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クレーム処理はお任せください!

迷宮管理部 冒険者支援課――それは、迷宮大国タイア王国の各自治体に設置された、迷宮と冒険者の管理を担う役所である。

 迷宮への出入りの許可、迷宮資源の管理、迷宮関連のトラブル処理……その業務内容は多岐にわたる。


 そして、ここに一人の新人職員がいた。


 「……さて、本日のお問い合わせ内容はっと」


 アリス・エンフィールドは、机に山積みの書類に目を通しながら、静かに眼鏡を押し上げた。

 黒髪のボブヘアを揺らしながら、机の上のペンを器用に転がし、慣れた手つきで今日の業務を整理する。


 「まずは……迷宮探索許可証の更新が14件、登録審査が8件、新規認可申請が3件。冒険者ギルドとの連携案件が2件、そして……クレームが6件、ですか」


 アリスはふっとため息をついた。


 迷宮管理部に寄せられる問い合わせの大半は、迷宮利用に関する「苦情」だった。

 そして今日も――


 「ちょっと! どういうことですか!」

 「なぜうちの息子の迷宮探索が認可されないんですか!」

 「隣の町では許可が出たって聞いたぞ!」


 窓口の前には、朝から冒険者や住民たちが列を作り、怒りや困惑の表情を浮かべている。


 「……規則では、迷宮探索の許可は 公的ギルドに所属し、一定の訓練を受けた者 にしか発行されません」

 アリスは淡々と説明しながら、手元の書類をめくる。

 「お申し込みいただいた息子さんですが、冒険者ギルド未登録のため、認可要件を満たしておりません」


 「でも! 隣の町では未登録でも許可が出たって……」

 「……規則では、そのような事例は存在しないはずですが?」

 アリスは冷静に回答しつつ、窓口の端末で確認する。

 「隣の自治体は“自主探索支援制度”を導入していますが、あれは 訓練を受けた者限定 です。お客様の息子さんは……戦闘経験なし、探索経験なし、魔法適性なし ですね」


 「…………」

 「…………」

 「…………」


 沈黙。


 「ほ、ほら! でも才能はあるんだ! いきなり強くなることも……!」

 「そうですね。才能が開花する可能性は否定できませんが……規則では、それを基準とすることはできません」


 「~~~~!! もういい!!」


 バンッ! と窓口のカウンターが叩かれ、男は怒りながら立ち去った。


 「……ふう」


 何度目か分からないクレーム対応に、アリスは肩を落とす。


 この仕事を始めて数ヶ月。

 冒険者志望者やその家族、あるいは地元の商人たちが、迷宮利用に関して様々な要求を突きつけてくる。


 だが、アリスにとってはどんなケースも規則に沿って処理するだけのこと だった。

 感情に流されず、公正に判断し、適切な対応をする。

 それが公務員というものだ。


 (私の判断は間違っていない……規則では、認可できないのだから)


 今日もまた、淡々と業務をこなしていく。


 しかし、この日アリスが下した「規則に沿った判断」は、後に彼女自身を迷宮へと向かわせるきっかけとなるのだった――。



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