シンダヤマ?
俺は長期休みなど、時間が取れる時は
地元の友達とLINEグループで連絡を取り
ちょっとした飲み会を催している。
小学生時代からの男女問わない幼なじみ
俺たち団塊ジュニア世代の仲間は多い!
グループ自体は10人を超える。
ただ大体飲み会自体に集まるのは
いつも5、6人程度・・・
でも、そのメンバーはいつも決まった
人ではないので、グループ全員に
飲み会で1度は会った事があった。
しかし、今回俺たちは諸事情により、
集まる事は出来ない状態だった。
仕方ないと諦めていたそんな中、
グループの1人が今流行りの
[オンライン飲み会]をしようと言い出し、
その企画に俺と他2人は乗る事にした。
俺は妻に事情を説明し、
夜9時前・・・
自分の部屋に酒やツマミを用意して、
LINEを使った飲み会を準備した。
♦️
夜9時、画面にメンバーが揃うと同時に
[オンライン飲み会]はスタートした。
最近の近況、当時の仲間の様子、
そんな話をしている中、
この飲み会を企画した
あいつが余り発言をしない事が
気になって、俺は話しかける・・・
「んっ?、今回お前の企画なのに
静かだなぁ・・・どうした?」
するとスマホ画面に映る
あいつが話始めた・・・
「なぁ・・・
お前ら[死んだ山]って覚えてるか?」
俺たちに問いかける。
[死んだ山]・・・俺たちが小学生の頃、
遊んだ場所の1つ・・・
実際[山]と言ってはいるが平坦な森・・・
俺たちの地域だけなのかは解らないが、
ある程度の大きさの森を俺たちは
[山]と呼んだりしていた。
仲間の1人が発言する。
「あぁ、あの山ね。何で[死んだ山]なんて
俺たち呼んでたんだろうなぁ・・・」
そう、大人になった俺たちには解る。
おそらくこの[死んだ山]なる森は
元々名前などなく、当時の子供たちが
勝手にそう呼び始めたものなのだろうと思った。
子供はインパクトのある名前を
適当に付けるのが大好きだ。
そこにはたいした意味なんてない。
ただ暗くて怖いから・・・
そんな理由だったのかもしれない。
そんな子供だった自分達を思いだし、
今日の酒のツマミにする、
そんなはずだった・・・が
あいつの次の一言は、
そんな話にはしてくれなかった・・・
「あの山の名前、本当に[死んだ山]って
言うんだってさ・・・」
予想外の言葉に俺、いや俺たちは
困惑する、そんな中あいつは話を続ける。
「まさか・・・昔あんな事があったなんて
子供だったな俺たち、知らずにあそこで、
[かくれんぼ]したり、[秘密基地]作ったり
してたんだぜ、まったく・・・」
ここまで聞けばわかる。名前の由来を
こいつは何か知っているのだと、
聞き出そうと思ったが、言わずとも
あいつは話し続ける。
「[死んだ山]って名前・・・あれな、
戦後しばらくして呼ばれるように
なったらしい・・・
当時は戦後の食糧難で俺らの地元辺りは
雑木林だらけだった土地を開墾して
手当たり次第に畑にしたそうだ、
思いだして見て欲しいんだけど、
あの[死んだ山]の周りってみんな畑で
あそこだけポツンと森になってただろ?」
確かに・・・
[死んだ山]の広さは・・・千坪位だろうか
その回りには畑や果樹園が広がっている。
俺たちにして見れば貴重な遊び場とは
なったのだが・・・
俺たちの表情を確認して理解したと見たのか、
あいつは話を進める。
「それで当時、あの[死んだ山]の件で地域で揉め事があったらしいんだ・・・
あの森に住み着いた野性動物たちが
折角育てた野菜や果実を
荒らしていたらしいんだ。
それで畑の所有者達はあの森の地権者に
森をちゃんと管理するようにと
注意しようとしてたんだ。
でも、あの森の地権者は
東京の人らしいんだけど、
全然連絡が取れなくて困ったそうだ・・・
それで畑の所有者達は代表者を決めて
代表が東京の地権者の家に直談判に
向かったそうだ。
でも、地権者は不在で失意のまま地元に
帰ったそうだ、そしたら・・・
あの出来事が起こった・・・」
あの出来事、それが[死んだ山]の由来・・・
戦後と言う特殊な状況、田舎における
[集団心理]の怖さ、そしてその名前は
[死んだ山]・・・
恐ろしい[惨劇]が容易に想像出来る。
そんな[惨劇]の場の中で俺たちは
無邪気にはしゃいで遊んで居たのかと・・
スマホの向こう側の俺以外の2人も
俺と同じ気持ちのようだ。
眉を潜め固唾を飲み
次にいい放たれる[惨劇]の正体に
身構えながら受け入れる準備をしている。
そしてあいつは話し出す・・・
しかし、その内容は
俺たちの想像を遥かに越えていた。
「失意のまま帰った畑の所有者の代表は
相当頭にきたのか[死んだ山]の登記書を
丸めてぶん投げたらしい。
それをその代表の子供が拾って
その登記書を開いてこう言ったそうだ。
『しんだ!?』って・・・
この代表は意味がわからず
もう一度登記書を見て
それを理解したそうだ。
この森の地権者の名前は・・・
[新田]![にった]
でもその子供は
[新田]![しんだ]
そう読んだんだって、
それが面白くてこの畑の所有者の代表は
その呼び方を広げたそうだ。
[しんだの山]・・[しんだ山]・・[死んだ山]
ちなみにこの、
畑の所有者の代表は・・・
俺のじいちゃん!
『しんだ!?』って呟いたやつは
俺の親父だ!
そう言う話!・・・」
その時・・
俺・・・いや俺たちは、
こう思った・・・
([惨劇]・・地元帰ったら・・[惨劇]!!)
と・・・