第7章 真実
真奈が入院してから2ヶ月が過ぎようとしていた。
そして彼女の担当医は真奈の外出許可を出した。
残り少ない人生、彼女に心残りのないように1日1日過してほしいと誰もが思ったからだ。
朝10時……
秀二が病室に来たころ、看護師の早乙女がヘパリンと呼ばれる薬で、点滴をしていなくても血液が逆流しないように管をロックしていた。
「久々に自由になれるわ」
「今日は一日中俺は付き合うよ」
「じゃあ、如月さん消灯前には戻ってきてね」
「はい」
「秀二くん後はよろしくね」
「任せなさい」
秀二もデートが出来るということでご機嫌だ。
そして秀二の安い軽自動車で二人は出かけた。
まず1時間くらいドライブをし、その後カラオケに行き、そしてゲームセンターへ行った。
だが楽しい時間は早く過ぎてしまうものだ。
気がつけば夕方の5時を回っていた。
「次はどこ行こうか?」
と言って、彼女のほうを見ると、さっきまで笑顔だったのが今は悲しい顔をしていた。
「どうかしたの?痛いの?」
「ううん、違うの」
「じゃ、じゃあ、どうしたの?まだ時間はあるよ」
すると彼女は秀二のほうを見てこう言った。
「抱いてください」
「えっ?」
秀二は驚いた。
「車の中でもどこでもいいんです」
彼女は本気だった。
「ま、真奈ちゃん、それは別に今日じゃなくても」
「私には時間がないんです」
「えっ?時間がないって、確かにもうすぐ病院に戻らねばいかんが、まだ大丈夫だよ」
「そうじゃないんです」
「じゃ、じゃあ何の時間がないの?」
「知っているんでしょう。私の命が後どれだけか」
「な、何を」
「ごまかしてもダメです」
「……」
「死ぬのは怖い……でも、だからこそ真実を知りたいんです」
秀二はこぶしを強く握り締めた。
自分にはどうする事もできない彼女の悲しい真実に自分自身が許せないのであろう。
しばらく秀二は黙り込んだ。
何を言えばいいのか分からないのだ。
そして、彼は彼女にこう言った。
「真奈ちゃん、例えどんことがあっても、自殺なんかしないでよ。最後まで病気と闘ってほしい……奇跡なんて俺は病気してから信じなくなったが、でも今は奇跡が起きると信じたい。だから……」
「ありがとう秀二くん」
「……」
「それで、抱いてくださるんですか?」
「……一つ聴いていいかい」
「はい」
「やけでそんなことを言っているのなら、悪いが僕は断る。僕はチンピラで遊び人だが女性の経験はないんで……だから、その……初めての人とはお互いちゃんとした気分で」
「秀二さんは私のことが嫌いですか?」
「……い、今なら言える。僕は真奈ちゃんが好きです。君が彼女だったらな~といつも思う。でも……」
「私も同じよ。秀二さん自分ではチンピラだとか言っているけど、でもすごく優しい人だと思うの」
「はあ~」
「もし今日の相手が秀二さんじゃなければ抱いてなんて言わない。私もあなたが好きだから言ったんです」
秀二は頭をかき、大きく息をはいた。
「分かった」
二人はそのまま近くのホテルへ向かった。
そして車の中で真奈は秀二にこう言った。
「実は私も初めてなの」
「ホント?モテそうなのに」
「確かにモテたわ」
そういったときの彼女はさっきまで悲しい顔をした彼女ではなく、いつもの優しい笑顔の彼女だった。
「秀二くんだってモテたでしょう」
「全然、アニメにときめく人間なんで、今まで付き合ったことないのよ僕」
「ホント?」
「本当」
「もてそうなのに」
「いいんですよ。もてなくても……い、今は君がいるから」
その言葉に彼女はクスッと笑った。
「私ね今まで、人に肌を見せるのが嫌だったの」
「嫌いな男性だったから?」
「違うわ。中には好きな人もいたわ。でも私お腹に手術の跡があるでしょう。それを見られるのが嫌だったの。でも秀二くんは同じように跡があるから平気かな」
「僕は男の勲章だと思っているけどね」
「男性と女性とじゃあ違うの」
「そうですね」
そしてこの日、二人は始めて体と心が一つとなった。
心と体に消えぬ傷を持った者同士が、本気で愛し始めたのだ。




