ヒトダケ
私は菌類学者、西の大陸の奥地にある山と谷が連なる複雑な地形で、1年中霧が立ち込めジメジメとした湿地帯にのみ生息する茸を求めて此の地に来た。
その茸は人の遺体の脳に寄生して等身大の大きさになり、傘の下に寄生した遺体の顔が浮き出てくると動きだすという。
動き出した茸は遺体の記憶を辿り人里に下りてきて、遺体の家族が茸と気が付かずに抱きつくと抱きついた者の身体に胞子を寄生させる。
生きた人の身体に寄生した胞子は、今度は生きている人の身体を養分にして大きくなっていく。
そのため昔は此の茸により幾つかの集落が消滅したらしい。
だから今では殺人茸として見つけ次第焼却されるため、その生態は殆ど研究されていないのだ。
殺人茸の事を此の地に比較的近い街の大学や研究所で調べていた時に、此の地に旅客機が墜落して多数の死者が出たと知る。
遺体の回収が行われているが、旅客機に搭乗していた乗員乗客のうちの三分の一の遺体は広大な山や谷に散らばったらしく、未だ発見されていないらしい。
だから見つからなかった遺体に寄生して殺人茸が出現すると思い、捜索活動中の軍のヘリコプターのパイロットを買収して此の地に来た。
その殺人茸が私の100メートル程前方をフラフラと里に向けて歩んでいる。
私はもしかしたら殺人茸が人に胞子を寄生させるところが見れるかも知れないと、その茸の後をつけていた。
後をつけていた茸の前方に数十人程の人たちが現れたと思ったら、茸に油が掛けられ火が放たれる。
茸に火を付けた人たちの中の1人が私の方を指差す。
だから生きている人だと分かるように草むらから出て彼らに手を振った。
それなのに、近寄って来た人たちに油を掛けられ火を付けられる。
火を付けられたら、私が人じゃ無いって事を思い出した。
私を乗せた山間を縫うように飛行していたヘリコプターは、霧で隠れていた崖に接触して谷底に墜落。
墜落する途中、激しくスピンするヘリコプターから私は放り出されたのだ。
放り出されて落ちたところが偶々ジメジメとした湿地帯だった為に、死んだ私の身体に殺人茸と言われる人茸が寄生して等身大の大きさになり、動き出したのが今燃やされている私なのだと。