第6章 生きる目標
秀二が売店から真奈の病室へ戻ると、真奈と早乙女が秀二の作った「祈り」のCDを聴いていた。
「秀二くん、この曲いい曲じゃない。一枚買うわ。いくら?」
「早乙女さんからはもらえませんよ。北斗さんからなら貰うけど」
「この曲、今すごく落ち込んでいる子に聴かせたいの」
「へ~、男?女?病名は?」
「病名までは言えないけど内気くんという男の子よ。隣の病室にいるわ」
「どれ、挨拶に行ってこようかな」
秀二は「祈り」のCDを持って、一人隣の病室に行った。
だが、部屋には50代くらいの男性と80代くらいの男性しかいなかった。
秀二はその辺を歩き回り、非常階段の近くでイスに座りこの世の終わりみたいな顔をした青年を見つけた。
「あっ、スイマセンがね。あなた705室の内気さんじゃないですか?」
青年は一瞬驚き、「はい」と答えた。
「僕は、河村秀二。今は入院していないが病院とは長い付き合いで、早乙女さんから君の事を紹介された」
「そうですか」
「あ~、なんか悩みでもあるんじゃない?」
その言葉に内気はため息を吐いた。
「ま、まあ、入院していると退屈だよね」
何とか励まそうとする秀二。
「あっ、年はいくつ?俺は24だけど」
「21です」
と力のない声で答えた。
「もしかしてクローン病?」
「潰瘍性大腸炎」
とまた力のない声で答えた。
これでは会話が続かないと思う秀二だった。
「潰瘍性か~まあ、大変だけど元気だしなよ」
「スイマセンが、一人にしてもらえます」
「えっ!あっ、はいはい……じゃあまた」
そう言って立ち去ろうとした。
「あっ、そうだ。このCDよかったら聴いて、僕が作ったんだ。亡くなった友たちのために」
CDを置いて秀二は立ち去った。
その後秀二は夕方過ぎまで彼女の近くにいた。
それから3日後の昼過ぎ……
真奈の部屋には母親が来ていた。
「今日は」
「いつも悪いね」
「いや~」
「じゃあ、母さん帰るけど、またほしいものがある時は電話して」
「うん」
「後はお願いね」
「はい」
彼女の母は気を使い自宅へ帰っていった。
「いや~、真奈ちゃん、ここ3日間俺も調子悪くてこれなかったよ」
「大丈夫?」
「ああ、昨日の夜は代行運転のバイトもしてきたし、大丈夫だよ」
3日ぶりの二人だけの時間だ。
そして2時間くらいの時が過ぎた。
「ジュース買に行くけど、何かほしい物はない?」
「じゃあ、飴をお願いしようかな」
彼女はクローン病患者でもある。
そのため絶食中に口に出きる物といえば、ジュースか飴、ガムくらいだ。
部屋を出て売店へ行く途中、また非常階段の近くで内気が座っていた。
しかも彼は泣いていた。
「どうした?」
「もう嫌だ」
「何が嫌なんだ?」
「生きていくことにさ」
「じゃあ、死ねよ」
険しい顔で彼はそういった。
「うっ……」
「世の中には生きたくても生きられない人がいるんだ。俺は入院中にそのことを思い知らされた。だから、あのCDを作って命の大切さを伝えようと思ったんだ」
内気はゆっくりと秀二のほうを見た。
「えっと……かわ……あっ」
「河村秀二だ」
「河村さん、僕怖いんだ。この病気になったばかりだし」
「分かるよ。その気持ち。俺だって常に痛みと恐怖との戦いだ。だが、それでも生きたいと思っている。あんたには生きる目標みたいなのがないのか?」
「生きる目標……」
「俺は格闘技や音楽、それに今は恋をしている。あんたの隣の部屋の女の子にね。アンタも何か見つければ、人生楽しくなるはずだ」
「は、はあ……そ、そうですね」
「まあ、チンピラの俺があまり偉そうなこと言えないんだが、ただ、アンタにも生きる目標を持ってほしい」
「ありがとうございます」
「病気は違うがお互い頑張ろう」
「はい」
その返事には今までなかった力強い返事だった。
病人が病人を励ましあう事で、お互いの励みになっていく。
いつかは内気も誰かを励ます男になっていく事だろうと秀二は思った。
You Tubeに「TRUE LOVE」や、本作でも出てきた曲「祈り」の弾き語りや自主制作CD-R「祈り」の音源(50秒だけ)も投稿しています。良かったら聴いてください。 You Tubeでクローン病生時で検索すれば見つかると思います。 http://www.youtube.com/user/luna34496 あと、ブログも見てくれると嬉しいです(^^