なるほど。これは夢だ。
現実でどうにもならない鬱屈とした日々を過ごしてるから、脳がご褒美として見せてくれている幻。
そう思えば納得がいく。
にしても、ずいぶんと手の込んだ夢だ。めちゃくちゃリアルな夢。
ベッドから降りる。
その瞬間、俺は違和感に気づいた。
「……は?」
俺は裸だった。
Tシャツもパンツもない。
一糸まとわぬまま、冷たい空気が肌を撫でる。
「い、いや、なんで裸なんだよ……まあ、夢だから別にいいんだけど」
夢に突っ込むなんて、無粋だ。
俺は苦笑いしながら、部屋の隅にある鏡の前に立つ。
全身が映るような、バカみたいに立派な鏡。
そこに映っていたのは……"知らない男"だった。
「……誰だ、これ……」
筋肉が無駄なくついた体。
肩も背中も広く、腹筋は彫刻みたいに割れている。
顔も俺とは似ても似つかない。
整っていて、威圧感すらある。
モデルとか、俳優とか、そういう次元じゃない。
「うおー……すっげぇ……」
触れた手が、自分のものじゃない感触を返す。
皮膚が厚く、節くれだった指。
この身体は、何もかもが“俺”じゃなかった。
あれ?待てよ。
この鏡に映る顔、どこかで見たような……。
俺は部屋に飾ってある肖像画の男を見る。
貴族のような格好をした男。
そいつが今鏡に映っている。"俺"になっている。
理解が追いつかない。
まじで変な夢だな……。
窓の外から光が差し込む。
遠くで鐘のような音が響いている。
日本ではない、別の国の朝のようだった。
その時、部屋の扉の向こうから声がした。
「……陛下?お目覚めでしょうか。」
女の声。
とても澄んでいて、低めのトーン。心地の良い声だった。
「え?……あ、ああ、うん?」
突然の声に驚き、反射的に返事をしてしまった。
そう思った瞬間、扉が音を立てて開いた。
入ってきたのは、一人の女性だった。
長い黒髪。透き通るような白い肌。整った顔付き。
街ですれ違ったら、絶対に振り返ってしまうほどの美女。
メイド風の黒いドレスのような格好で、服越しでもわかる大きな胸。そして、引き締まった腰。
彼女は、裸の俺を見ても何の反応もせず、静かに頭を下げた。
「陛下、おはようございます」
「……は?へ、陛下?」
陛下って、なんだ?
あの、映画とかドラマでよく見る、家来が王様を呼ぶ時のあれ?
俺には女性からそうやって呼ばれたいっていう変な願望があったのか?
俺が色々考えていると、黒髪の美女は徐に腰のベルトをほどき始めた。
「え?」
俺がその所作をまじまじと見ていると、女性は自分が着ていた服をどんどん脱いでいく。
「え!?え、ちょっと……!!」
女性が上着を捲り上げる。
下着に包まれた大きな乳房が露わになる。すごい迫力だ。
いや、なんて刺激的な夢。ちょっと嬉しい気もするが、何だか後ろめたい気持ちもある。
「あ、あの!一体何してるんですか……?」
俺は必死に見ないように顔を背けながら女性に尋ねた。
女性は今度はスカートを下ろそうとしているところだったが、俺の言葉に動きを止める。
「何って……日課の"朝の交わり"の準備ですが……?」
黒髪の美女は不思議そうな顔をして俺を見る。
(朝の交わり!?)
俺は声が出そうになった。
交わりって、つまりセックスのこと……だよな?




