表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

其の二 樹海の怪鳥


「──あなたはキビの実から粉を取り、よくこねて団子を作りなさい。その作り方は次のとおりである──」


「──ただし、団子は日本一でなければならない──」


                            ──ある男の言

 大猿から得た新たな神通力──

 それはやはりというか予想どおりというか、姿変えの変身術へんしんじゅつであった。


 さすがは長年人間に化け、たくさんの小猿どもを従えていただけのことはある。

 早速、猿の言葉で呪言じゅごんを唱え、化けようとするが──あまり上手くゆかぬ。


 苦心して全身を変えようとするも、躰を女にしたり、背丈をわらべのようにはどうしてもできない。せいぜいが、顔の作りをいじるくらいが限界である。


 猿語の発音が下手なのか?

 あるいは肝が未だ己の躰の一部になっていないからか──


 なんにしても、剛力無双ごうりきむそうを求める桃次郎ももじろうには、なんとも期待外れな力であった。



 屋根の崩れた社の先、ごつごつとした岩山を越えて進んだ桃次郎ももじろうは、やがて失敗したと思った。広がっていたのは深い森だが、なんとも方角が読みづらいのだ。


 辺りにはナラの林やクスノキの巨木が伸び広がり、陽の光もたいして届かない。そこに地から湧いたような濃い霧が立ち込めている。空気は酷く冷たい。こんなときは下手に動くとロクなことにならないだろう。


 気はすすまぬが、野宿ソロキャンでもするか──


「──お──か?」


 ふいに、人の声がした。

 桃次郎ももじろうは息を殺すと、木の陰へと身を隠す。


 人の言葉だからといって安心はできぬ。

 カタコトくらいならば、どんな低級な鬼、もののけにも話すことはできる。

 また、実際人間だったとしても、それはそれで厄介だ。


 というのも桃次郎ももじろうは、各所に人相書きが回るほどのお尋ね者。

 たしか首にかかった懸賞金は、金の粒玉が二十だったか、三十だったか──


「──なあ、さっきの見たか、おい?」


 足音と共に、声が近付いて来た。

 音の数からして──三人。

 やがて霧の奥から急に物質化でもしたみたいに、影が現れる。


「──いや。おらは見てねえ」

「そうだとも。こんな霧じゃ、なんも見える訳ねえよ」

「疑うのか? 本当に居たんだ! 大きな黒いもんが──」


 影たちはさらに輪郭をはっきりさせ、桃次郎ももじろうの横を通り過ぎた。格好からして近隣の猟師だろう。

 暖かそうな毛皮のコート、角ばった菅笠すげがさを被り、足にはなんと藁の長靴ブーツも履いている。矢筒は背中に、半弓はんきゅうは肩と脇の間に挟まれていた。


 ──()()()()()()()


 桃次郎ももじろうの躰は七尺(約2.1m)ある。

 姿を見られたのだとしたら面白くない。

 彼らについて里に下りようかと考えていたが、やはりここは距離を──


「──ほら、見ろ! あの上だ!」


 猟師の一人が叫んだ。

 その言葉を覆い隠すように、頭上の木々がざわめき、遥かな霧の奥が妖しく動いた。


 さわああああ。


 まるで通り雨みたいな音が降り注いだ。

「ぎゃ!」「ぐわッ!」

 続く猟師たちの絶叫と、地に伏せる音。

 木に身を寄せていた桃次郎ももじろうのすぐ頭の横に、カッと何かが突き立った。


 睨むように目で追うと──羽根だ。

 それも、波紋の浮いた短刀のような色をした──


「──ひいッ。し、死んじまったあ!」

 山道の方から声。目を転じると、たった一人生き残った猟師が腰を抜かしている。

 少しの間、迷いがあった。

 助けたところで何の得にもならぬ──


「ええい、立て! 隠れるんだ!」

 結局、桃次郎ももじろうは道へと飛び出した。


「ひえええ! ()()()()()()!」


 立ち上がったは良いものの、七尺の男を目にした猟師は駆け出した。

「止まれ、馬鹿やろう!」

 捕まえようとするも、だからこそ余計に逃げる。


 と、そこに再び、通り雨の音。


 桃次郎の肩に背に、ざくざくと鋭い痛みが幾つも走る。

「チッ!」跳ねるように、木の裏へ逃げ帰った。


「──う、ぎゃあッ」


 山道の中ほどで、さっきの猟師がうつ伏せに倒れる。

 その背中には──鋭い羽根が無数に屹立きつりつしていた。


 痛みを堪えながら、腕をまわして肩の羽根を握る。

 恐ろしいことに、繊維状の羽枝うしもまるで尖った針金のよう。

 手の皮にぶちぶちと刺さり、唇が震えるほど痛い。


「──クソ、があッ!」


 目いっぱいに引き抜くと、さらに恐ろしいことが解った。

 簡単に取り出せないよう、刃先にやじりのような返しがついていたのだ。


「──絶対、殺す」


 二本目に手を伸ばしながら、桃次郎ももじろうは呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ