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傾奇転生 前田慶次異聞録  作者: 赤坂しぐれ


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第一話 可憐なる花を愛でたく御座候


 女人の導きにより、見知らぬ場所に連れてこられた慶次。

 しかし、既に死人(しびと)である慶次にとっては、何一つ恐れる必要などない。

 その立ち振舞いは、まさに威風堂々というものであった。


「さすがは、戦国の世に武勇を誇ったお方ですね。申し遅れました、私の名前はアルテミシア。この狭間の世界を管理している者でございます」

「ほう? この何もない場所の管理とは、それはそれは大変でございましょうなぁ。拙者は前田慶次郎利益。いまや一介の浪人のようなものでござる」

「存じ上げております。貴方様がその強靭な肉体と、熱く滾る魂で数多の戦場で武勇を発揮したことを」

「おぉ、それは有り難いことでござる。されどこの身は病に侵され、あとは死を待つのみ。見てくだされ、この枯れ枝の様な腕、を……」


 そう言いながら袖をまくって自分の腕を見せる慶次。

 しかし現れたのは、いまにも折れてしまいそうな枯れ枝の腕ではなく、かつて朱槍を存分に振り回していた時にあった、女性の腰ほどにもなる図太く、逞しい腕であった。


「こ、こいつは……」

「貴方様には、これよりアンドアの世界に行って頂く事になります。それに際し、貴方様の人生の最盛期の姿に戻っていただきました。それで、アンドアでは……」


 アルテミシアが説明しているにも関わらず、慶次はそれらを話半分に聞き流していた。いや、正確には、話を聞くどころではないというのが正しい。


 もはや朽ち果てるだけだった自分の身体が、この様な力溢れる姿に戻るとは。見よ、この腹の奥底から湧き出る活力の胎動を、と。


 ただ、そうなってくると、なんとも気になるのは自身の下半身である。

 歳のせいか、晩年は役立たずになってしまっていた半身。もし、体力なども昔に戻っているのであれば……。


「……と、言うわけなのです。ですから、前田様にはこれより三つの女神の力、『チート』を……」

「おおおぉお!!」

「ひゃっ!? な、なんでしょうか? まさか、身体になにか不具合でも……」

「こいつを見てくだされ!」


 慶次はいそいそと袴と褌を剥ぎ取ると、自身のいきり立つモノを見せつけた。

 突然の事に、陸に打ち上げられた魚の様に口をパクパクとさせるアルテミシア。


「こいつは凄い! まるで本当にあの頃に戻ったようじゃ! アルテミシア殿、本当に感謝致す!」


 勢いよく頭を下げる慶次。それと同時に、半身がぶるんっと揺れる。


「し、しし、しまってください! そんなモノ!」

「なんと! こやつをそんなモノ扱いするとは、男が萎えると言うものでございます。こいつは男にとっても女にとっても有り難いモノでござらんか!」

「そういう意味ではありませーん!」


 顔を真っ赤にして目を手で覆い隠しながらも、ちらちらと指の隙間から覗いてくるアルテミシア。

 その姿をみた慶次は、ピンっとくるものがあった。


(ははーん、アルテミシア殿は生娘であったか。これ程までに素晴らしい美しさがあるにも関わらず、それはなんと勿体のないこと! どれ、押してみるか)


「アルテミシア殿!」

「は、はい……」

「その、『ちーと』とやらも、金銀の褒美もいらぬ。それよりもだ……そなたの目的を達した暁には、是非ともアルテミシア殿を抱かせてはくれまいか?」

「……は、はぃ?」


 アルテミシアは慶次の言葉を理解できずにいた。

 勿論、『抱く』ということの意味ではない。流石にそこまで物を知らぬ訳ではなかったが、それが故に理解が出来なかった。

 女神の力というものは、とてつもなく強大である。一つでもあれば、人間界で不自由することなく生きられる程。

 それを今回は、勇者として召喚される為に三つも与えるというのだ。それこそ、その力を使えばどんな絶世の美女であっても抱き放題であるし、思うがままに人生を謳歌することが出来る。


「あの……女神の力があれば、私の様な者でなくとも……いえ、私よりも美しい女性を抱くことなど容易ですよ?」

「ほー? そうなのかね……」


 顎に指をおいて考え込む慶次。

 ようやく理解してくれたかと、アルテミシアがホッと胸を撫で下ろす。


「だが、アルテミシア殿は、そのアンドアとやらにはおらぬのだな?」

「え? えぇ、まぁ……私はここの狭間の世界の管理人なので……」

「ならば、意味がありませんなぁ。俺が抱きたいのはアルテミシア殿であって、有象無象の女ではない」 


 真剣な表情でアルテミシアを見つめながら、そう言い放つ慶次。

 アルテミシアも、その燃え盛る情熱の眼差しに思わずゴクリと唾を飲み込む。


「男が惚れた女に迫るは当然のこと。そいつを振る方便に『自分よりも』などと、悲しい事を言ってくださるな。俺は心底、アルテミシア殿が美しいと思うておるのだ!」


 アルテミシアに近寄りながら、笑みを浮かべる慶次。

 その笑顔はまるで悪戯がバレた時の様な、少し照れを含んだはにかみであり、勇猛果敢な慶次の姿やイメージとはまた違った魅力に溢れていた。


 いままでも、こうやって勇者召喚されてきた者の中には、言い寄ってくる者はあった。

 アルテミシアは女神の名を冠するに相応しい体つきであり、呼び出された者から視線を向けられる事など良くある話なのだ。だが、その者たちも女神が与える力の前では直ぐに興味を失うのだ。

 なので、女神の力を断ってまで抱かせて欲しいと言ってきたのは、慶次が初めてであった。


 ──断らなければ。

 アルテミシアは近づいてくる慶次を見て決心をする。

 が、にこやかな慶次の笑顔を見ていると、アルテミシアの中に迷いが生まれ始めていた。

 そこには、勝手に呼び出してしまった負い目もあったのかもしれないが、それ以上に慶次といういままで出会ったことのない『男』への興味が強くなってきていたのだ。


「さぁ、アルテミシア殿……」


 慶次が優しくアルテミシアの肩に手を置く。

 身の丈六尺五寸(197cm)を越える大男の慶次を見上げるアルテミシア。

 だが、その時。


 不幸にもその身長差が災いし、怒張した慶次の半身がアルテミシアの眼前に迫る形となってしまったのだ。


「イヤァーーッッ!!」


 雰囲気に流されそうになっていたアルテミシアも、流石のこれには正気を取り戻してしまった。

 慶次の予想通りアルテミシアは生娘であったし、ここまで間近に迫り来る男性のシンボルを見たことがなかった。

 パニックに陥ったアルテミシアは、咄嗟に平手で慶次の右頬を打ってしまう。


「ぐわぁっ!?」


 この体格差であれば、平手打ちなど意味も成さない。


 それが、人間同士であれば。


 女神というものは、そもそも人間の尺度で測れるものではなく、その力すらも見た目とはかけ離れたものである。


 強烈な女神の一撃(びんた)を食らい、吹き飛ぶ慶次。

 その飛んでいった先には、巨大な穴があった。


「あっ! いけない!」

「おわぁ!? お、ああああぁぁぁぁぁ……」


 そのままスポンッと穴に飛び込んでしまう慶次。

 残される慶次が着用していた袴と褌。

 穴の行き先は、これから勇者として召喚されるべき場所は異世界アンドアであった。


「ど、どうしましょう……い、急いで地上の神殿に神託を送らないと!」


 慌てるアルテミシアは大きな鏡を取りだし、何処かへ連絡をするのであった。



 一方、穴に落ちた慶次はと言うと。


「あいっ、ててて……うーん、良い一撃であった。しかし、可憐なる姿にあの気の強さ。素晴らしいではないか! うん、惚れた! なんとしても、アルテミシア殿を抱きたいものだ! ……っと、ここは何処だ?」


 眩しさに天を仰げば、遠くの彼方まで広がる蒼天と、ゆったりと流れる白い雲。そして、鼻腔をくすぐる土の臭いに、慶次は辺りを見渡す。

 だが、そこにあるのはただただ遥か地平線まで続く草原と、


「あ、貴方は誰ですか?」


 そして、一人の異形の娘であった。

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