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第5章 悪意と悲劇

真奈は一通りの検査を終え、2週間が経過した。

検査の結果、小腸と大腸の付け根がひどく狭窄していた。

さらに胃カメラで悪性腫瘍が見付った。

このことは真奈と秀二は知らず、知っているのは看護師と医者、親と伯父と北斗だけだった。


喫茶ムーン


カラン

店に入ってきたのは秀二だ。


「いらっしゃい」

「マスターいつものアイスレモンティ」

「はい」

「ママさんも真奈さんもいないから一人で大変ですよね」

「ああ……まあ、今はアンタだけだからいいが、さっきは忙しかった」

秀二はマスターに負担をかけないように、水とお絞りは自分で用意した。


「お待ち同様」

そう言ってマスターは秀二の前に座った。

「アンタには言っといたほうがいいかな……」

「何を?」

「真奈の容態」

「聞きましたよ。狭窄がひどいって」

「それだけじゃないんだ」

「えっ?」

「胃カメラの検査で悪性の腫瘍が見付った。しかも他にも転移している」

それを聞いた秀二は言葉を失った。

「医者の話では長くて半年だそうだ」

「う、うそだ……」

「このことはアイツは知らない」

「そ、そんな……」

「秀二くん、最後までアイツと一緒にいてくれないか?」

「も、もちろんです……」


さすがにショックだったのだろう。

彼は悲しみを胸に仕舞い、真奈の見舞いに出かけた。


真里洲大学病院内科……


部屋に入る前に秀二は大きく深呼吸をし、入室した。


「どう?調子は?」

「うん、入院してからは激しい痛みはなくなったわ」

「そうか。まあ、俺も狭窄がひどいから同じだよ」

「そうね」

真奈が微笑んだ。

それはまるで天使の笑顔のようだ。

「あっ、そうそう、ついに出来たんだ」

「ホント!」

「ああ」

彼は亡くなった友たちのために「祈り」という曲を作詞、作曲し、それをCD-Rに収録したのだ。

「最近は自殺や他殺などが増えてきたからね~」

「ホントね」

「生きたくても生きられないものがいる。俺はそれを伝えたいがために、このデモCDを患者に無料で配ろうと思っている。まあ、健康人には200円くらいで売るつもり」

「そうなんだ」

「ビンボーだから俺……」

「ねえ聴かせて」

「あ、ああ」

彼女のラジカセにCDを入れ、秀二の作った曲が部屋中に流れた。

彼女は静かに曲を聴き、その顔を秀二は優しく見つめた。

そして曲が終わり彼女は笑顔で答えた。

「いいと思うわ。これを聞けば命の大切さが伝わるわよ」

「あ、ああ……」

真実を知った秀二にはこの曲はもはや真奈のためのレクイエムだと思ってしまった。

「俺、タバコ吸ってくるわ」

「あっ、今日から喫煙所は外になったわよ」

「知ってる。いずれ病院でタバコが吸えなくなる日が来るだろう」

「いい機会だから、止めたら?タバコなんて体によくないんだから」

「う、う~ん……そ、そうだね……よし!止めよう!」

「それがいいわ」

「あっ、ジュース買に売店に行って来るけど、何かほしい物ある?」

「特にないけど、そのまま喫煙所に行くつもりでしょ?」

「ま、まさか~」

そう言って秀二は部屋を出た。

そして少し歩いたところで立ち止まり、ポケットからタバコを取り出した。

「やっぱ、約束は守らないとなあ~」

本当は売店に行ったあと、喫煙所に行くつもりだったようだ。

秀二は、真奈の部屋に戻り、

「持っていると吸いたくなるから、これ伯父さんにでもあげてよ」

と、真奈にタバコを渡した。

「(秀二くん……)うん、分かったわ。その代わり頑張って禁煙してよ」

「ああ!」


再び彼は部屋を出て、売店に向かう途中、真奈の入院中の担当医と出会った。

この医者には秀二も入院中にお世話になった医者だ。


「先生、どうして真奈ちゃんが」

険しい顔で秀二は質問した。

「何でクローン病も悪性の癌も治せないんだ」

「河村くん、たとえ1パーセントしか可能性がなくても、我々は最後まで彼女を全力でみる。だから」

「……クソ!」

医者に悪意はない。

そのため怒りと悲しみにやりきれない思いの秀二だった。



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