第12章 再会
物語の中で格闘技を続けようと決心した秀二。
「主人公は女みたいな容姿だが強い。で、学んでいる格闘技は空手……いや、他にないか」
彼はそう言いながら、自宅にある漫画を含めた格闘技の本を読みあさった。
「そういえばガキの頃戸隠流の34代目宗家、初見良昭先生の弟子になって忍術を学びたいと思っていたな~よし、主人公は忍術を学んでいるという設定にしよう」
彼はない頭を絞らせ話を考え続けた。
「主人公の少年は、戦国時代、抜け忍となった忍びが追ってから身を守るために編み出した流儀を学ぶ……いや、抜け忍はやめよう」
そう言って再び格闘技関係の本を読む秀二。
「そうだ。天正伊賀の乱で生き延びた忍びの一人が編み出したという設定にしよう。あと、師匠は女性だな」
彼は夢中で話を考えた。
しばらくして今度は闘病記を読み始める。
「早乙女さんに返さなきゃ……」
秀二は明日にでも返しに行き、そして自暴自棄になっていたときに迷惑かけたことを詫びようと思った。
次の日
秀二は病院へ向かった。
あらかじめ、彼女が勤務しているか北斗からメールで情報も得ていた。
そして病院に着き、内科のナースステーションへ向かった。
「早乙女さん」
「あっ、秀二くん。主人から聞いているわ。でもその本はあなたにあげるつもりで、主人に渡したんだけど」
「えっ、いいんですか!」
「その本のおかげで、新たな生き方を見つけたんでしょう」
「はい」
「ならあなたが持っていたほうがいいわ」
「ありがとうございます……それと真奈ちゃんが亡くなってから、迷惑をかけてスイマセンでした」
「いいのよ。そんなこと」
その時、ナースステーションの前を、秀二と揉めたあの六十代の患者が通りすぎていった。
そして秀二は、あの時の事をこの人にも詫びなければと思った。
「あっ、こんにちは」
秀二の言葉に男性患者は立ち止まった。
「なんだ。お前さんかい」
「あ、あの時はスイマセンでした」
「お、おい、なんだ急に」
「あの時の自分は、病気に、自分に負けてそれで」
その言葉を聞いて男性患者は秀二の方を叩いてこう言った。
「もうええよ。わざわざ詫びてくれたんだ。もう水に流す」
「ありがとうございます」
「まあ、あの時より元気になってよかったな~」
「はい」
「お前さん若いんだ。病気に負けず頑張れよ」
「はい」
男性患者はそのまま自分の病室に戻っていった。
「早乙女さん、あの人あれからずっと入院していたんですか?」
「一度退院されたんだけど、先月入院されたの。まあ、あまり詳しくは教えられないけど」
「はあ~」
「それより偉いわ。ちゃんと謝るなんて」
「そんな……あっ、そういえば同じ部屋でしたが、名前知らないや」
「坂本武蔵さんよ」
「宮本武蔵みたいな名前ですね。あれ?」
秀二があの患者の名を聞いて何かを思い出した。
「まさか、そんな……」
「どうかしたの?」
「少林寺の先生」
「えっ?」
「あの人は僕のもう一人の武道の師匠ですよ」
「そうなの」
「こりゃいかん。ちゃんともう一度謝ってこなくては」
そう言って秀二は坂本の病室を探した。
「あっ、ここだな。失礼します」
そう言って入室した。
「おう、どうした」
「改めて詫びに来ました先生」
「もう水に流すといっただろう……ん?先生ってなんだよ」
「お忘れなのも無理はありません。自分も今気づきました」
「はあ?」
「河村秀二です」
「河村……」
「昔、父と兄と共に先生から少林寺拳法を教えてもらっていた者です」
「おお!お前さん、あの秀二か!スイミングに通うためうちの道場をやめた」
「はい、お久しぶりです」
「なんじゃあ。自分の元弟子だと気づいていたらもっと渇を入れたのに」
「はあ」
それから秀二は武蔵に、病気してからの事を話した。
「そうか。お前も苦労したんだな」
「はあ~」
「俺のように年取ったモンなら仕方がないが、まだ若いのにな~」
「本当にあの時はスイマセンでした」
「もういいから、お前が自分自身壊れるくらい、その女の子を愛していたんだろう」
「はい」
「それにしても、物語の中で格闘技を続けるとはいい心がけだ」
「ありがとうございます」
秀二は頭をかきながら照れ笑いした。
「しかしまだ子供だったお前が、こんなに大きくなって……いくつになった」
「もうすぐ26です」
「26か……俺も年を取るわけだ」
「先生、今道場は?」
「俺は隠居して今は息子の達磨に任せてある」
「達磨君とは懐かしい」
「アイツももう30だ」
「失礼ですが先生は何の病気なんですか?」
「知りたいか?」
「ス、スイマセン失礼な事を聞いて」
「お前さんの愛した娘さんと同じじゃ」
「えっ?」
「まあ、俺はいい年だ。後は時の流れに任せる」
「先生……」
「さて、少し休ませてくれないか」
「あっ、はい……また来ます」
「ああ、重蔵さんや秀一によろしく伝えてくれ」
「はい」
秀二が帰宅しようとしたとき、早乙女が頭を抑えて立ち止まっていた。
「早乙女さん」
「ん?もう帰るの?」
「はい。それより頭でも痛いんですか?」
「ちょっと風邪引いちゃったみたい」
「そうですか」
だが早乙女は知っていた。
自分の体がどうなっているのかを……
そして看護師から患者にならねばならないことも彼女は知っていた。