第3章 運命の出会い
退院後、すぐに彼は「生きる目標」を見つけた。
弟が空手を学び始めたため、彼も空手の道場に入門したのだ。
さらに師匠である館長が音楽をやっていたため、他の兄弟弟子と共に館長に楽器を教えてもらうことになった。
格闘技と音楽、彼には十分すぎるほどの「生きる目標」だ。
だが、クローン病は完治したわけではない。
栄養剤を中心に生活をしていても、再発をしてしまい入退院を繰り返し、そのためにバイトも転々とする事になる。
さらに二度目のオペまで行なった。
発病してから3年経ったころには、髪を金髪に染め、ストレス発散のためにギャンブルにはまり、やめていた酒にも手を出すようになっていく。
完全に「生きる目標」を忘れた秀二だった。
さらに3年後……
秀二は兄弟子に呼ばれた。
兄弟子の名は神威北斗といい、年齢は29歳で木材工場に勤務している。
容姿はホストのようなイケメンで、なんとあの早乙女の婚約者だった男だ。
神威と早乙女は秀二が入門して半年後に無事結婚。
秀二は弟や館長、他の弟子たちと共に式に出席している。
もちろんキスの事は秀二と早乙女の二人だけの秘密のままだ。
喫茶ムーン……
この店の前で二人は待ち合わせの約束をしていた。
「秀二ここだ」
「あっ、押忍!北斗さん!今日は何の用ですか?」
「まあ、中に入れ」
「押忍!」
カランカラン
中に入ると、ヒゲを生やしたマスターとロングヘアーに少し茶色く染めて、優しい目をした可愛いウェイトレス、そして男性のお客が2名いた。
「いらっしゃいませ」
「この店は俺のなじみの店だ」
「はあ~」
「あれ?マスターこんなかわいい子、いつ雇ったの?」
「ああ、そいつは俺の姪だ。カミさんが腰悪くしてよ~それで学校が休みの間手伝いに来てもらったんだ」
「へ~」
「如月真奈です」
「あっ、どうも、北斗といいます」
「あっ、自分は河村秀二です」
「ご注文は?」
「ああ、アメリカン」
「僕はレモンティー」
「かしこまりました。アメリカンとレモンティーです」
「おい、可愛いな」
「えっ?北斗さんには奥さんがいるじゃないですか」
「でもお前あの子事気に入っただろう」
「な、なんですか!急に……」
「お前さあ、そんなんじゃ女出来ね~ぞ」
「彼女いない暦24年でいいんですよ。生涯童貞貫きます」
「お前な~まだ若いくせに、なんならソープでもおごってやろうか?」
「い、いいですよ。もしかして奥さんに内緒でそんなとこ行ってませんよね」
「当たり前だ。俺はカミさん一筋だから」
「ならいいですけど」
「お前、キスくらいはあるのか?」
その言葉を聞いたとき秀二はドキッとした。
「ま、まあ、キスは昔……そ、そんなことより用事って何です」
「お待たせしました」
「ありがとう。学生って事は21くらい?」
「24です。看護学校に行っていまして」
「へ~、じゃあ、将来看護婦になるのかい。うちのカミさんと同じだな」
「そうなんですか」
「まあ、大変らしいけど頑張ってね」
「はい」
「24……俺とタメか……しかも看護婦さんになるのか……」
「ああ?どうした?」
「いや、何でもないです」
「ああ、そうそう用事っていうのは、今度俺のダチが運転代行やるらしくって、お前、前のバイトやめただろう。だからやらないかな~と思って」
「ああ、やります。金なくて困っているんで」
「どうせギャンブルで消えるだろう」
「……」
「まあ、俺も若いころは馬鹿やってきた。だから心配なんだよ。お前を支えてくれるいい人を見つけろ」
二人が会話をしていた時に、ピー、ピーと北斗の携帯が鳴った。
「はい」
「いい人か……」
そう言って真奈のほうを見つめる秀二。
「うん、じゃあ今行く」
ピッ!
「悪い用事ができた。代行運転の事は伝えとく」
「あ、はい」
「金ここに置いとく釣りはやる。じゃあな」
「ありがとうございます」
北斗が店を出た後、秀二は彼女と何とか会話をしようと考えていた。
秀二にとって二度目の恋だ。
「す、すいません。紅茶のお代わりお願いします」
「はい」
「確かに可愛い」
その時だった。
彼女が急に強烈な痛みに襲われたのだ。
「ま、真奈!おい、大丈夫か?」
「真奈さん?」
「待っていろ。今救急車呼ぶから」
「く、薬を……」
「薬?カバンの中か?今もって来るから」
「(彼女も何かの病気と戦っているのか?)」
「持ってきたぞ。どれだ」
「(あの赤い薬は……まさか彼女も)」
「この粉薬か?」
「ち、違うわ」
「マスター、痛み止めはこれだよ」
「え?こ、これでいいのか?」
「う、うん……2錠」
彼女が痛み止めを飲んで間もなくしたら、救急車の到着した。
「救急車が来ました」
「ああ、店閉めなきゃ」
マスターはかなり焦っていた。
そんな姿を見ていた秀二は思い切ってこう言った。
「マスター、僕が変わりに付き添います」
「えっ?そうか。ワシも後から行くから頼むよ」
「掛かりつけの病院はありますか?」
「ま、真里洲大学病院……」
「(僕と同じ病院じゃないか)」
「では行きますので、付き添いの方乗ってください」
「あっ、はい」
真奈と秀二を乗せ、そして病院へと向かった。
真里洲大学病院緊急外来……
秀二は待合室でイスに座りこんでいた。
そして20分後……
真奈の伯父が到着した。
「看護婦さん真奈はどうなんですか?」
「今点滴を打って休んでいます」
さらに2時間が経過した。
そしてようやく真奈が治療室から出てきた。
「真奈大丈夫か?」
「とりあえず大丈夫。明日かかってほしいと言われたけど」
「そうか。叔父さん、父さんに電話しとくから……あっ、この兄ちゃんにも礼を言っとけよ」
「うん」
「大丈夫ですか?」
「はい、付き添いありがとうございます。薬に詳しいのですね」
「え?」
「だって痛み止め2種類あったのに、私のほしい薬をすぐに持ってきてくださったから」
「ロキソニンとソセゴン、あの場合強いほうを必要だと思ってソセゴンを渡しただけです」
「薬剤師の方ですか?」
「こんな金髪に染めた薬剤師はいませんよ」
「じゃあ?」
「赤い薬を見て、あなたがどんな病気か大体分かりました。ペンタサと呼ばれる炎症を抑える薬、まあ、リュウマチか、潰瘍性大腸炎……でなければクローン病ってとこですかね」
「まさか、あなたも」
「そう、クローン病患者です」
同じ病気を抱えた女性と出会ったが、この後、悲劇が待っているとはこのときの秀二には考えもしなかったことだろう。