第8章 ありがとう
真奈と秀二が正式に付き合い始め、さらに抗がん剤治療で彼女の様態は良くなっていったのだが、それはつかの間の安息であった。
「神のみぞ知る」彼女の運命……
時は無情にも流れいく。
真奈が入院してから5ヶ月が過ぎ、新たな年を迎えた。
「さむ~」
と言って、秀二が入室してきた。
「どう、真奈ちゃん、調子のほうは?」
「う、うん、まあまあかな」
「そうか。良かった」
だが、真奈の顔には笑顔がなかった。
「どうしたの?」
「これが最後の正月……」
そう彼女は小声で呟いた。
「な、何を言っているんだい。真奈ちゃんの容態は良くなってきているじゃん」
その言葉に彼女は微笑んだ。
悲しみを胸にしまい彼女は、秀二に心配させないように微笑んだのだ。
「来月は秀二君の誕生日ね」
「ああ~、もう25だよ。もう年は取りたくないよ~」
「でも年を取るということは生きている証よ」
「そ、そうだね」
「クリスマスには何もあげれなかったから、誕生日には何かプレゼントしたいな~」
「クリスマスの時には君がいた。それが最高のプレゼントだよ。だから、誕生日にも同じように君がいてくれることが最高のプレゼントさ」
「ありがとう秀二くん」
「僕のほうこそ」
そう言って二人はキスをした。
「真奈ちゃん」
「なあに」
「俺、北斗さんのところの工場に就職するよ。そして君が元気に退院したら、その……けっ、結婚してほしい」
その言葉を聞いて真奈は涙が流れた。
もちろん嬉し泣きだ。
そして彼女は「はい」と返事を返した。
秀二は真奈が容態が良くなってきているので、医者の言う事などあてにはならない……
いや、もしかしたら奇跡というものが本当に起きるんだと心から思った。
だが奇跡は起きなかった。
2月に入ってから彼女の容態は悪化した。
医者が真奈の両親に「身内の方を呼んでください」とまで言ってきた。
「何で……俺の誕生日には、真奈ちゃん、いてくれると言ったよね。そして退院したら結婚してくれると約束したよね。なのに、何で……」
秀二は彼女の近くでそう呟いた。
だが、彼女は何も答えてはくれなかった。
すでに真奈の意識はない。
だが、彼女は今でも病気と闘っていた。
「君はこれから看護師になって多くの患者のために……早乙女さんのような看護師になるんだろう。だから生きてくれ」
その姿を早乙女が静かに見つめていた。
2月22日……
秀二の25歳の誕生日の日
朝早くから真奈の伯父からすぐ来てほしいと連絡が来た。
秀二は急いで病院に行った。
「今日でお別れなんて言わないでよ」
そう言いながら車を運転し、病院に向かった。
だが、彼が病院に着いたとき、真奈の病室からたくさんの泣き声が聞こえた。
部屋に入ると永久の眠りについた真奈の姿が……
今にも目を覚ましそうな顔をしていた。
秀二は涙をこらえた。
「俺のようなチンピラが生きて、何で君みたいな優しい人が……」
そんな秀二に真奈の母親が泣きながら「秀二くん、ありがとうね」と言って来た。
その言葉に秀二は何も言葉が出てこなかった。
真奈は秀二の誕生日に亡くなった。
彼女は秀二の誕生日プレゼントを渡すために頑張って、秀二の誕生日まで生きたのであろう。
最後の最後まで彼女は病気と戦い、そして華のように散って逝った。
まだ24歳という若さで空に羽ばたいてしまった。
河村秀二というキャラのモデルは僕なんですがね。
でも彼がうらやましいです。
それはこんな恋愛したことない!
好きだった看護師にキスしてもらった事もない!
という事です。