社会資源は宝です
~アリス視点~
迷宮の入り口、第一歩
「……ついに入ってしまいましたね」
アリス・エンフィールドは、迷宮の入口から一歩踏み出し、辺りを見渡した。
90の迷宮――未踏破の神秘に満ちた洞窟。
石造りのアーチをくぐると、すぐに湿った空気 が頬を撫でた。
洞窟特有の冷たさが肌に伝わり、足元の石床は薄い苔に覆われている。
聞こえるのは、遠くから響く水滴の音と、かすかな人々のざわめき。
「思ったより……賑やかですね?」
アリスは驚いた。
迷宮といえば、危険と隣り合わせの場所。
もっと荒々しく、殺伐とした雰囲気を想像していたが――
実際の1階は、まるで市場のような活気に満ちていた。
90の迷宮とは?
90の迷宮は、全4階層で構成されている。
通常の迷宮とは異なり、「上へ登っていく」形式 になっており、
内部はまさにアリの巣のような洞窟構造 をしている。
1階は広大な空間になっており、比較的安全な階層 であるため、
多くの冒険者が滞在し、ここを拠点に迷宮探索を進めている。
さらに、1階には特別な制度が設けられていた。
・商人や売店が営業できる。
・一部の業者が宿泊スペースを経営している。
・夜は街に戻らず、ここで休む冒険者も多い。
つまり、90の迷宮1階は、単なる危険なダンジョンではなく、1つの小さな経済圏として機能している のだ。
迷宮内の市場
「うわぁ……思った以上に整備されていますね」
アリスは、公務員としての職業意識が働き、思わず観察モードに入る。
木製の屋台 が並び、ポーションや保存食 を売る商人たちが賑やかに客引きをしている。
鍛冶屋の出張店舗 もあり、冒険者が剣の刃を研いでもらっていた。
「お嬢さん、ポーションはいらないかい? 今なら2本買うと1本おまけだよ!」
「えっ!? い、いえ、私は……!」
「ねぇねぇ、そこのお姉さん、特製の迷宮パン はどう? 保存食として最適、今ならハーブ入りだよ!」
「ええっと……迷宮パンって、保存食なんですね?」
アリスは思わず興味を引かれ、パンを一つ手に取る。
「そりゃあね! 迷宮に長くいるなら、持っておくといいよ!
2階までなら食料の調達もできるけど、それ以上登ると補給が難しくなるからね!」
「なるほど……」
(これは行政的にも面白いですね……!)
迷宮が単なるモンスターとの戦場ではなく、
人々の生活に溶け込んでいることに、アリスは新鮮な驚きを覚えた。
迷宮の宿泊施設
さらに進むと、洞窟の壁際に、小さな看板のかかった入り口 を見つけた。
「宿泊所『アリの隠れ家』」
店の前では、鎧を脱いだ冒険者たちが、軽い酒盛りをしている。
洞窟の壁にできた自然な行き止まりの空間を宿泊施設として利用している らしい。
「へぇ……1階で泊まれるんですね」
「そうよ。ここで夜を過ごして、朝から探索に向かう冒険者も多いわ」
リンコが言いながら、店の前を通り過ぎる。
「洞窟に泊まるって、なんだかロマンがありますね」
「ロマンっていうか、実用的なだけだけどね」
確かに、街まで戻る手間を考えれば、迷宮内に宿泊拠点を作るのは理に適っている。
「というか、あんまりここに長居してる場合じゃないよ、私たち、正当な方法で入ったわけじゃないし、いつ公安が追ってくるかもしれない」
「ですね・・少し進みながら、聞き込みをしていきましょう」